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海と陸の対決
綺麗と可愛らしいと両立したその人は揺蕩う髪を手で払ってニコリと笑った。
綺麗さが段違い。たぶん、上位の人外者だ……。
そう思いながら見ていると目が合った。
「…………ふぅん。今回はまた珍しく人間が生き残ってるね。一番最初に死ぬのは大体弱い人間なのに。運がいいのが居るのかな? それに引っ張られてるんだね」
芽依、翔真、トーマス、ミリーナ、ミンミンと人間の方が多い。
それを面白そうに笑いながら見ている女性は人外者が先に死んだか……と言った。
「………………人外者が先に死んだってわかるのか」
「そりゃあね。毎回呼ばれる度に人間6人、人外者7人の13人だから……おっと。情報を言っちゃったね」
「……教えてくれないか。私たちは地上に戻りたい」
「対価は? 勿論ないなんて言わないよね? 情報が多いから……そうだね。移民の民1人くれたら話してあげるかな」
「はっ……」
芽依達3人をじっくり見てくる女性に固まる。
勿論、じゃあ行きますなんて言う人はいない。
ミンミンは早くっ! 誰行くの! とせっつくが、それどころじゃない。
「決まらないなら私が選ぶけど? ……君。美味しそう」
ペロッと唇を舐めて指さすのは翔真だった。
はっ?! と驚く翔真に芽依は見向きもせず、尾が浸かる水を見る。濁っていて不浄。
そこに常に浸かっている彼女たちの体調は言うまでもないだろう。
化粧で覆われた顔は美しいが、それを取ると一体どうなっているのだろうか。
「め……芽依ぃぃぃ……」
グイグイと芽依を掴んで助けてくれと言う翔真を放置して、芽依は悩んでいた。
水の浄化。それが対価にならないだろうか。
「お姉さん」
「……なに? 」
「この水……」
ちゃぷ……と指先を触ると腕を捕まれ水に落とされた。
ドボンッ! と音がなり芽依が顔から水に落ちた瞬間、リリベルとアーシェが飛び込み芽依を持ち上げた。
「うっ……ぐぅ……」
「水を飲んだか! 体内に回るぞ!! 」
水は負の感情を集め凝り呪いや不浄を溜め込んでいる。
このせいで低位の魚の人外者は狂っていた。
芽依は水を飲んだ訳では無い。
ただ、豊穣の力で皮膚から水の養分を吸い上げたのだ。
一気に体が重くなり体内がグルグルと何かが巡っている。
冷や汗を流し出した芽依をミリーナが近付き見るが、リリベルがすぐに押しのけて芽依を見る。
「……たった一瞬でどうやってこんなに溜め込むんだい! 」
ガッツリと顔掴んだリリベルが焦点の合っていない芽依を見つめる。
「怒んないでおくれよ!! 」
リリベルが芽依に顔を寄せて唇を奪った。
ゴォン……と低く重厚感のある音が耳に入ってくると、グルグルと渦巻いていた不快感が和らいできた。
リリベルが持つ浄化の作用が急激に芽依の体内を綺麗にしていく。
呆然と見ている翔真の目の前で、芽依は無意識に手を水に付けた。
意識が朧気に戻ってきた頃、芽依は一気に自分の中にある養分や呪いすら利用して触れる指先から土に力を返すように水に返していく。
豊穣が司る土とは違う、流れる水に委ねるように流れていく力はリリベルの浄化も含まれ水がどんどん綺麗になっていった。
「………………これは」
女性はパシャ……と尾を動かして水を見る。
そして、ぐったりとする芽依とリリベルを見た。
「……まさか」
小さく呟いた声は、意識が朦朧としている芽依には伝わらない。
5分か、10分か。
暫くリリベルから浄化されていた芽依が、急に動いてリリベルを押しのけた。
口元を覆って俯く芽依を、全員が助ける為にとリリベルを擁護するが首を横に振る。
芽依はそうじゃないと言いたいのだが、口を開けない。
「…………は……吐く……」
「………………まって! 袋! 袋ないか?! 」
慌てだした皆にごめんっ! と心の中で謝っていると、冷たい手が頬に触れた。
すると、吐き気がすっ……と落ち着く。
「…………あ? 」
「気分は? 」
「…………だい、じょうぶ」
顔を上げると、綺麗な笑みを浮かべている女性がいた。
両手で芽依の頬を撫でてから満面の笑みを向ける。
「十分すぎる対価をもらったから、いくらでも教えてあげる。私はエルローリエ。完全に体調を良くすることは出来ないから、帰ったらしっかり休むこと。いいわね? 」
「…………はい」
綺麗なお姉さん……と思いながら頷く。
全員芽依の指先が水に触れていたのは後から知った。
だからリリベルの浄化作用が芽依を通して水を綺麗にしたと思っているのだが、リリベルとアーシェ、そしてエルローリエだけが違うと分かっていた。
見ることに長けたアーシェ、自分の力を認識しているリリベル。
そして、何よりも冷静に俯瞰で見ていたエルローリエだけが気付いた芽依の異質性。
あえて口にすることを辞めた3人は、すぐに話を変えた。
「……さて、何が聞きたいんだったっけ? 」
「知ってる事全部」
「強欲だねぇ、嫌いじゃないよ」
芽依の瞳を覗き込んだエルローリエはカラカラと笑った。
「ここが水に沈んだ600年前、私達の住処が荒らされた。元々は地下にあった水場だったんだけどね、街が沈んで地下が潰され私たちはこっちに来るしか無かった。 綺麗な水場は沈んだ街と人間達の負の感情で一気に汚染されてさっきの状態。私達からしたらいい迷惑よ。水は勿論この場所は呪いと汚染で充満された。私たち水に住む住人以外は沈んだ街にいた当時の人たちの思いが具現化した姿。妄執よ」
「…………死んでるって事か」
「あなた達も他人事じゃないよ。魔術によって出来てる体の保護は3日間だけ。それを過ぎたらアレの仲間入りだから……早く出た方がいいわ」
指さす先には、時計塔で見た男がいる。
隣には女性がいて、当時一緒に転移してきて戻れなかった女性だろう。
「アイツらはまだ生きてるあなたたちが憎いの。帰れる可能性があるから。だから、足がある人は無条件で襲われるのよ。歩く足があるからね……あなた達は賢いわよ。アイツらに殺される転移者は数しれずってやつだから」
「…………そんな」
「まあ、アイツは550年前から帰りたくても帰れない憤りがあるから……」
「550年……そんな長く……じゃあ4回の召喚はすごい確率で当たったってことかよ……」
ぐっ……と手を握りしめて言う翔馬にエルローリエは首を傾げた。
「…………? もう400は超えてるはずよ。数なんて忘れたわ」
400を超えている? と全員が目を見開く。
4回とは、忘れられた回数の最初の1文字。500を超えたくらいには5回目と変わるというとだ。
「……なんで、皆騒がないんだよ。人がいなくなってるんだぞ?」
「さぁ? 忘却の魔術でもかけているのかしらね? 上でのことは知らないわ。サーカスのヤツらがなんかしてるんでしょ 」
ここに来てサーカスの名前が出てきた。
全員の目がエルローリエをじっと見る。
「……どうしてサーカスなんですか?」
「え? サーカスの団員が街が沈んだ時に何人も巻き込まれたからよ。浮上させたいのは、団員を水の底から救い出したいから。もう生きてないのにね」
「…………はぁ、なるほど」
アーシェは小さく呟いた。点と点が線で繋がっていく。
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