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しおりを挟むこんな、こんな絶望が今まであっただろうか。
今日一日でショックな事は山ほどあった。
今までの人生の中で一番最低な日だった。
もう31日が終わると思ったからこそ頑張れると思っていたのに。
こんな残酷な事があるだろうか。
ギュッと目を瞑り手を強く握ると、また優しく手のひらを開かれた。
そのまま指を絡めるように握られ、流れる涙をそっと拭われる。
額が重なり、かぼちゃの頭がゴツゴツと当たる。
無機質なかぼちゃのはずなのに、温かさが感じた。
「言ってくれ、カナト。そうしたら、今後お前はハロウィンパーティーに怯えることなく俺と静かに過ごしていける。大丈夫だ、なんの心配は無い。穏やかに、ときにはこうして触れ合って、ゆっくり生活できる。おれが、保証するから。だから……トリックオアトリート」
カチカチ カチカチ
秒針の針の音がなり始めた。今年の31日が終わるのだろう。
息遣いすら聞こえないこの静かな空間で、たった二人だけ。
このじか、いつまでも続くように、カナトは錯覚しそうだ。
「……カナト」
苦しそうな声はカナトの名を呼ぶ。
それに反応するように、瞑っていた瞳を上にあげてかぼちゃ頭のこの男性を見た。
「……食わないでくれ。いたずら」
カチカチカチ ボーン ボーン ボーン
秒針が止まり、0時を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
パートナーとなったこの男は心底安堵したのだろう、深く息を吐き出し、カナトを優しく抱きしめる。
「あぁ、良かった。もう、あんな危険な場所には行かせない。大事に守り慈しむから。ここに留まってくれてありがとう」
カナトは、年に一回。あの日に呼ばれる恐怖を抱えて生きていける気がしなかった。
次回、このかぼちゃ頭のように優しく守ってくれる存在など現れる確証なんてない。
それに目を付けていたのが理由とはいえ、カナトを献身的に守っていたのは、この怪異の男性なのだ。
そのことは間違いようもない。
「……あんたは、俺を気に入ったから守ったのか」
「ああ。目を付けられていた食彩が連れ去られるというのは……」
少し言いにくそうに言葉を飲み込んだかぼちゃ頭に、カナトは首を傾げた。
う……と、困った様子を見せてから、視線をあちこちにやる。 そして、観念したかのように口を開いた。
「やり方は様々だが、他の奴らに取られないように守っているんだ。あの花嫁のゾンビも、そうだったぞ」
「いや、殴ってたよな?」
「嫉妬深いからな。近くに女が居たから怒ってたんだろ」
「えぇ……俺に頭下げてたのは?」
「………………………………………………俺の嫁だと思ったからだ」
予想外の言葉に口がポカンと開いた。
よ、嫁? ……と思わず声に漏れると、困ったように笑ったのだろう雰囲気が柔らかくなって頷いたかぼちゃ頭を思わず叩いてしまった。
「いった」
「そもそも! なんでタクロウさんの姿になってたんだよ」
「カナトが安心して話せるのが、あの男しかいなかったからだ」
あの時、タクロウ以外の二人は絶命していた。
話をしたことがあるのはタクロウだったから、必然的に選ぶ人物は一人だったのだろう。
カナトは、眉を寄せて聞いた。
「……皆、そんな簡単に他人の姿になれるのか」
「いや。それは__俺がドッペルゲンガーだからだな」
その言葉に目を見開いた。
他人と生き写しになる怪異。全く同じ人物になるからセーフティに入れたのではないか、と考えている様だ。
実際のところは。この怪異の男ですら分からないようで、実はあの場に入れて驚いていたらしい。
「じゃ、その頭は」
「俺は自分を持たないから、今日の為にわかりやすくかぼちゃにしたんだが、ダメだったか?」
「…………ハロウィンなら違和感ないな」
この頭で最初からカナトを支え、守ってきたのだ。
今更おかしいかと聞かれても、そもそも存在自体がおかしいのだ。
カナトの思考が、違和感なくこの世界に溶け込み始めていた。
あれだけ恐怖で慄いていたのに、今では心穏やかに怪異と話をしているのは、カナトの精神に異常をきたしているということに気付いていない。
こうしてまた一人、食彩は狂わされ裏の世界に溶け込んで行った。
ジワジワと別世界に侵蝕されていく食彩達の人数は増えて行き、31日の交差する日と同じように交わる人が増えていく。
終わることを知らない狂った夜のハロウィンパーティーは、また一年後に向けてジワジワと二つの世界が近ずいていく。
そして、少数人の犠牲者を出した翌日には小さく行方意不明者多数と新聞の端にひっそりと掲載されるのだろう。
こうして一年に一度のハロウィンパーティーが幕を下ろした。
また来年、参加者資格の招待状を握りしめた怪異達が、まだかまだかと体を揺らして待っているんだろう。
0時を超えた時に、あの薄紫とピンクの混じった世界で、次回餌となり食彩をパックリと口を開けて参加者が待っている。
もしかしたら、次の食彩はあなたかもしれない。
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