The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

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ジェイクから離れたセラフィエルは、白杖を鳴らしながらベッドへ近づいて行く。

「少し失礼しますね」

 そう言って、トレイニーの前に来た。
 まだぼんやりとしているのは、長期間体を乗っ取られていた事による弊害である。
 心ここに在らずといった様子に、最初は喜んでいたコールマン夫妻も心配から険しい表情を隠せないでいる。

 セラフィエルは跪き、トレイニーの様子を確認してから両の手を強く鳴らし清めの響音を響かせた。
 また柔らかく暖かな風が吹き、トレイニーの体を優しく包み込んだ。
 すると、空っぽになっていた体内が神の息吹で満たされ混濁していた意識が浮上していく。

 「…………ママ?」

 虚ろな瞳に光が灯りぼやけていた顔に生気が戻りだす。
 目の前にいるセラフィエルを不思議そうに見ていたトレイニーは、その後ろにいる母の存在に気付き呼ぶと、感極まったマーガレットがトレイニーをきつく抱きしめた。



「ありがとうございます。トレイニーを助けてくれて……ああ……」

 チャールズが泣きながらセラフィエルの手を掴み頭を下げると、隣に来たジェイクがすぐさまセラフィエルから手を離させた。 先程の行為を許せて無いのだ。

「まだ解決はしてない。セラの祈りで時間を稼いでいるだけだ」

「……は、まだ?」

 笑顔を見せていたチャールズは直ぐに顔を歪ませてセラフィエルを見た。
 それは憎悪に歪んでいて、悪魔科の2人は顔を引き攣らせながら「ひっ……」と漏れそうな小さな叫びを必死に飲み込む。

「……アンタ、なんか失敗したんだろう!! そうだろう! 祓霊庁はつれいちょうも目の見えないヤツを寄越し……いたったた!! 離せぇ」

 またセラフィエルに掴みかかろうとした時、ジェイクがチャールズの腕を無言で捻りあげた。
 怒りすら通り越した冷酷な表情で見下され、チャールズが息を飲む。  純粋な殺気すら感じそうな表情にチャールズが恐怖すると、セラフィエルが手を伸ばした。

「ジェイク」

「……ああ」

 チャールズから手を離したジェイクはセラフィエルの手を取り立たせると、全身を確認する。

「……大丈夫だな」

「ええ、大丈夫ですよ」

 はぁ……とため息を漏らしたジェイクはセラフィエルの頭を一度叩いてからトレイニーを見た。
 そして、話を聞こうとしたのだが、トレイニーの様子がおかしい。
 顔面蒼白な表情でガタガタと震えているトレイニーは、涙をあふれ出させていた。
 
 セラフィエルは、チラリと光導杖(ルクス・カデュケウス)に耳を傾けるが、小鈴の音はしない。
 写らない目には分からないが、宝石は濁ってはいないだろうと数回瞬きを繰り返した。
 
 慌てた様子を見せない祓い師2人に、マーガレットは気が触れたのではないかと言うほどに取り乱してセラフィエルのロープを握りしめる。

「なんとかしてぇぇ!!」

 まだ悪魔が憑いていると錯乱しそうなマーガレットを見たジェイクが、クラリッサを呼び寄せ、抑えさせた。

「暴れないように掴んでおけ」

「えっ……えぇ?! 」

 驚きながらもガシッと掴んだクラリッサは、暴れるマーガレットを拘束した。
 それを音で、振動で確認したセラフィエルは小さく十字を切ったあと、トレイニーの手を握った。

 
「全能の御神よ、恐れと混乱に揺れるこの者の心に、平安の光を注ぎ給え。
震える胸を抱きしめ、乱れる呼吸を整え、心を静めさせ給え。
我らが手の中にある安らぎの力を通し、魂に安堵を与え、恐怖の影を追い払いたまえ。
今ここに、御御手の守護のもとに、魂を委ね、安らかに息をつかせ給え。」

 セラフィエルの祈りはどれも優しいものであったが、今までで1番優しく柔らかい祈りをトレイニーに与えた。
 混乱から自我を取り戻す祈りに力を乗せると、トレイニーは次第に落ち着きを取り戻し、握り締めていたセラフィエルの手を必死に握り返す。

「ご……ごめんなさい……ごめんなさ……怒らないで……ごめん、な、さ……」

「大丈夫ですよ、怒ったりしていません。貴方は悪魔に体を奪われても、意識までは明け渡しませんでした。それはとても苦しく誰でも出来る事ではありません。それを、幼い身でおこなったのです。あなたの行いは素晴らしいものですよ。きっと、神様が見て下さっています」

「っ……ぅ……うぅぅぅぅ……」

 小さな子供が歯を食いしばり、なにかに耐えるように泣く姿にセラフィエルは眉尻を下げた。
 そして両手を伸ばして、優しく包み込むように抱き締める。


「大丈夫ですよ、貴方に巣食う悪魔は私たちが祓います。心配せずともいいのですよ」

 なにかに怯える小さな手は、まるでもがき苦しみ、掻き毟るようにセラフィエルの背中に爪を立てた。
 その様子はやはり異様で、これは……とセラフィエルはジェイクがいる方に片手を伸ばした。
 そっと触れる手に、指先を動かす。


 (悪魔憑きと、なにか他にありそうですね)

 (そうだな……解決まで様子を見た方がいい)


 そう指で示し合わせた2人は、小さく頷いた。
 
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