[完結]愛せないから白い結婚をしようと言われた伯爵夫人は白いモフモフの優しい愛に包まれる

くみたろう

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 こうして、本館と別館があり第1夫人と第2夫人がいるナデリスカ伯爵家の生活が開始された。
 別館は本館同様にマリーがその財政を握り牛耳って使える金額を算出している。
 その中でやりくりして使う楽しさに、この3年で目覚めたフリーダは嬉々として別館での生活を充実させているが、伯爵家の第2夫人となったシェリーはもっと贅沢ができると思っていて少しガッカリしていた。
 
 シェリーから見たら別館は我慢させられマリーは好きに自由にしていると思うだろう。
 だが、その好きに自由にはマリーが自ら事業を始めて収益を出した結果である。
 パティスリィマリーが凄まじい成功を収めた現在、いつ離縁しても問題ないくらいの大金持ちである。

「あ……あの、マリー様……別館の費用なのですが、本館との差があまりにもありすぎませんか!」

 意を決して言ってきたシェリーに、マリーはにこやかに笑った。
 シェリーの後ろにはフリーダがいて、そんなことはないんだ! と言い続けているがシェリーには以前の貴族としての記憶や伯爵夫人達の煌びやかな生活を目にしていたので、何故……どうして私だけ……と不憫なヒロインを加速させている。

「では、お教えしましょう。まず、我が伯爵家の現在の家計についてです」

 帳簿に書かれた細やかな数字にシェリーはくらりとする。
 その膨大な数字を理解出来ずに凝視しても首を傾げてしまうシェリー。
 その横には分かりやすく3年前の帳簿も出す。

「これは以前私がいない時の物です。ご覧下さい、ここら辺は伯爵家に全く関係ない出費です。覚えはありますか?」

「マリー!」

 示すのは、全てシェリーとその両親に使われていた金額。毎月莫大な金額が使われていた。
 ちなみにと、指さしたのはフリーダの毎月使える金額。
 明らかにシェリー家族に使う金銭の方が多い。

「この分赤字です。この出費がずっと続きこれを補填出来ず、私が輿入れした時には伯爵家の家計は火の車でした。ですから全ての金額等をしっかりと算出して出せないものは出せないと旦那様に……お叱り致しました」

「…………え」

 それを知らなかったシェリーはフリーダを見る。
 バツが悪い顔をしながら笑うフリーダにシェリーは口に手を当てた。

「私が全てを管理した後に、貴方の家への支援は一切禁止しています。伯爵家を立て直す方が先でしたから。元より伯爵家が同一の平民の生活を常に援助するなどおかしなものです。それからは、個人資産や毎月支払われる私用で使える金額の中から旦那様は援助を続けておりました。そして現在、黒字に戻った帳簿です」

「…………私……支援が減ったのはてっきりマリー様が使っていらっしゃるのかと……」

「私は金額を最低限にしていました。事業を開始してからは個人資産が増えましたのでほぼ自活しております。ですので、これを踏まえての別館の費用試算となっています。好きなだけ使える訳ではありません。多額の金額を使いたいならご自分で金策をなさってください。そうでないと伯爵家は以前と逆戻りになります。転落するのはあっという間ですよ?」  

 マリーは3年が経ち、変わらず笑みを浮かべて理不尽な金額要求を切り捨てる。
 全ては伯爵家転落を防止する為だ。
 両親の生活費も出来たら援助を頼みたかったシェリーは、マリーの前でそんな提案は言えずに小さく震えた。

「別館の帳簿や、金額の算出は今後もマリーがするのか?」

「ご自分でしたいのなら私は構いません」

 そういったマリーに、レイモンドが物凄い必死な顔で首を横に振った。
 すぐにでも破産してしまう! と暗に言っている。

「いや……えーっと……んー……」

「私はどちらでも構いません。ただ、もし伯爵家の財政が危なくなった時、転覆する船に乗る気はありませんのですぐにでも離縁いたします。もう助けませんよ」

「離縁はしない!!」

「ならば、頑張ってくださいとしか言いようがありません」

「…………このまま頼む」

「わかりましたわ」

 にこやかに笑った第1夫人のマリーと、青ざめた顔で俯く第2夫人のシェリー。
 その2人の様子を見て慌ててシェリーを部屋から出したフリーダ。

「…………ふ……予想通りすぎて笑える」

「あら、なぁに? ラーゼン」

「マリーとあの第2夫人との器の差がありすぎる。どう頑張ったってマリーに勝てる日は来ないよ」

「あら、それはわからないわよ。いつか全てを任せられるようになるかもしれないじゃない?」

「そうかなぁ……」

 ヒョイとマリーを抱き上げて、ソファに連れていくラーゼン。
 座って、その横にマリーを転がし筋肉質の膝の上にマリーの頭を乗せた。

「……ラーゼン?」

「まぁ、子猫が震えながら威嚇するくらいの威力しかないでしょ。虎の尻尾で跳ね飛ばされておしまい。はい、マリーは少し休憩しなよ、働きすぎ」

 優しく頭を撫でるラーゼンを見上げてから、疲れていないわ……と口にする。
 だが、マリーは静かに目を閉じてラーゼンの手の暖かさと体に伝わる温もりに目を閉じた。

 ラーゼンとの関係は、実は口付けだけだった。
 触れ合いといえば抱き締められるくらいで、深い愛は感じるのにお互いに触れ合わない。
 大事すぎて手を出せない初期を経過した2人は寄り添い寄り掛かり、穏やかな熱を感じる幸せに身を任せている。

 愛は抱き合うだけじゃない、を体現している2人の関係はいつか変わる日が来るかもしれない。
 ただ、この優しくも深い愛が壊れる日は命が尽きる日が来たとしても訪れる事は無いだろう。

「…………愛してるよ、マリー」

「…………ええ、私もよラーゼン」
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