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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録
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しおりを挟む祈りの最後の言葉が落ちた瞬間、静かな光が辺りを包んだ。 空気はふっと澄みわたり、世界から音が消えたかのように静まり返る。
祈りによって生まれた灯火は穏やかに、優しく包み込むように広がるはずだったが、悪魔に触れた途端、鋭く磨かれた刃のようにその身を裂いていった。
「ギィィ……アアアアアッ!」
張り裂けるような叫びがこだまし、黒ずんだ煙のような身体が泡立つ。
表面からは濁った瘴気がしゅうしゅうと蒸発し、やがて白い蒸気へ変わって光の中へ吸い込まれていった。
光は炎ではない。燃え盛ることも、爆ぜることもない。 ただ、逃れようと足掻くたびに四肢は少しずつ崩れ落ち、骨も肉も、影さえもが静かに光へと溶けていった。
苦しみの中で悪魔は声を振り絞ったが、その叫びも長くは続かない。
最後の音が消えたとき、その存在はすべて、やわらかな光の中へ沈んでいった。
残されたのは、どこまでも静かな余韻だけ。
祈りが確かに届いたのだと告げていた。
________
重ねていた両手を離して、1度息を吐き出したあと、伏せていた瞳を開く。
相変わらずその瞳には何も映らないが、重苦しい空気感が晴れていて、無事に終わりましたね……と胸を撫で下ろした。
「セラ」
「…………は、い」
呼ばれて1歩、足を出した瞬間に目眩が起きて周囲が揺れる。
足元がおぼつかずたたらを踏むと、体から力が抜け、盛大に倒れた。
身体が傾くのがわかる。 風を受けて倒れるのは分かっているのに、それを制御出来ない。
「ああ……暫く痛みが残りそうですね」と体が倒れるのを感じていると、ジェイクが隙間に入るように体勢を低くしてセラフィエルを抱き留めた。
弾力のある硬い体がセラフィエルを包んで、下がった前髪を書き上げる。
青ざめたセラフィエルの顔を覗き込むジェイクを見ているコールマン夫妻と新人二人は、気になっているが指示がないから結界から出られず困惑している。
「あ、あの! 大丈夫ですか?!」
「…………祈りを使いすぎて体内循環が上手くできてないだけ、だが、セラ、そういえば前回の洗礼から時間がたっていたな」
セラフィエルの周りを把握しているジェイクがそう言うと、ゴプ……と音を鳴らしてセラフィエルが吐血した。
直ぐに抱き上げて結界内にある鞄を漁ってタオルを出す。
慣れたもので、心配も嫌悪感もなく、まるで作業のようにセラフィエルの口元を拭い水を含ませた。
「ほら、吐き出せ」
拭いたタオルを重ねて出すように言われ、渋々吐き出すと、すぐに袋に入れてから鞄にしまうジェイク。
手馴れた様子を、観客となった4人が眉を寄せて眺めていた。
「…………よし、先に終わらせるか」
白いローブは吐血した瞬間に飛び散り赤く染め、腹部には血溜まりが出来ているのだが、また吐血する可能性もある。
先に循環を治す方が先だと、口の中に指を差し込み、無理やり開けた。
まだ流れ切ってない血液が赤く染めているが、なんの迷いなく顔を寄せてくる。
「や、です……血が……」
「いいから、口開けろ」
小さな抵抗をするが、簡単に抑え込まれて顎を指先で固定される。
「やっ……んっ」
「……循祈契(じゅんきけい)」
逃げようとするセラフィエルを抱きしめ、顎にあった手は頬や耳をくすぐりながら後頭部へ行き抑える。
口の中はまだ血液が残っていて、舌が絡む度に唾液と混ざり合い薄まっていった。
喉を鳴らして嚥下すると、ジェイクから循環する力が体内に入ってきて冷えきっていた身体が内部から急速に温められていく。
そして、循環するジェイクの力が混ざる度に口内の血液も流れた。
くちゅり……と静まり返る室内で響く水音が嫌に官能的で、そういった意味合いの口付けではないのに、セラフィエルはどうにも体に走るわずかな感覚と、強い眩暈が訪れる。
これは、危険な状態での循祈契からくる副作用ともいえる。
ゆっくりと離れた唇には糸を引き、離れる度に細く長くなって、最終的にはプツリと切れた。
「は……ぁ……はぁ……」
「セラ、どうだ?」
「………………も、やめてって、言ったじゃないですか……血があったのですよ?」
「そんなの聞いてる場合じゃないだろう、死ぬぞ」
「死にませんよ……」
くたりと肩で呼吸をしているセラフィエルの額に額を当てて目を瞑る。
ジェイクは、何かを探るように伏せ目がちではあったが、不機嫌さはなさそうだ。
「…………大丈夫だな」
「ありがとうございます」
「いい_____顔が赤い」
耳元で囁かれた声に頬を赤らめたセラフィエルは、手探りで探したジェイクの耳を引っ張った。
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