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「戦闘機乗りの劣情」番外編
Can I bum a smoke?
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「戦闘機乗りの劣情」の「もし捨て猫を見つけたら@社員食堂」の後日談。直樹の姉、茗子の部下視点です。
***
社員食堂で昼食を終えた後、坂本草太は自社ビルの外にある喫煙スペースに向かった。マルボロ赤に火をつけ、深く吸い込む。
見上げた空には雲ひとつない。いい天気だ。
隣のベンチでは女性社員が煙草を吸っている。つまらなさそうにスマホを眺める彼女のポーチに猫のキーホルダーがぶらさがっているのを見つけ、草太は口元を緩めた。
もし捨て猫を見つけたら、拾って、君のところに持って行くわ。
そう言って微笑んだ上司の梶茗子に、いつもの凛々しさはなかった。微笑みには困惑と迷いが滲んでいて、なんだか守りたくなるような心もとなさだった。
大先輩だけど、なんか可愛い人だよな。仕事中は鬼みてーだけど。
そう思うとまた笑みが零れた。
「なーに、一人でにやけてんだよ」
隣に腰を下ろしてきたのは、同期入社の青木だ。汗ばむ初夏の陽気に、ワイシャツの袖を肘まで捲り上げている。
「青木。お疲れ」
「お疲れ。一本くれよ」
「持ってねーのに喫煙所に来たのかよ」
草太はマルボロ赤を箱ごと青木に渡す。
「わりーな。火も頂戴」
草太が胸ポケットに手を伸ばすより早く、青木は咥えた煙草を草太の煙草に近づけてくる。シガーキスで火をつけると、青木は美味そうに吸い込んだ煙を吐き出した。
「なんか久しぶりだな。青木は今13階だっけ」
「おう。おまえは27階だろ。同じビルでも、部が違うと合わないもんだよな。忙しいんだろ、ブラマネ課」
カメリア化粧品入社3年目。草太は国際ブランドマネジメント課に、青木は人事課に配属されている。
「それなりな。人事課は春の移動終わったばっかで落ち着いてんだろ」
「まあな。あれ、おまえんとこの課長って確か梶茗子だろ。厳しいので有名だけど、実際どうなんだ?」
「可愛い人だよ」
考えるより先に口をついて出た。
それを聞いた青木はあんぐりと口を開けた。
「え、なに、おまえ、そういう趣味なの?」
「趣味って? おまえ、灰落ちそうだぞ」
携帯灰皿を差し出してやると、青木はとんとんと灰を落とした。
「梶課長って35超えてんだろ。10も上とか無理ゲー」
「ああ年上趣味ってことか。別にそんなんじゃないって」
草太は肩をすくめる。
入社してしばらくは大学時代から付き合っていた彼女がいたが、生活も環境も変わって、自然消滅した。彼女がいたら楽しいだろうなと思うこともあるが、今は仕事に打ち込みたいのが正直なところだ。
梶茗子は尊敬する先輩だが、ワーカホリックの気がある。
あの人と付き合ったら、デート中も仕事の話ばっかしてそうだよな。デートの行き先も迷わずデパートの化粧品売り場を選びそうだ。
想像すると可笑しくて、草太は煙草を吸うのも忘れてくつくつと笑った。手元の煙がゆるやかに空に昇っていく。
「んー、梶課長なあ」
その横で、青木は煙草を持ったまま考える人のようなポーズになっている。
「まあ美人っちゃあ美人だし。胸でかいしスタイルも良さそうだけど。独身で仕事命!みたいなバリキャリって、なんか痛いじゃん。年も年だし。俺、勃ちそーもないわ」
ははっと笑う青木の頭に、草太は加減せずチョップを落とした。
「っ痛えー。なにすんだよ」
抗議する青木の煙草を取り上げると、自分の吸い殻と一緒に携帯灰皿に押し込んだ。
何故だか無性に腹が立った。こめかみのあたりの血が沸騰するように熱い。
おまえがあの人の何を知ってるんだ。
梶課長はどれだけ忙しい時でもテンパらないし、冷静に仕事を捌く。上から横から無理難題吹っ掛けられても、無理とか出来ないとか言わずに、前向きに取り組む。
部下の失敗は自分の失敗だと一緒に頭を下げてくれる。
流暢な英語で商談をしている時の凛とした横顔や、すっと伸びた背筋の美しさ。
エレベーターで腹が鳴って恥ずかしそうにしていた時は妙に可愛らしかった。弟さんからの電話には緊張のためか指先が震えていた。
優しさと強さと弱さが混在した人なのだ。
おまえは何も知らないくせに。
「失礼なこと言うな。おまえが課長のこと考えんな」
