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思惑に巻き込まれた芽依
深夜、芽依は布団の中でだるい体を持て余していた。
熱い息を吐き出し、じんわりと汗をかいている。
発熱しているんだろう、身体は熱く、タオルケットを蹴り飛ばした。
「こほっ…………こほ……はぁ……」
熱で潤む瞳を揺らして、室内を見渡すが、暗闇に支配された室内には当然誰もいないのだ。
瞼が閉じそうになる。
それをなんとか持ち上げてまた息を吐き出す。
たぶん、真っ赤に染まっているだろう顔を手で触ってから、重だるい体を起こした。
ベッドのすぐ近くにある窓のカーテンを開けて外を見ると、ぼんやりと光る街頭が道路を照らしていて、両端にずらりと並ぶ紫陽花を輝かせている。
水滴が付いていてキラキラしている。夜のうちに雨が降ったのだろうか。
「…………綺麗だな」
目を引く紫陽花だが、今の体調不良に花を愛でる余裕はない。
普通の時に、夜急に覚醒して見た紫陽花なら美しはさに胸を跳ねさせているだろうに、勿体ないことだ。
そんな事を思った時だった、リィィィィンと頭に響く音に目を細める。
これは、定期的に聞く音よりも随分と大きい。
シュミットの場所に呼ばれる鈴ではなさそうだ。
だが、何かあるのだろう。
ぐわん……と周りが歪む。
頭の中もかき混ぜられるような感覚を覚えてクラリ……とすると、周りは暗闇に変わっていた。
目の前にあった窓も、紫陽花の道も、芽依の為に用意されている部屋も全てがなくなっている。
「………………は」
小さく息を吐くと、無音な空間に嫌に響いた。
体調が悪く、しゃがみこみたいのに不安で出来ない。
不安で不安でたまらなかった。
誰を呼べばいい? メディトーク? フェンネル? ハストゥーレ? ニア?
誰が来てくれる?
過呼吸のように浅く早い呼吸に変わり、胸を抑えた所でガシリと手首を掴まれた。
ビクン! と体を揺らすと、すごい力で引っ張られる。
恐怖しかなかった芽依はガクガクと震えてきたが、不意に香る甘やかな香に力を緩めた。
もう、大丈夫。
そう不思議にも理解した芽依は、抵抗すること無く身を委ねる事にしたのだった。
明るい朝日が瞼を通して感じる。
朝が来たのだ。あの怖い真っ暗な空間ではなく、穏やかな朝だ。
寝返りをうち、隣にある温もりに腕を回す。
とても安心する香に体の力はすっかり抜けて頬擦りすると、呆れたため息が聞こえた。
「………………ん? 」
「お前は抱きつかないと気がすまないのか」
「………………シュミットさん。なんで私の部屋に? 」
「お前の部屋じゃなく、俺の部屋の俺のベッドだ」
「………………デジャブ? 」
あれ? と首を傾げる芽依に、ため息を吐く。
あの暗闇の空間から芽依を連れ出したのはシュミットだった。
偶然もたらされたのは、領主アリステア襲撃の情報。
今ドラムストを支える一角にもなっている芽依を内部から食い荒らし、アリステアを嵌めるつもりだったようだ。
既に芽依とはカテリーデンで接触済みで、内部から食い荒らす為の種を植え付けられていた。
何かの呼び出しか、芽依自身を門にして頑強に閉ざされている領主館をこじ開けるつもりかは分からないが、阻止しようとした時には既に芽依の体調は悪く連れ去られる瞬間だったのだ。
ギリギリで手を伸ばし、掴んたその一瞬が芽依との時間の差を生んた。
シュミットはすぐに引き上げたのだが、芽依には数分間暗闇に取り残される感覚を味う事になる。
「……ありがとう、シュミットさん」
「ふん……肉まんが食べれないのは困るからな」
素直じゃないシュミットの言葉に思わず笑う。
体調はまだ良くはないが、昨日よりはだいぶマシになっていて、伸ばした手のひらを見る。
「体調が、昨日よりも良い」
「薬湯を飲ませた。お前とは合わない薬のようなものを食わされたから、体調が悪化したんだ。それを消すための薬を飲ませたから次第に治るから心配するな……もう1回薬湯を飲む必要があるが」
「何から何まで……」
起き上がり、既にベッドの上で座っていたシュミットに頭を下げた。
どうやらまた、芽依は無意識にシュミットの腰に腕を回していたようだ。
重ね重ね……と言うが、芽依の残念な姿を見てきたシュミットにとって、もう今更感が激しい。
体調の悪い芽依をベッド以外には寝かせられず、だが、自分がベッド以外の所でも寝たくないと、端に芽依を転がしただけで、シュミットは何の気遣いもしていないと首を振る。
「だが、そんなに言うなら……」
「肉まん、今はこれだけなので、先にどうぞ」
すっ……と差し出された肉まんを満足そうに見てからいそいそと片付ける為にどこかの空間に繋がっているのだろう、空間が歪み扉が開く。
そこに入れてから、薬湯を芽依に飲ませて領主館に送るべく動き出したのだった。
それは時間のかかるものでは無い。
芽依の部屋に道を繋げて、ポイッと捨てるように戻された芽依は、キョトンとベッドに座り込んでいた。
まだ早朝で、連れ去られてから2時間程、仮眠程度の時間をシュミットのベッドで眠ったようで、朝の準備に訪れるセルジオはまだ来ていない。
体調も、ドブのような味の薬湯を飲んだ事で良くはなったが、今度は薬湯の味で寝込みそうだった。
口直しに用意されていた桃を食べてリセットしたが。
「……………………美味しかったな、桃」
芽依の庭にある桃とは味が違うみずみずしさに意識を向けつつ、セルジオに今回の事がバレないようにと深呼吸をした。
お母さんの怒りは怖い。
黒に赤の模様が入った魔術仕掛けの手帳に何かを書き込んでいる。
それには様々な出来事や、起きた事象を書き込んでいて、芽依を巻き込んだ今回の事件もしっかりとチェックしていた。
ペン先でトントン……と数度叩いた後、手帳をパタリと閉じる。
「………………ああ、迷子札でも持たせるべきか」
いつでもどこでも連れていかれる芽依を思って、本気で考え込むシュミットは息を吐き出して髪をかきあげた。
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