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169話 芽依の考えはじわじわと浸透する
しおりを挟む芽依の話は、この世界の住人にとって理解し難いものだった。
それは、この世界の誰もが理解できない真理。
家族であるメディトークたちであっても、完全に理解は出来ないだろう。
それは、生まれ持った認識の違い。 だが、家族たちは芽依の気持ちに寄り添ってくれる。
たとえ最初に違和感があったとしても、時期にそれが普通の事として受け入れられた。
そこから芽依の周りは、同じように奴隷としてではなく、個人として見てくれる人が増えた。
不躾な対応をする人への芽依を筆頭にした家族の怒りに、犯罪奴隷となったフェンネルの堂々たる態度。
そして何より白の奴隷であるハストゥーレの感情が出ている事が何よりのわかりやすい変化。
この分かりやすい変化と、家族や周囲の対応があるからこそ、芽依は固定観念があるこの世界でも十分考えを改められると思っているのだ。
とはいえ、この世界の共通認識となっている奴隷の立ち位置を数年で劇的に変わるなんて簡単なことでは無いのは芽依だって分かっている。
移民の民の認識然り、奴隷のあり方然り。
芽依たちとの考えが違いすぎる事を押し付けても理解などされないだろう。
だから、生きていく中で生きにくい現状を少しでも生きやすい環境に作り替える。
それが、今の芽依の在り方であり、何よりも大切な家族を守る事だと思っている。
そして、その生活の中には種族間の関係を簡単に飛び越える芽依の感性があった。
人外者は、芽依にとっては多少の違いがあっても姿かたちが近しい、言葉を交わし意思疎通が出来る存在である。
だからなのか、この世界の人間のように見るだけで畏怖を覚え動けなくなるなんて事にはならない。
注意として、家族や知り合い以外の人外者に注意するようにと再三言われているが、交通事故は危ないから、左右確認して歩きなさいよ! と注意されている感覚に近い。
だからこそ、注意はするがこの世界の人間のような感覚とは少し違っているのだ。
囲わず押し付けず、移民の民がこの世界に溶け込む事が出来ていたのなら、芽依と似通った感覚を持つ移民の民は沢山居たことだろう。
「ですから、皆さんが思う奴隷とか、人外者の定義がそもそも違うんですよね。あと、幻獣の存在は色々と衝撃でした。私たちの所の動物とか昆虫と同等かと。それこそ食用だと思っていましたし」
「幻獣が食用?!」
「だって、ガガディは食べますよね?じゃ食用だって思うじゃないですか。でも、そうなったらメディさんも食用になるし、最初は混乱しましたよ。食用と幻獣と他のの見分けよく分からないですし」
芽依が顎に指先を当てながら、不思議ですよね?としみじみ言う姿を見て、ミレアは頬を引き攣らせた。
何処に幻獣の王を食用だと言う人がいると言うのだ。 しかも、王として人前に出る時は黒髪の男性の姿なのだ。
そんな相手に食用と言ったのだ。恐怖でミレアは震えた。
「…………あ、メディさんは蟻の姿ですよ? 流石に人の姿のメディさんを食べる勇気はありません」
「……幻獣の姿の王を、食べる……というの?」
震えながら聞いてきたミレアに芽依は果実水を飲みながら頷いた。
「メディさんは珍味の味がします」
全員無言。
少ししてから噛まれる対象となっているシャルドネはクスクスと笑いだし、オルフェーヴルは初めて聞いたので驚いて目を見開いている。
噛むことによって荒ぶる野菜がうみだされる関係で、芽依を喰ったことのある人に対して噛みたい衝動が起きない。
今後も芽依はハストゥーレ、セルジオ、ニアを噛むことは無いだろう。
「……ふふ」
噛んでほしくても噛んでもらえないと悲しくなってしまうハストゥーレを思い出して、芽依は思わず笑った。
その笑顔があまりにも幸せそうで、その場にいる人たちは思わず芽依に見惚れた。
「なんというか、貴方がとても魅力的な方だって言うのは分かったわ」
「え?」
「沢山の人外者の方たちが当然と傍に集まって、貴方の傍で寛ぐのに納得してしまったの」
近くにいるシャルドネやニア、オルフェーヴルは、後から来た人たちで、ミレアにしたら愛してやまない家族だと言うメディトーク達とは違った人外者達。
なのに、移民の民である芽依と朗らかに話し、触れ合いまでする、この全てにおいて規格外だと思う芽依なのに、不思議と納得してしまうミレア。
閉鎖的な移民の民を囲う他の人外者とすら仲良くなる芽依を、得体の知れない者と見ていたが、実際話をすると魅力溢れる女性なのだと納得するしかないな、とミレアは苦笑した。
固定概念を持って見ていたミレアは、三個目のチーズボールをニアに口に入れる芽依を見て、不思議な人……と微笑んだ。
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