ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Yukito: イケない大人になった気がする ★

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 細い煙が空の彼方へ昇ってゆくのを見つめていた。藤森と二人で。
 一哉は道しるべを頼りに戻ってきているのだろうか。煙の匂いが身体にまとわりついている。
 夕陽の残滓が霧散し、夜の闇が薄いベールのように降りてくる。駅からコーポアマノまでの短い帰り道。
 今、自分の隣に立つ男を見失わないように、行人はそっとその指先を摘まんだ。
 空乃が答えるように指先に力を込める。
 触れる指先は互いに汗ばんでいて、熱い。
 その熱さはきっと夏のせいだけじゃない。
 会話するように指先を絡め合い、二人は静かに道を歩いた。

 202号室。空乃の部屋に入るなり、玄関先できつく抱きしめられた。
「そら、の?」
 汗と柑橘系の香りに包み込まれて、どくりと心臓が波打つ。
 玄関で抱き合っていると、初めて空乃とキスをした時のことを思い出して、更に鼓動が高鳴る。
「ユキ。マジでいいの?」
 空乃が耳元で囁いた。切羽詰まった声だった。
 帰ってくるから。そしたら、付き合おう。
 そう告げたのは行人だ。
 答える代わりに、肩口に当てていた顔を上げる。つま先立ちをして、空乃に口づけた。
 柔らかく触れるだけのキスをすると、空乃が啄むように答えてくる。
「ユキ」
 返事を促される。
 言葉にしないと伝わらない。それを教えてくれたのは君だから。
「君が好きだ。俺と付き合ってほしい」
 キスの合間の告白に、空乃が微笑む。
「うん。俺もすげえ好き。けど、ユキ、付き合うの、怖くねえの」
「怖いよ」
 正直に言うと、身体を抱きしめる力が強くなった。この腕を失いたくない。
 君と出会ってから、失いたくないものばかりが増えていく。
 怖いけど。怖くても、欲しい。
「怖いよ。俺はもう、好きな人を失いたくない。もし君を失ったら、俺は今度こそ壊れる。だから、空乃。俺より先に死なないでくれ」
 祈るように請うと、空乃は更に苦しいくらいに抱きしめてくる。
「んな、勿体ないことするかよ」
 力強い腕と高い体温に、鼓動が高鳴る。血流が早くなりすぎて、こめかみが痛い。
「ユキ。俺はあんたのことがめちゃめちゃ好きで。誰に譲るつもりもねえし、あんたを置いて死ぬとかどっか行くとかそんな勿体ないこと絶対しねえ」
 鼻の奥が痛くなって、行人は目をしばたいた。
「泣くなよ」
「泣いて、ないっ」
「泣いてんじゃん」
 そう言う空乃の瞳も潤んでいる。
 空乃の唇が涙を拭うように瞼に触れ、それから唇に降りてくる。
 行人は受け入れるように口を開く。互いの全部を味わうように夢中で舌を動かした。
 気持ちの籠ったキスはこんなにも気持ちいい。
 歯列をなぞられ、舌を吸われ、痺れが走る。

 時間は止まることなく進んでいく。
 過去は色を失い、新しい時間はきらきら光りながら押し寄せてくる。
 一哉さん。あなたが死んだ時、もう二度と誰のことも好きにならないと誓った。
 誰と寝たって心だけは動かされないと。
 そう思っていたのに。今、俺は、空乃のことが好きなんだ。
 一哉さん。俺はごめんなさいなんて言わない。あなたには、ありがとうしか言いたくない。
 いつかそっちで会ったら、思う存分殴っていいから。
 俺が、新しい時間に進むのを見ていてほしい。
 一哉のことを考えられたのは、そこまでだった。
「余計なこと、考えんなって」
 行人の思考をシャットアウトするように、空乃が両耳を塞いでくる。
 甘くて激しいキスの水音が頭の中に響く。
「……んっ、そら、の」
 脳が溶けるような感覚に思わず声が漏れた。
 きつく抱き合っているので、互いの身体の中心が熱くなっているのが布越しに分かる。
 空乃が興奮しているのが嬉しい。もう、君にすべてを委ねたい。
 唾液に濡れた行人の唇を空乃の指先が拭った。
「ユキ。部屋、行くぞ」 


