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96話 現状の把握
しおりを挟む泣き出したフェンネルに、また慌てる芽依が起き上がろうとすると、芽依を抱きしめている2人が動きを止めてきた。
起き上がれず2人を見るとお腹にあたっている手に力が入る。
「メディさん?」
「待て、今動いたらお前死ぬぞ」
「は?」
突拍子のない事を言われてポカンとすると、手のひらが当たる腹部に力が込められた。
お腹……? と下を見ると肌に直接触れている手にボン! と顔を赤らめる。
「にゃぁぁぁぁああ!! お腹は破廉恥ぃぃぃぃい!!」
「腹以上に触ってんだろ、いっつも」
「そうじゃないぃぃぃぃ!!」
ペシペシと腕を叩くが、まったく動かさないメディトークと、しがみついて離さないハストゥーレに抑えられてる芽依。
そのすぐ側まで来たフェンネルが、グズグズと泣きながら芽依の頬に口付けてきた。
チュッチュッ……とむ音を鳴らしてから、頭を擦り付けるフェンネルを見上げると、優しく唇を塞がれた。
軽く触れるだけで、まだ、涙で濡れた瞳が優しく弧を描く。
「…………僕から離れるとかは……ないよね?」
いつもよりワントーン低い声で言われて、芽依はビクリと肩を揺らした。
「な……ないです! 大好きです! 離れたりしません!!」
「……そうだよね。メイちゃん……僕、メイちゃんが離れたりしたら……全部壊してでもメイちゃんを探して閉じ込めるからね」
にこやかに晴れやかに笑顔を浮かべて言うフェンネルだが、その内容が全然可愛くない。
だが、その言葉に芽依は笑顔を浮かべる。
「うん、サービスタイムだね」
「……ちげぇだろ」
違うの? と首を傾げる完全に4人にもこの世界にも染まってきてちょっとズレてる芽依が、フロリアの儀にも祈り子様への変化にも振り回されたのにまったく普段と変わらない姿で笑うから。
「………………お前が図太くてよかったわ」
「なんだって?」
心外だぞ? 私結構繊細だぞ? とむくれる芽依に、メディトークは喉を震わせて笑った。
「…………なんだ、全員ここに居たのか」
誰もいない家の中で、シュミットが迷うことなくメディトークの部屋に訪れた。
シュミットの姿に芽依は笑うと、安心したように息を吐き出す。
シュミットの中にあった複雑な感情は掻き消えたが、やはり安心はしていなかった。
だが、ふにゃりと笑う芽依を見て、やっと安心出来たと肩の力を抜く。
「…………フロラリアの儀の話は聞いたか?」
「はい……聞きました。ごめんなさい、私そんな意味があるなんて知らなくて」
「まぁ……経緯は聞いた。俺たちに気持ちを送ろうとしたことも。それ自体に怒ることはないよ」
「シュミットさん……」
「ただ……それが魔術と繋がったのは不運だったとしか言いようがないな……メディトーク。今はどれくらい浸透したんだ?」
「……そうだな、ゆっくりやってるからまだ2割くらいじゃねぇか」
「なら、今日は動けないな。庭を直すのは明日か」
「そうだな……わりぃけど飲み物とか色々頼めるか?」
「それは言われなくてもする」
「…………えーっと、なんの話?」
2人で話を進めているが、さっぱり意味がわからない芽依。
2割となにか、庭がどうした? と体を捻ってシュミットを見ると、メディトークがグッと抱き締めて動きを制する。
「メイ、祈り子にされるのにお前の体に色々紐付けられて受け入れやすい体を作られてたのはわかるか?」
「あー……うん。ちょっと意識が朦朧としてた所はあるけど……」
声を落として頷く芽依は、思い出したのかブルリと身体を震わせた。
芽依の体に繋がっていた祈り子となる為の魔術は断ち切られたので、今は問題なく芽依本人が何者かに変わることはない。
だが、喰われ続け魔術によって衰弱していた体は嫌な事にサフラティの体に注がれた力によって保っていた。
それも芽依の体から吐き出して、伴侶となりえる状態も窮地を脱したのだ。
「ここまではわかるか」
