ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Sorano: 隣人がすっげーエロくて。

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 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
 校舎中にチャイムが鳴り響く。チャイムの音はいつだって間抜けだ。

「三沢ー、昼だぞ。学食行くけど、おまえどうすんの」
 空乃が机に突っ伏していると、宮内あつしの声が降ってきた。
「行かねえなら置いてくぞ」
「食欲ねえ」
 顔を伏せたまま、ぼそりと呟く。
「えー、三沢っち、どっか悪いの?」
 馴れ馴れしく額に手を伸ばしてくるのは、同じく悪友の小倉弥彦だ。
「こいつに限って身体を壊すか。春眠暁を覚えずだろ」
 敦、てめえ失礼な奴だな。
 俺は別に眠いわけじゃない。朝の出来事にショックを受けているだけだ。

「確かに、昨日の夜は雨も風もやばかったよね」
「花が散るほどではなかったけれど」
 クラスメイトの武部みのりと泉田塔子いずみだとうこが、有名な漢詩の解釈を引用しながら会話に入ってきて、空乃の周りは一気に騒がしくなる。
 だから俺は眠くはない。孟浩然とかどうでもいい。

「うっちー、学食行くんなら、うちらも一緒してい?」
「おう。武部、今日弁当じゃねえの」
「今、ママが出張中でさ」
「へえ。事務次官も大変だな。ほら、三沢、行くぞ」
 敦に無理やり腕を引っ張られる。デカくて強面だが、敦は昔から面倒見がいい。
「おまえら、マジうるさい」
 ぼやきながらも、空乃は通学鞄から財布を取り出し、席を立った。
 こうやって無理やりにでも連れ出してくれるのは、正直、有り難い。
 乱れた髪をポニーテールに結びながら、廊下を歩く。
 5人で並んで歩いていると、他の生徒達がなんとなく道を開ける。
 ぶつかったら因縁をつけられるとでも思われているのだろう。

 自分のガラの悪さは分かっている。
 目つきは悪いし、金髪にピアスは5つ。
 色んな噂が立っているらしく、空乃はクラスでは遠巻きにされている。
 よく一緒にいるのは、敦と弥彦、みのりと塔子。
 アクの強い固定メンバーでつるんでいるから、余計輪が広がらない。


「おばちゃーん、俺、A定」
「あ、僕もA定ください」
 カウンターに並んだ敦と弥彦が同時に声を張り上げる。
「はいよっ」
 プラスチックのトレイに、メラミンの食器が神業スピードで置かれていく。皿を見た敦が抗議する。
「ちょい、おばちゃん、なんで小倉だけイカ天2個なんだよ」
「可愛い子にはサービスだよ」
「はあ?」
「うっちー、あんたは可愛くないんだから、さっさと詰めな。おばちゃん、私、サラダランチね」
「おい、武部、押すなよ」

 騒がしい奴らだ。
 苦笑しながら、空乃はワカメうどんをオーダーする。
 前に並ぶ塔子のトレイには、おにぎりが二つ並んでいる。それを見て、今朝の行人の困った顔を思い出した。
 おにぎり、食ってくれただろうか。塩と海苔だけにしたけど。
「具」
 何が一番好きなんかな。
「ぐ?」
 声に出てしまったらしい。塔子が振り向いた。
 塔子は黒髪ストレートの正統派美少女だが、性格は難アリ。
 強気で皮肉屋で、オヤジだ。
「おまえ、おにぎりの具って何が好き」
 思わず訊いた空乃に、塔子は即答する。
「梅干し」
「……鉄板な」
「塔子、そういうとこカッコいいよね。三沢っち、あたしは野沢菜だよ」
 塔子の前から意見するみのりは、全体的に派手だ。
 スカートは極限まで短いし、ミルクティー色に染めた髪をくるっくるに巻いている。睫毛は人工的に長くて、目元はラメが眩しい。
 対照的なこの二人が何故仲が良いのか。女子はよく分からない。
「みのりも大概渋いな」
「ヘルシーだかんね」
「俺は肉味噌。席、あっちに取ってるな」
 一番に注文を終えた敦のトレイには、全員分の水が乗っている。律儀な奴だ。
 全員が席に着くのを待って、同時にいただきますをする。
 成長期の17歳だ。なんだかんだで空腹だったので、全員が無言で各々の皿を平らげる。

「三沢っち、僕のオススメは、揚げ玉だよ」
 一息ついてから、弥彦が言った。
「揚げ玉?」
「おむすびに揚げ玉と葱入れると、天丼みたいで美味しいんだよ。この前、彼女に作ってもらった」
 弥彦は、小柄で、いつもにこにこしているマスコットキャラだ。男らしさの欠片もないが、クラスでは一番モテる。彼女が切れたこともない。
「三沢、なんでいきなりおにぎりの話なんだ?」
 敦が至極もっともな疑問を呈す。
「………別に」
 隣人がすっげーエロくて、思わずキスを迫ってしまい、誤魔化しと贖罪のために手作りの握り飯を押し付けてしまったが、間違いなくドン引きされて変態扱いされています。
 それが超ショックです。しかもその隣人は男です。
 なんて、こいつら相手でも言えるはずもなく。

 空乃は、うどんの汁に向けてため息をついた。
 落ち込む空乃の横で、塔子がくっくっと笑っている。
 黒髪で顔を隠すように笑うので、怖い。
「おまえ、そういう笑い方、貞子みてーだからやめろよ」
 塔子はしたり顔で、空乃にだけ聞こえる音量で言った。
「三沢。恋はいいぞ」
 女子の第六感に、咄嗟に反論できなかった。
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