白魔術士ルキアーノ、吟遊詩人に骨抜きにされる。

ナムラケイ

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 食事の後、訓練場に向かう途中でクエスト案内人のマヤに出くわした。

「おはようございます」
「おはよう」

 挨拶を交わしてから、ルキアーノは周りに誰もいないことを確かめた。小声で話しかける。

「あのさ、この里に男は住んでないんだよな」
「はい。天女の里セレスは男子禁制ですから。今、里にいる男性は、クエストでいらっしゃっているパーティの皆様だけです」

 マヤは即答する。

「そうか。例えば、旅の楽師なんかだと男でも入れるのか」
「入れません。楽師も商人も、男性は里の入口でお断りしていますから。何かあったんですか?」

 男の吟遊詩人が紛れ込んでいるなどと言わない方が良さそうだ。
 それに、言えばルキアーノが里内をふらついていたことがバレて藪蛇だ。

「いや、いいんだ。変なこと聞いて悪かったな」

 話を終わらせようとしたルキアーノに、マヤが言った。

「ルキアーノさん。もし何かを見られたのであれば、関わらない方がいいですよ。この里には、人の生気を吸い取る魔性が現れることがあるんです」 

 意味深な言い方に、ルキアーノは悟る。
 マヤは、あの少年の存在を知っているのだ。
 知っているが、はっきりとは口にできないのだ。
 何故だ?
 マヤはルキアーノの返事を待たずに、宿屋に戻って行った。



 かぽーん。
 宿屋の大浴場で、勇者カイ、武闘家ルシオ、黒魔術師トーラ、白魔術師ルキアーノの4人は揃って湯船に浸かった。

「はああああああ」

 熱めの湯の心地よさに、同時に溜め息をつく。
 午後一杯、フォーメーション攻撃の訓練をしたので、4人とも筋肉ががちがちだ。

「ルキアーノさん、具合でも悪いんですか」

 ルシオが尋ねた。

「いや、大丈夫だが」
「ならいいですけど。今日、下半身の動きが鈍かったですよ」

 無邪気に指摘するルシオに、ルキアーノは目の前を泳いでいたゴム製アヒルを握りつぶした。
 ピュフーッと間抜けな音がする。

 そんな純情そうな顔して「下半身」とか言うんじゃねーよ。
 ってか、おまえの裸に俺の下半身は元気になりそうだよ。

 流石に男子風呂で浴場しないだけの自制心と技は兼ね備えているが、ルシオの引き締まった身体が湯で上気しているのは何とも艶めかしい。

 事情を知っているトーラは素知らぬ顔だ。
 カイは余程気持ちいいのか、頭に手ぬぐいを乗せたまま目を閉じている。

 トーラや勇者殿には全く何にも感じないんだから、人の好みってやっぱあるんだよな。
 そうだよ、俺はルシオみたいな男がタイプであって、あんなガキはお呼びじゃねえんだよ。
 そうだ、昨夜はあいつに誘われたからああなっただけで、あれは気の迷いだ。
 うん。

 けど、信じられねーくらいキレイな顔と身体してやがったな。
 じゃねーだろ、俺!!!

 悶々としながら、ぶくぶくと湯船に沈んでいくルキアーノに、カイが冷たく言った。
 先ほどまで閉じられたいた金色の瞳が、きらりと光る。

「何に現を抜かすのも結構だが、足だけは引っ張るな」

 面倒くさがりで無口で社交性の欠片もない男だが、勇者は腐っても勇者だ。
 迫力が半端ない。

「悪かった。気をつける」

 ルキアーノは素直に詫びてから、湯を出た。
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