「…………うん。そっか……助けてくれてありがとう……本当に……怖かったんだよね。体がおかしいし、伴侶とか言われるし喰われるし……まって」
ハストゥーレを見てから意識がそちらにいく。
「……私がいなくなって何日だったっけ……? ねぇ、ハス君」
「……8日、です」
「…………嘘でしょ……まって……ハス君体は? ねぇ、大丈夫なの?!」
「大丈夫じゃねぇよ。お前がいなくなってから俺たちはみんな、大丈夫じゃねぇ。ハストゥーレの体も、フェンネルが狂いそうになったのも。フロラリアの儀のせいだが……全員随分と振り回されたな」
「……いや……まって……ハス君の魂は大丈夫なの? フェンネルさんは……うん。今はいつも通り綺麗……ねぇ……ハス君……魂が離れちゃう……ごめんね……ごめんなさい……食べて、早く」
手を出してハストゥーレの前に出すが、その手はそっと握られるだけだった。
「ご主人様の体は衰弱しています。メディトーク様が力を注いでいますが、危険な状況なのです」
「衰、弱」
「はい。私は大丈夫です。今までご主人様を頂いてきましたからその分定着しています。ずっとは無理ですが、まだ2~3日くらいならこのままでも大丈夫と……あの人外者が確認してくれました」
「……少年が?」
「はい。だから……ご主人様はご自分のお体を優先してください」
「……そっか。良くなったら、すぐ食べてね」
「はい……ありがとうございます……ご主人様……」
そう言って、優しくサフラティに喰われ続けた肩を痛ましく撫でるハストゥーレの手を握った。
「食べられるなら、ハス君がいいな」
「……はい。私だけ……」
2人で笑い合う姿を全員が笑って見ている。
絡み合った不快感や恐怖といった感情の連鎖は、やはり芽依がいるだけで簡単にほどけていく。
「それで、私の体が衰弱してるからメディさんが助けてくれてるんだね?」
「……まぁ、そうだな」
歯切れが悪い言い方に首を傾げると、シュミットが近付いてきてベッドの端に座った。
髪を掬い上げ、サラサラとベッドに落としたシュミットは、優しく頭を撫でる。
「……これはメイの伴侶にする為でもある」
「え?」
「魔術によって無理やり体が開かれたからあの男の力を受け入れたが、その力を抜いた分反動があってな。掛けられた魔術が解除出来なくて力を受け入れる状態で放置されている。それに負担が掛からず体を回復させる為には同じ方法で体の奥底にある伴侶とする為の力を貯める場所、そこに魔力を流すのが1番なんだ。だが、そうすると伴侶として体が覚える」
「……うん」
「メイ……俺たちはお前の意見を聞かずに、勝手に伴侶を無理やり作ってんだよ。やっている事はアイツらと同じだ……悪い」
背中から回っている腕や体に当たるメディトークの体温は心地よくて、芽依はほにゃりと笑った。
「うん、わかった」
当然のように、何の問題もなく頷いた芽依に4人はポカンと見る。
「…………え、メイちゃん怒ってないの?」
「何を怒るの?」
「だって……僕たち勝手に伴侶にさせてるんだよ?」
「……え? うん。え? それで私が怒るの? えっと、こらっ!」
「………………あー、うん。悩んでたのが……うん」
芽依にしてみれば、4人は愛している存在で、どんなに拒否されようが顔を見せるなと言われようが、やはり大好きな事に変わりは無いと再確認してしまった。
だから、この4人なら誰が伴侶になっても芽依は構わない。
それがたとえ、芽依に確認していなくても独断でもかまわないのだ。
「いつ終わるのかな」
「そうだな……明日の朝には終わるんじゃねぇか」
「なるほど……BBQ台無しにしてごめんね。せっかく準備して作ってくれたのに」
「また仕切り直しすればいいじゃねぇか」
「そっか……じゃあ、その時にサメ食べれるね」
「………………」
「いったぁぁぁぁ!! なんでぇ?!」
光を失った真っ黒な瞳で後頭部を頭突きしてきたメディトークに芽依は悶絶したが、腹部に当てられている手から流れる暖かな力は絶えず芽依の体を癒していた。
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