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110話 秋は大事な行事 2
しおりを挟む「何故だ!」
まるで良い案が浮かんだとばかりに喜ぶのだが、冷たい眼差しで見る芽依からの辛辣な言葉に叫ぶ。
何故だも何もない。
「まず、貴方の提案を受け入れる必要性がない。勝手に決めようとするのは不快です。庭に足を踏み入れるのを許可出来るのは私だけではなく家族からの許可も必要です。したがって、貴方の要望は聞き入れられません」
「その丁寧な言葉遣いが距離を感じるのと怖いぞ!」
「距離はあるでしょう」
芽依は、この世界で関わった中でも好きの部類に入らない珍しい人だ。
ハストゥーレが居なければ関わりは持たないだろう人。
アリステアに頼まれても関わりたくない人である。
そんな相手ではあるが、祝祭はどんな人でも受ける権利があり領主は勿論、王ですらそれを拒むことは出来ない。
「もう、大釜で大量に料理作ってひとり大きなお椀1杯とかじゃダメですかー」
面倒になったのか、芽依が上を向きながら適当に言うと、アリステアは乗り気になる。
「…………なるほど、それはいいな……」
「腹持ち良さそうなものにしたらいいんじゃないか」
「スープより穀物入れるべきですね」
「芽依、米を貰えるか?」
「大量に余ってるお餅も今ならサービスしちゃいますー」
「助かるよ」
アリステア、セルジオ、シャルドネと話をして、追加のお餅もプレゼントする芽依。
3人がほっとしている時、扉がノックされる。
「お待たせしました。ギルベルト様……ん? お前は……」
頭を下げて入ってきた人は、薄い黄色の長髪をサラサラと靡かせた細身の男性だった。
銀縁メガネをかけているその人は、新たにこの部屋にいる芽依とハストゥーレを見ると眉をひそめる。
「…………ハストゥーレ、か?」
ハストゥーレを見て眉を跳ねさせ言った男性。
高揚の一切ない平坦な声がハストゥーレの名前を呼ぶ。
「…………知り合い?」
振り返りハストゥーレを見ると、少しだけ震える手が見えた。
それはハストゥーレだけではなく、以前一緒に来た白の奴隷の女性マイヤも指先が震えているし、今回初めましての奴隷はわかりやすく震えていた。
「どうしたの? ハス君。ほら、私を見て」
「…………ご主人様」
「うん……なにか、こわい?」
ビクリと肩が震えた様子を見た芽依は、すぐさま今来た男性を注意人物と認定する。
「………………いえ、こわいなど……」
ほんの少しだけ視線がぶれた。
蕩けるような眼差しで一心に芽依を見つめるハストゥーレがだ。
それは少しだけど、芽依にはわかりやすい変化だった。
「…………なるほど」
そっとハストゥーレの片手を両手で握って暖めるように撫でる。
その暖かさと安心感に息を吐き出して手の震えが止まった。
「…………うん、落ち着いたね」
「……はい」
ふわっ……と笑ったハストゥーレを正面から見た男性は目を丸くした。
「………………笑った?」
カツカツと音を鳴らして近付いてきた男は芽依の腕を掴んで後ろに下げるようにひっぱる。
その力は思いのほか強く、芽依は勢いに負けてよろけて床に座り込んだ。
「うっ、わ……」
「ご主人様!!」
「おまたせー!! あ、ノック忘れちゃ……は?」
後ろに飛ばされるように座り込んだ芽依をタイミング悪く迎えに来たフェンネルが見てしまい、キラキラと可愛く笑っていた天使は一瞬にして悪魔も生易しい邪悪な生き物へと変化する。
「…………なにしてるの?!」
「さっ……さむっ! 寒いぞ!!」
「ぎゃあ! 書類が凍りつきました!!」
「うわぁ! 氷柱ぶっ飛んできたァァァ!」
一気に吹雪がと言うような雪が室内を暴れ回り鋭すぎる氷柱が壁に刺さる。
手足が冷たく感覚が無くなりそうだ! と手を動かしているが、冷たい風は痛みしか与えてくれず死ぬ……死ぬ……と声が聞こえる。
そんな状態なのに、のほほんと芽依はフェンネルを見た。
「あ、フェンネルさん。庭のお世話終わったの? あと、吹雪にしちゃだめだよ。ほらアリステア様達が凍えちゃう」
人外者はすぐさま体感温度の調整をするが、人間はすぐには難しい。
冬ではないから、室内を温めている訳でもない。
今の状態は吹雪の中薄着で冬の山を登る勇者のようだ。
ちなみに、芽依は無意識に不可侵の魔術が掛けられているため無事だ。
「でもっ!」
「大丈夫だよ、怪我ないから。ほら、用事終わらせて早く帰ろう。チーズマン準備するから、ね?」
チラッとハストゥーレを芽依が見ると、釣られるようにフェンネルも見た。
いつもよりも情緒不安定になりそうな様子のハストゥーレに気付いて、なるほど……と頷く。
「僕焼き鳥食べたい」
「うん、すぐ準備するね。メディさんが」
「うん。ひなニンニク食べたいなぁ」
「あ、私も。ホクホクのニンニク最高」
二人で頷いていると、ギルベルトの目がギラリと光る。
「鶏肉があるのか?! まさか……まだ残ってるのか!!」
「……………………売り物はないです」
シラッと答えた芽依がハストゥーレのそばに行く途中、男はハストゥーレに何かを囁いた。
ピクっと指先が動いたのを芽依は見たが、何を言われたのかは分からなかった。
だが、芽依にはフェンネルという最高位の妖精がいるのだ。
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