続・美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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157話 休憩の大切さ

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 オルフェーヴルが行ったのは、周囲の砂を使った魔術。
 土の最高位精霊は、砂を使ってグレーのソファを出した。 元々この場にある椅子や机は、砂が常に内部を循環して強度を保つ魔術が敷かれている。

 オルフェーヴルがしたのは、その最上位版で、市販品と大差ない刺繍された花柄のソファがドン! と置いてある。
 場違い感は否めないが、でこぼこ感がなく滑らかな肌触りで、座面が硬くも柔らかくもないちょうどいい座り心地。
 しかも、暑さを軽減させる魔術も組み込まれているため、この地でのオアシスだろう。

 女性を連れてやってきた人外者は、汗一つかいていないが、女性はじんわりと汗で服が湿っている。 いや、湿っていたが正しいだろう。
 この暑さに、既に服の水分が蒸発してしまうのだ。




 ______




 伴侶の人外者は中位の妖精で、デュナリスという。
 彼は周りが移民の民を呼んでいるから、という随分と軽い考えで、当時18歳のマリビアを呼び寄せた。
    愛がなんなのか知らないくせに、人外者の最愛と呼ぶべき移民の民を軽い気持ちで呼んだのだ。

 黒人のような黒い肌にパッチリとした瞳。
 花が咲くように笑っていたらしいマリビアも、1年も経てば泣き叫ぶことすらしなくなって、人形のように大事にされているようだ。

 綺麗な服を着て、ヒールの靴を履いて。
 可愛がられるマリビアは、悪戯に愛を囁かれ抵抗虚しく身体を開かれた。
 それが最大のきっかけになって、僅かな反応すらしなくなった。

 体を繋げるのに恐怖はなく、何を怯えて泣いているのかわからなかったのだ。

 それほどに遊び慣れた女性ばかりを相手にしていたから、18歳の素朴な少女に刺激が強すぎ耐え難い体験だった事にまるで気付かないでいた。

 それからも、マリビアの恐怖は定期的に訪れ、恐怖と緊張、嫌だと思う気持ちが膨れ上がり心は傷付けられ続けたのだった。

 自宅で囲い、自分にとって楽しい事しか頭に無かったデュナリスは、マリビアの負担を欠片も考えていなかった。
    全ては自分のために。 そこに相手の気持ち関係ないのだ。

 

 デュナリスは水に関する妖精である。
 アメンボから生まれた水に住まう妖精。

 そんなデュナリスは、暑さに弱くこの場所は鬼門だろう。
 だが、芽依と同じく料理ができないため、こちらに回されたデュナリスは、自分自身にだけ体を冷やす魔術を施した。
 暑さにふらついたマリビアには沢山の服で着せて着飾らせて。



 そんなデュナリスが、マリビアの服を脱がす芽依を少し離れた場所から見ていた。
 自分の匂い消しのネックレスをマリビアの首にかけて香りを抑えた芽依は、シャルドネに手を借りて薄衣1枚にさせていた。
 腕や足が盛大に出て、下着相当の姿にしたというのに芽依は平然としている。

 シャルドネは、そんな思い切りの良い芽依に思わず苦笑したし、オルフェーヴルは「おや……」と衝立を用意して周りから視線を隠した。

「これでいいのかい?」

「あと冷やしたいです」

 そう言うと、すぐに大根様が氷を作ってくれてた。
 ありがたく頂くのだが、このままは使えないと箱庭から袋とタオルを出した。

「用意がいいな」 

「心配性のお母さんが色々持たせてくれて……」

「セルジオ……」

 用意周到の芽依を褒められたのだが、その裏にはお母さんであるセルジオの過保護が絡んでいて、シャルドネは呆れたように声を漏らしていた。
 芽依も苦笑するが、そんなお母さんなセルジオが大好きだ。

 これで脇の下と首筋を冷やす。
 出来たら鼠径部も冷やしたい所だが、男性が沢山いる中だからな、と少し悩む。

 だが、人命が先だ! と切りかえて、薄衣の中、鼠径部に氷が当たるように服の中に手を入れた。

 さすがに全員驚いたが、芽依は淡々としている。
 驚く人外者な皆は、そんな応急処置を知らなかった。
 鼠径部をひやしながら口にゆっくりと水分を流し込む芽依の後ろ姿を見ていると、他の場所から似たような症状が出たと騒がしくなってきた。

 彼女ほどでは無いが、対策もなく服をしっかり着せた移民の民を連れてきたら、そりゃそうなるだろう……と芽依は呆れる。

 後ろで騒がしい声を聞きながら、芽依は静かに息を吐いた。
 



   
「暑さの対策不足。自分から何も言えない伴侶なら自分のことより何倍も配慮しなさいよ。なんなの、あの重ね着の量。熱い場所に来るってわかっててさせる格好じゃないわ。体調も悪くなるよ。せめて全力で冷やせ、馬鹿なのかな。しかも、こんな足場の悪い場所でヒールって何よ。採掘馬鹿にしてんの? ねぇ、 そうなの? あんまり出歩かないなら、もしかしたら長時間歩くことすら久しぶりだったのかな。わ、踵が出血してる。もう、人外者は好き好き言うだけで身体的な負担なんて――どうでもいいって事なのかな」


 話す度に芽依の声に鋭さが混じる。
 少し離れた場所でも不思議と声が聞こえていて、見様見真似で冷やそうとしていた人外者たちはビクッと体を揺らした。
 恐る恐る衝立によって隠されたその先に、視線を向ける。

 何故かはるか昔から、自らの伴侶を着飾り見せてける習性がある人外者たち。
 少なからず今回もその気があったのだろう。

 全く馬鹿馬鹿しい……と、ため息混じりな芽依を、デュナリスは熱心に見つめていた。
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