[完結]愛せないから白い結婚をしようと言われた伯爵夫人は白いモフモフの優しい愛に包まれる

くみたろう

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 みんなが静かに1点集中している。
 場所は甘い香りを漂わせるオーブンで、中身はプリンだ。
 そうだ、この世界では初めてのプリンか! とハッとした時、プリンは出来上がった。
 我先にと料理長がオーブンを開けて天板で火傷しないように慎重に取り出す。

「…………こ、れは」

 キラキラ輝く卵プリン。
 マリーは、見た目合格! と笑顔を浮かべた。
 後は舌触りや味、甘さだけど……と顎に手を当てると、料理長はプリンから目を離さずマリーに話しかけた。

「……奥様……これは」

「プリンというの。甘い食べものなんだけど、上手に出来たかしら」

 首を傾げて言うマリーに、ラーゼンの喉がなる。
 作業台の上にあるプリンを覗き見て鼻先を近付けるラーゼンの首を鷲掴むと、周りはヒッ! と息を飲んだ。

「だぁめ! 冷やさないといけないの」

 《……だめなのか》

 振り返りマリーを見るラーゼンの潤んだ目の破壊力が凄まじい。

 くっ……なにこの虎……可愛すぎないか……

 猛獣の可愛さに気付いたマリーは怯む。
 食べたい食べたいと周りをグルグルするラーゼンは擦り寄ったり太い尻尾を絡めてみたりとできる限りのお強請りをしていて、簡単に陥落しそうなマリーは手を握った。

「だ……だめよ! 美味しく食べるためにまて!!」

 そういうと、ピシリ! とお座りをして待てをした。

 …………虎なのに、待てしてくれるんだ

 思わず笑ったマリーは、手を伸ばして頭を撫でる。

「クッキーは焼きたてでも食べれるから、後でお茶にしましょうか」

 そのマリーのお誘いに喜んだラーゼンは尻尾を揺らしてマリーの手に頭を擦り寄せた。


 獣人とは、獣の姿をとるが趣味趣向は人間と変わりは無い。
 だからこそ、甘えて擦り寄る本能に近い行動が無意識に出ているのは心の底からその喜び甘えている証拠だ。
 強い種族であればあるほどに自制心が強い。
 だから、虎であるラーゼンが静かに言うことを聞いて待ち、偉いねと撫でるマリーの手に擦り寄る姿に料理人たちは驚いていた。

 そんな様子に全く気付いていないマリーは、自らの足元で絡まるラーゼンをよしよししながら、クッキーをオーブンに入れる。

 《時間かかる?》

「そんなにかからないわ」

 大きなオーブンだから、一気に全部焼けるだろう。
 マリーは片付けをしようと使った調理器具を持つと、料理人達が来て回収していった。

「……あ、ごめんなさいね」

「お気になさらず奥様」

 にこやかな笑みを浮かべるが、全員がプリンを見ている。
 思わず笑ったマリーは粗熱が取れてから冷蔵庫に入れた。

「ごめんなさいね、あまり量がなくて。数個は残るから、それを食べてみて気に入ったらレシピ教えるわ」

「いいのですか……?」

「ええ、勿論。美味しいものは皆で食べましょうね」

 マリーのにこやかな笑みに、奥様万歳! と厨房が騒がしくなる。
 それに思わず笑うマリーだったが、今まではこんな風に笑うことも無かっただろう。
 獣人との交流が、こんなにもマリーを変えたのだと使用人達が実感していた。


「……あら、出来たわね。薄焼きにしてみたの。パリパリ……は冷めてないからまだねぇ」

 取り出した丸い形のクッキーがずらりとある。
 バターの香りが一気に厨房に広がり鼻腔を擽る。
 料理人たちはまたてを止めてマリーを見た。

「…………うん、いいんじゃないかしら」

 少しだけ天板の上で粗熱を取っていたマリーがひとつ手に取る。
 もう焼きたての柔らかさはなく、温かさは伝わるがパリッと硬いクッキーになっていた。
 それをラーゼンの口元に差し出すと、目を丸くしてからパクっ……と食べた。

 給餌は愛情表現なんだけどなぁ……とラーゼンは思いながら口を動かすと、パリパリ食感と共に広がるバターと甘み。
 甘いお菓子の概念がないこの世界での、初めての甘味にラーゼンは夢中になって口を動かし食べた。

「……どう? あまり好きじゃない?」

 反応のないラーゼンに首を傾げて1枚食べる。
 ほのかな甘みのクッキーは歯触りも楽しく満足出来るが好みもあるだろう。
 イマイチだったかな? とラーゼンを見ると口を開けて待機していた。
 マリーはピタリと止まる。
 お座りで口を開けて尻尾をビタンビタンと床に叩き付けているのだ。
 周りにはハートが乱舞している幻覚が見える。

「…………気に入ったのかしら?」

「わふっ!」

「人語すら忘れているわ!!」

 衝撃の出会いにラーゼンのテンションが上がり、虎と言うより犬だ。
 わふわふとクッキーが運ばれてくるのを待っている。

「…………うん。はい」

 クッキーを渡すと勢いよく食いつきマリーの小さな手も一緒に食べられた。
 口の中でラーゼンの舌がマリーの指を開いてクッキーを攫っていく。

「………………私の手は食べられないの。メッ」

「それでいいのですか、奥様……」

 完全に犬扱いするマリーに、料理人たちは思わず笑った昼下がり。
 マリーが来てから一番のホンワカした時間が厨房で流れたのだった。
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