84 / 179
83話 BBQをしよう
しおりを挟む「さぁ! 食べよう食べよう」
ワクワクとしながら持っているのはあさりの酒蒸し。
今日のメインはあさりの酒蒸しなのに、メディトークの準備する素敵すぎる料理に、なにがメインなのかもう分からない。
だが、まずは暫定食を食べようかと手には深皿がある。
日本酒に浸かったあさりは、あの暴れようが信じられないくらい静かに浮かんでいる。
貝は割られているから、もう日本酒にあさりが浮いた食べ物みたいになっていた。
ぶつ切りに切られたプリプリのあさりを芽依はスプーンで掬う。
「…………いただきます」
ふーと息を吹きかけていると、隣からそんなに熱くねぇと言われながら口に入れた。
「んん!! ……んまっ」
芽依の知ってるあさりの酒蒸しと見た目が違うが、濃厚なあさりの出汁が出た日本酒とあさりが混ざって口に含まれている。
貝の上に乗るあさりをちゅるりと食べたいところだが、叩き割られてそれは出来ないから、スプーンで代用。
風流もへったくれも無い食べ方だが、旨みが凝縮されたあさりの酒蒸しは満足しか出来なかった。
「……あぁ、繁殖期のは本当に美味いな」
シュミットの染み入るような声が聞こえてきた。
嬉しそうに目を細めて器を見るシュミットを見れたから、それだけで荒れ狂うあさりを採ってよかったと芽依は満足だ。
周りを見ると、みんな同じような顔をしている。
やっぱり食べ物は偉大だなぁ……と思いながら芽依はあさりの酒蒸しを楽しんだ。
今はまだ人数が少ないが、これから沢山増えるだろう。
だからメディトークはまだまだ準備をするつもりだ。
ぴーんぽーん
「誰か来たな」
「私が」
器を置いてハストゥーレが駆けていく。
それを全員で見ていると、現れたのはニアだった。
思ったよりも早い到着に芽依は喜びに目をキラキラとさせると、その隣から飛び出してきた珍念が手を広げて走ってくる。
「ままーぱぱー」
「いやぁぁぁぁぁ!! 可愛いぃぃぃぃ!!」
何これ、楽園かぁぁぁ?! と叫びながら走り出しちょこちょこと走る珍念を抱き上げてクルクルと回ると、ギャハギャハと笑い出す。
両手を広げて回る珍念はとても楽しそうだ。
存分に回してから下ろすと、フラフラしている。
それがまた可愛いと悶えていると、今度はパパーと走り去っていった。
次だ……と獲物を狙う目で庭の入口を見ると、相変わらず目付きを鋭くさせて睨み合う天使が2人。
睨んでも可愛いだけだと、芽依は鼻を確認してから近付いて行った。
「いらっしゃい少年、ギュってしていいですか」
足元にしゃがんで手を広げる芽依に睨んでいたニアの目がまん丸に変わって、薄く笑った。
「うん……久しぶり」
芽依に近付きギュッと抱きつくニアに、あぁ! 天使!!とメロメロしていると、袖を控えめに引っ張るハストゥーレ。
しゅんと悲しげに目を伏せている姿に、これは……と体をワナワナさせる。
「っ……あー! かわいー!!」
そんな叫ぶ芽依に、見ていたメディトークたちは馬鹿だなぁ……と笑っていた。
シュミットは、まとわりつかれている珍念を抱き上げるとメディトークにあさりを食べさせてもらっていた。
遊びたい盛りの珍念は、暫定食より遊びらしい。
だが、それを許さないメディトークに強制的に口に入れられていた。
「メディさん、少年……少年が来たよ……少年……」
『おいおい……落ち着け』
久しぶりのニアに興奮している芽依は、ハストゥーレとニアの手を繋いで、えへえへと笑いながらメディトークの傍にきた。
呆れながらも暫定食クリアの為に珍念に食べさせる巨大蟻。
「……世界に感謝します」
芽依は蟻が大好きなので、シュミットが珍念を抱えて巨大蟻が食べさせている姿にメロメロしている。
そんな芽依の手に引かれてきたニアは、あさりの酒蒸しを見て、あ……と声を漏らす。
「食べる?」
「うん」
「はい」
フェンネルが渡すと、小さく笑って受け取ったニアは大事そうに両手で持った。
それからは賑やかに食べ進め客が増え、いつもの暫定食が楽しい時間を与えてくれた。
「あ、これって」
「湖クラゲだな」
鉄板の上で焼かれる湖クラゲをアリステアとセルジオ、シャルドネと見つめる。
だが、これを焼いているメディトークのテンションはだだ下がりだった。
湖クラゲは美味しいと聞いていたのに、珍しいなぁ……と芽依が見ていると、湖クラゲがあると聞いて近付いてくるBBQ参加者たち。
「湖クラゲか、大量発生したから市場にも流れていたな」
「私初めて食べるんです」
ニコニコと笑って言う芽依に、ヴィラルキスはそうか……と薄く笑った。
ヴィラルキスの前に器がコトリと差し出される。
その数は2個あって、あさりの酒蒸しも湖クラゲも必ず2個ずつ渡されていた。
「……いいぞ、1個で」
『いい、お前の伴侶のだ』
「やだ、イケ蟻」
『うるせ』
足で軽く芽依の頭を小突くメディトークにへへ……とご機嫌に笑う。
人外者にとって伴侶は全てだ。
だから、それを失ったヴィラルキスには配慮されている。
食べなくてもいいから、ナギサの分も一緒に。
それを有難く受け取るヴィラルキスは、ナギサ、美味いぞ……と小さく言っているのを聞いて、芽依は目を伏せた。
147
あなたにおすすめの小説
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる