The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第四章: 新人教育

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 カツカツと、磨かれた床を叩く白杖の小気味いい音にセラフィエルは耳を傾ける。
 今日、明日はジェイクが新人指導につくため、セラフィエルも随分とゆったりしていた。
 ジェイクに捕まりながら穏やかな気持ちで歩くのは、洗礼を受けて体が軽いのも影響しているのだろう。

「セラ」

「はい? ……んっ」

 呼ばれて顔を上げると、光が遮られた。
 その瞬間掠める唇の熱。
 ピタリと歩調を止めると、遮られた光が戻ってきた。
 明るく瞼の中を照らす光は、唐突に口付けてきたジェイクの顔を見せることはない。

「ジェイク……」

 ニール達と別れた後だとはいえ、ここは祓霊庁はつれいちょうの廊下。誰かがいるか分からない場所での何の関係もない口付けに顔を赤らめ、咎めると。グイッ……と引っ張られた。

「ど、どうしたのですか」

 少し端によったジェイクが隙間ない程にセラフィエルを抱き締めた。
 瞬時に周りの様子を伺っていたセラフィエルは、誰も居ないことに気付いていたから引き離す事なく背中を優しく叩く。

「どうもニコ・ディコルソンからの視線が煩い」

「あぁ……」

 苦笑して頷くと、さらに力を込めて来た。
 叩いていたセラフィエルの手が優しくジェイクを抱きしめる。

 ジェイクの言動や外見で女性からの視線を集める事は多々あるのだが、セラフィエルを大事にしている姿に、次第に「ありがたい栄養」へと変わる。
 
 だが、このニコ・ディコルソンがジェイクに向ける感情は男女の恋愛感情ではなく、助けてくれた事への憧憬と、安心、信頼感からだった。
 悪魔災害被害者は、一定数いるのだ。
 助けられた時の情景が忘れられず、恋焦がれる感情に似通った気持ちを育む。
 そして、次に出会った時、まるで運命の再会のように思うのだ。刷り込みのように。

 だから、ニコはジェイクとバディを組みたがる。
 彼といれば、いつでも守ってくれるから安心出来ると。

 だが、ジェイクが守るのはセラフィエルであってニコではない。
 あの時も、ジェイクの視線にはセラフィエルがいた。
 それを、隣にいたニコは自分が守られていると意識をすり替えた。

「…………気持ちはわかりますけどね」

 セラフィエルにだって、あの時あの瞬間のジェイクは今も瞼の裏に刻み込まれている。
 彼の姿形、顔も、セラフィエルは忘れない。
 絶対的な信頼するべき存在。

「…………わかるのか」

「わかりますよ。僕だって、ニコさんと同じ立場です。もう見えなくても、この目には貴方が刻まれているのですから」

 体を離してジェイクの頬を優しく包み、撫でる。
 そのセラフィエルの手に力を抜くジェイクはやっとひと心地ついたのだ。 
 セラフィエルとジェイクは気付いていた。食事中にも絡みつくニコの視線に。

「俺はお前さえ居ればいい」

「……ジェイク、結婚出来ませんよ」

「いつかするだろ」

「本当ですかぁ? 僕に構ってばかりいたら彼女さんに叱られますよ?」

「……」

 ふいっと視線をずらしたジェイクに眉を寄せる。あからさまに雰囲気が変わった。

「叱られ済みでしたか」

「とっくに別れたよ」

「え?!」

 セラフィエルの腰に腕を回して歩くよう促すジェイクへ顔を向ける。
 そして、腕をペチッと叩いた。

「またですか? 何度目です。僕にばかり気に掛けるからですよ? だから休みくらい僕に構ってないでデートしてって言ってるのに」

「いいだろ。お前以上に大事に思えない」

「………………はぁ」

 セラフィエルとバディを組むようになって、いや、セラフィエルが事務員として働き出しジェイクに見付かってから、ジェイクの中心はセラフィエルになった。
 彼女が出来ても、ジェイクが優先するのは常にセラフィエル。
 仕事で一緒にいる時間も長いし、休日に二人でいる姿は何度となく見られていた。
 いつも、彼と私どっちが大切なの?! と言われ、素直にセラフィエルの名を出して振られている。

「素直に言わないでください!」

「付き合う時に言ってるんだぞ? 仕事優先、バディ優先って。わかったって言ってるんだがな」

「比重があからさますぎるって事ですよ!」

 まったく! と怒るセラフィエルの腰にはまだ腕が回っている。
 白杖は折りたたまれ、その状態で歩くのも慣れたものだが、通りすがりの祓霊庁はつれいちょう職員にジェイクは、当たり前だろう……と視線を向けられていた。

 基本的に3ヶ月続かないジェイク。
 ほぼセラフィエルに付きっきりなのだから致し方ないだろう。
 こういった経緯があるから、なおのこと祓霊庁はつれいちょうの職員とは付き合わないジェイク。
 もう二人は、良い栄養認定され、日々腐れた人々をツヤツヤにしていた。


「どうしてこんなに僕に固執するんです?」

「……どうして、だろうな」

 ん? と首を傾げるジェイクは、セラフィエルに執着している理由を分かっていない。
 大切なバディ、信頼すべき相方。
 ここに恋愛感情は含まれないが、それに限りなく近い気持ちは存在していた。

 セラフィエルを誰かに渡したりしない。
 自分のものだという認識がある。

 
「……セラに彼女が出来たら、相手を殺すな」

「やめなさい!!」
 
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