53 / 167
54話 魅惑のラーメン2
しおりを挟む2時間ほどだろうか、スープが出来上がるのを眺めてから火を消した。
アク抜きしている綺麗なスープは、1度こして不純物を取り除き、また鍋に戻す。
これで、少し濁りのある綺麗なスープのベースが出来上がった。
流石に油がギトギトしすぎじゃねぇか? とは思ったが、とりあえず試作だからとそのまま作る事にしたメディトークは、気付いたら寝ていたのでソファに移動させた芽依を見る。
「…………まだ、起きねぇな」
鍋に直接味付けするには、チャレンジャーすぎると醤油ベースのタレを作りはじめた。
かなり濃いめでいいか? どうせ薄めるだろ……とこってりとした醤油ベースを調味料を混ぜて作っていく。
といっても、元々芽依が好きな味付けとして醤油を使った食事はよく作っているので、芽依好みの味付けは理解していた。
冷蔵庫に常時用意している昆布出汁を使って練り、醤油ベースを作ったあと器に入れて背脂のスープと混ぜた。
流石メディトーク、ラーメンを知らないはずなのにその正解に行き着く。
だが、配分はまだまだだ。
「…………濃いな」
醤油味が濃すぎる。
スープを増やすと、今度はギトギトした。
ん? と首を傾げる。
「…………これは、ちげぇな」
んー……と悩み、背脂たっぷりのスープに昆布出汁をジャバジャバと追加した。
煮込む時に、野菜は入れたが昆布は入れなかったメディトーク。
別の出汁もと混ぜて、もう一度醤油ベースと合わせてみると澄んだ醤油ラーメンのスープが出来上がった。
「…………へぇ」
じっと見つめる。
スープの味がよく、ぺろりと唇についたスープを舐めとると、ちょうどハストゥーレが昼食の準備に入ってきた。
「…………メディトーク様、何をなさっているのですか?」
「メイがラーメンって食いもんが食いたいって」
「ラーメン……ですか?」
勿論知らないハストゥーレも首を傾げる。
スープを小皿に入れて渡すメディトークに素直に受け取り口に含んだ。
「…………美味しい、です」
「たぶん、これが醤油ラーメンってやつになるんだろうが……あとは麺だな」
「……麺、ですか」
麺は様々あって、違うのを使うと食感や味が変わるだろうな……と悩む2人。
聞きたくても芽依は寝ているからわからない。
「スープと一緒に食べるのですよね? 味が絡む麺でしょうか……パスタ系じゃないですよね」
「…………いや、この油の塊のスープ、全部飲むのか?」
「…………………………うぅん」
とり出されたヘニョヘニョになった背脂の量は凄まじかった。まさしく、油の塊スープだ。
これを飲みきるという概念がないメディトークたちは悩ましく首を傾げる。
そこに帰ってきたフェンネルも合流してあーでも無いこーでも無いと言い、結局は。
「色々作るか」
そう言って、パスタ麺からストレート麺、まさかの素麺など変わり種を使いながらもラーメンが完成した。
チャーシューを乗せて、トロリ蕩ける味たまを丸ごと1個。
野菜たっぷりに焼き海苔を添えた。
芽依が言っていたのはこうだよな……? と首を傾げながらダイニングテーブルに運ぶとフェンネルが芽依を起こす。
「メイちゃん、ご飯だよ」
「…………ん、あれ……寝てた?」
「うん、おはよ」
目を擦りながら起き上がった芽依は、ボーッとしながら周りを見渡す。
そして、ラーメンを見た瞬間にテンションを上げた。
「んきゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!ラーメンさぁぁぁあん!!」
走って椅子に座った芽依の前にコトリと丼が現れる。
芽依はワクワクしているが、芽依以外は不安そうに見つめてくる。
レンゲが欲しいなぁ、と立ち上がり取りに行ってからスープを1口。
「んん!! 醤油ラーメンだ! あぁぁ! 美味しい!」
感動して悶えるが麺を食べようと野菜の下から引っ張り出した瞬間、芽依は止まった。
「…………………………パスタ」
芽依の一言で、全員が違ったかぁぁぁぁ……と目線を逸らした。
「………………う、うん……うん……」
ぱく……と食べてちゅるちゅる啜るが、これでない感が顔に出る。
「…………あー、わりぃ」
「いやいやいや! 美味しいよ! うん!……美味しいんだけどぉ」
「メイちゃんこっちは?」
麺をすくって見せると、そこにあるのは太めのストレート麺。
芽依は立ち上がりそれにかじりついた。
「うわぁぁぁぁぁあん! ラーメン!ラーメン!! 本音を言えば縮れた卵麺が良かったけど!」
かすってたか……と息を吐き出したメディトークは、芽依が口をつけたパスタ麺を食べる事にした。
フェンネルは素麺を苦笑いしながら食べ、ハストゥーレは芽依と同じストレート麺を食べて目をまん丸くして驚く。
「…………美味しい」
「ね! 美味しいね!! ラーメン最高! ……次は卵切ってください」
コソッと言うと、切るんだったか……と頷いた。
芽依の知るラーメンとはやっぱりまるっきり一緒ではなかったが、食べたい衝動は解消されそうだと、分厚めのチャーシューを口に含んだ。
ちなみに、完璧を求めるメディトークはこの後も作り続けラーメン出現率が高くなった。
芽依が好む卵麺はこの世界にもあるが、やっぱりちょっと違うようだ。
2人で情報のすり合わせをしてより近く麺を作り上げたメディトークが完成させたのは、初めて作った時から2ヶ月が経過していたのだった。
「うわぁぁぁあん! 幸せすぎるっ!!」
ちゅるちゅると今回は味噌ラーメンを食べる芽依を家族たちは苦笑しながら見ていたのだった。
139
あなたにおすすめの小説
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる