続・美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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40話 ミカへの差し入れ(挿絵あり)

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 シュミットは可哀想な呪いから解放され、数日休んだ後仕事を再開していた。
 ふわりと靡く髪をハーフアップにして、仕事着に着用するスリーピースを着込む。
 色気が倍増したのは髪型のせいだけじゃなく、彼の纏う雰囲気が以前にも増して甘く色っぽくなっているからだろう。
 だが、人がいる前では控えめな触れ合いを好むのは変わらず頭を優しく撫でてから転移して仕事に向かった。
 髪型が変わり、色気が倍増したシュミットをみて顔を赤らめる女性客が増殖されているのを芽依は知らない。

「これ、どうするの?」

 大きなケースや籠にぎっしりと詰める食べ物や飲み物を指さすフェンネルににこやかに笑って言った。

「ミカちゃんへの差し入れ」

 勿論監禁中の芽依が配達は出来ない。
 だが、ミカやアウローラの様子を知りたい芽依は、メディトークとフェンネルにお使いを頼んで様子を見て貰えるように頼んだのだった。

 様子を見に行ったのは、芽依が準備してから2日後の事。
 メディトークとフェンネルが行くため、庭にはシュミットとハストゥーレがお留守番だ。
 芽依の周りの人数をなるべく少なくしたくない為、シュミットが庭で仕事が出来る日に差し入れしに行く事にしたのだ。
 今日はまったりしようと、箱庭で手入れを済ませた芽依は久しぶりにお茶に合う茶菓子を用意した。
 2人を連れてゼノとサエの場所まで遊びに行ったのだった。



「…………へぇ、少しは良くなってるんだね」

 メディトークとフェンネルが来たのはミカの庭。
 先に差し入れに行くとオルフォア経由で聞かされていたミカ達は、2人に庭の場所を伝えて直接来て欲しいと連絡があった。
 その為、転移したのだが突然現れた2人にミカの庭にいた人達はビクリと肩を揺らして驚き、中には叫ぶ人もいた。

「ちょっ……びっくりするじゃない……」

 はぁ……と息を吐き出すのはメロディア。
 今日のお手伝い要員としてユキヒラと来ていたようだ。
 思わず持っていた肥料の袋をぶん投げて、新しく来た移民の民の顔にクリーンヒットさせた。
 うしろで、ぎゃー!!ソフィア! と叫んでいる。

「ごめんごめん! 直接来るって伝えてたんだけどね」

「…………まあ、いいわよ」

 肩をクイッと上げて言うメロディア達の元に人が集まり出す。
 そして、ソフィアと呼ばれた移民の民の伴侶がメロディアに突っかかる。

「あの……こんにちは。差し入れありがとうございます」

「メイちゃんがお願いしなかったら持ってこないんだから、心して食べなよ」

 籠やケースにたっぷり入った食事や飲み物をドン! と置いた。


(挿絵はイメージです)

 休憩スペースなのか、十分な広さがあるテーブルと椅子があって、これ幸いと勝手に使ったのだ。
 引き締まった小麦色の肌に、Tシャツとカーゴパンツのラフな姿で頭を下げるミカは、この世界に来た当初の姿とかけ離れていた。
 人外者の男性に擦り寄っていた姿はもうなく、地に足をつけて生きているミカに対してメディトークもフェンネルも、もう何も言わない。
 彼女のせいで芽依が過去に飛ばされ殺されかけた事は今でも許さないが芽依が気にかけている子である事に変わりは無い。

 そもそも嫌いな移民の民だからとフェンネルが深入りする事もないのだが。

「…………う、わぁぁぁぁあ……すごい!! 」

 そこに入ってくる高めの声にメディトークもフェンネルも振り向いた。
 以前に見た、最近こちらに来た移民の民の女性は、手を握りしめて見ている。

 すごいすごいと騒いでいるのを横目に、ユキヒラがメディトークに聞く。

「今日メイちゃんは?」

「庭に監禁中だ」

「…………………………かん、きん?」

 以前は他の移民の民と同じように闇堕ちしていたユキヒラは、監禁中と聞いて血の気が引いた。
 それはユキヒラだけじゃなくて他の人もだ。
 メロディアが、あ……とユキヒラを見て呟いてから、割り込んで来た。

「ちょっ……ダメよそんな……そんなことしたら……」

「えぇ? 夏休みボーナスタイムきたー! って喜んでるよ」

「…………ボーナス……タイム?」

「ダラダラしてんな、庭で。昼まで寝てたり、庭の手入れしたり、誰かにひっついたり……アイツなりに楽しんでんぞ」

「この間なんて、皆で水遊びしたしね!  水着メイちゃん可愛いけど、シュミットに足触られてセクハラされてた! もう!!」

「…………足、なぁ……」

 ふぅん? と首を傾げるメディトークと話をするフェンネルを見て、メロディアがポカンと口を開ける。

「…………み、水着……?」

「へぇ、暑いしいいよね。プールでも近くにあるの?」

「ユ、ユキヒラ?! あなたも何言って……」

「え?」

 長年この世界に住むユキヒラだが、ただ生きるだけのユキヒラに娯楽などなかったから、水着着用が普通じゃないと知らなかった。
 芽依と同じ反応するユキヒラにメロディアはフラリとする。

「…………わ、私も……行くべき? でも……ユキヒラの肌を他に見せるなんて……ああぁぁぁ! いやぁぁぁぁ!!」

「えっ? メロディア?! どうしたの?!」

「…………よかった、僕たちだけじゃない反応」

 芽依が当然のように言っていた内容をユキヒラも言っていて、それに狼狽えるメロディアを見てフェンネルが小さく言った。

「…………移民の民の常識、か」

 何かを考えながら言うメディトークに、異世界は不思議だねと頷くフェンネル。
 そんな2人を、新しく来た移民の民ソフィアが見ていた。
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