思わず低い声が出た。
その声音に驚いたのか、青木の顔から笑いが消えた。代わりに、どこか脅えたような表情になる。
「草太。悪い、調子乗った」
青木が両手を合わせてやけに真剣に謝ったので、草太もすぐに怒りを鎮める。
「どこで誰が聞いてるか分からないんだから、あんま品のないこと言うなよな」
「悪かったって」
もう一度詫びる青木を残し、草太は立ち上がった。
「俺、先戻るわ。お疲れ」
「お疲れ。煙草、サンキューな」
「おう」
軽く手を挙げて去っていく同期の後ろ姿を眺めながら、青木は息を吐いた。
「こえー。何が別にそんなんじゃないだよ。あんなんでキレるとか、普通にガチだろ」
***
社員食堂で昼食を終えた後、坂本草太は自社ビルの外にある喫煙スペースに向かった。マルボロ赤に火をつけ、深く吸い込む。
見上げた空には雲ひとつない。いい天気だ。
隣のベンチでは女性社員が煙草を吸っている。つまらなさそうにスマホを眺める彼女のポーチに猫のキーホルダーがぶらさがっているのを見つけ、草太は口元を緩めた。
もし捨て猫を見つけたら、拾って、君のところに持って行くわ。
そう言って微笑んだ上司の梶茗子に、いつもの凛々しさはなかった。微笑みには困惑と迷いが滲んでいて、なんだか守りたくなるような心もとなさだった。
大先輩だけど、なんか可愛い人だよな。仕事中は鬼みてーだけど。
そう思うとまた笑みが零れた。
「なーに、一人でにやけてんだよ」
隣に腰を下ろしてきたのは、同期入社の青木だ。汗ばむ初夏の陽気に、ワイシャツの袖を肘まで捲り上げている。
「青木。お疲れ」
「お疲れ。一本くれよ」
「持ってねーのに喫煙所に来たのかよ」
草太はマルボロ赤を箱ごと青木に渡す。
「わりーな。火も頂戴」
草太が胸ポケットに手を伸ばすより早く、青木は咥えた煙草を草太の煙草に近づけてくる。シガーキスで火をつけると、青木は美味そうに吸い込んだ煙を吐き出した。
「なんか久しぶりだな。青木は今13階だっけ」
「おう。おまえは27階だろ。同じビルでも、部が違うと合わないもんだよな。忙しいんだろ、ブラマネ課」
カメリア化粧品入社3年目。草太は国際ブランドマネジメント課に、青木は人事課に配属されている。
「それなりな。人事課は春の移動終わったばっかで落ち着いてんだろ」
「まあな。あれ、おまえんとこの課長って確か梶茗子だろ。厳しいので有名だけど、実際どうなんだ?」
「可愛い人だよ」
考えるより先に口をついて出た。
それを聞いた青木はあんぐりと口を開けた。
「え、なに、おまえ、そういう趣味なの?」
「趣味って? おまえ、灰落ちそうだぞ」
携帯灰皿を差し出してやると、青木はとんとんと灰を落とした。
「梶課長って35超えてんだろ。10も上とか無理ゲー」
「ああ年上趣味ってことか。別にそんなんじゃないって」
草太は肩をすくめる。
入社してしばらくは大学時代から付き合っていた彼女がいたが、生活も環境も変わって、自然消滅した。彼女がいたら楽しいだろうなと思うこともあるが、今は仕事に打ち込みたいのが正直なところだ。
梶茗子は尊敬する先輩だが、ワーカホリックの気がある。
あの人と付き合ったら、デート中も仕事の話ばっかしてそうだよな。デートの行き先も迷わずデパートの化粧品売り場を選びそうだ。
想像すると可笑しくて、草太は煙草を吸うのも忘れてくつくつと笑った。手元の煙がゆるやかに空に昇っていく。
「んー、梶課長なあ」
その横で、青木は煙草を持ったまま考える人のようなポーズになっている。
「まあ美人っちゃあ美人だし。胸でかいしスタイルも良さそうだけど。独身で仕事命!みたいなバリキャリって、なんか痛いじゃん。年も年だし。俺、勃ちそーもないわ」
ははっと笑う青木の頭に、草太は加減せずチョップを落とした。
「っ痛えー。なにすんだよ」
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何故だか無性に腹が立った。こめかみのあたりの血が沸騰するように熱い。
おまえがあの人の何を知ってるんだ。
梶課長はどれだけ忙しい時でもテンパらないし、冷静に仕事を捌く。上から横から無理難題吹っ掛けられても、無理とか出来ないとか言わずに、前向きに取り組む。
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