 クーラーをつけたままだったらしい8畳は冷え切っていて、熱を宿した身体に気持ちがいい。
 空乃は押し入れから敷布団を出すと、その上にそっと行人を押し倒した。
 上から圧し掛かられ、今からセックスをするのだと実感が沸いてくる。
 空乃が料理をするのを見るのが好きだ。長くて清潔な指が素早く繊細に動き、食材を美味い料理に変身させていく。その指が、今、行人に触れている。
 行人の身体のすべてを知ろうとするように、優しく撫でられなぞられる。
 直接的な性感帯ではない、鎖骨の下や脇腹、腰骨の上をじらすように吸われて、腰が震える。

「おまえ、本当に高校生なの」
 その手管に抗議すると空乃は悪びれずに笑う。
「だってユキ。どこ触っても反応いいから」
「っさい…っ、やめ、そこ吸うなって。んっ…」
「あ、跡ついた」
「見えるとこはやめろよ」
「見えないとこはいーんだ」
 楽しそうに笑う空乃だが、我慢と緊張を押し隠しているのが分かる。
 空乃はボクサーパンツ一枚になっていて、自然な筋肉がついた肉体は喧嘩の古傷が痛々しい。ヤンキーらしい紫のパンツの中心はずっと張りつめたままだ。
 本能は、すぐにでも突っ込んで腰を振りたいと訴えているのだろう。それを堪えて丁寧なセックスをしてくれる君が愛おしい。
 我慢が辛いのは行人も一緒だ。勃起しっぱなしの下半身は痛いくらいで、多分、もうどろどろだ。
「空乃」
「ん?」
「下、脱ぎたい」
「ユキちゃん、あんまエロいこと言うなよ」
 揶揄いながらも、空乃はスラックスを脱がしてくれる。
 視線を降ろすと、グレーのボクサーパンツは先走りを吸って色が変わっている。分かりにくい黒にしとけば良かったと今更なことを思う。
「すげ」
 空乃が呟き、そのまま唇を寄せてくる。
「ちょっ、何して」
「何って、見たまんまだけど」
 濡れた下着越しに股間に口づけられる。熱い息をかけられ、腰が浮いた。
「すげー、エロい匂いする」
「…めろって。そんなこと、しなくていいから」
 股の間で、金色の髪がさらさらと揺れる。男子高校生にフェラさせるとか。
 無理だ、目に毒だ。刺激的すぎる。
 止めさせようと頭に手を伸ばすが、髪の感触が指に気持ちよくて、思わず撫でてしまう。空乃の指がパンツの縁にかかる。
「これ、脱がすな」
 断りと行為は同時で、下着からこぼれ出た性器に躊躇いなく舌を這わされた。ぬるりとした舌の感触に、背筋を快感が走り抜けた。
 竿を往復する舌。空乃の。
「う、そ。…んっ、あっ」
 駄目だ、こんなの、本当に駄目だ。気持ちよさにどうにかなりそうだ。
「ユキ、腰、揺れてる」
 舐めながら話すので、息が吹きかかる。それすら刺激になる。
「そらの、も、無理」
「まだちょっとしか舐めてねえよ。でもユキ、先走りすげえのな」
 その先走りを掬うように鈴口を舌で刺激された。
 次いで、亀頭ごと口の中に吸い込まれ、じゅじゅっと音を立てて上下される。強い快感に自然に腰が揺れてしまう。
 やば、これ。もう、こんなの、すぐにイきそうだ。
「はは、きもちよさそー」
 上目遣いのまま、固くした舌でカリを擦られた瞬間、目の前がちかちかした。
 もうこうなったら我慢なんて出来なくて、見知った感覚に身を委ねるしかない。
「や、あ、あ、あっ、イく、イくっ…」
 強い快感に身体が震える。
 最後の理性で空乃の口から引き抜いたが、間に合わずに白濁が飛び散った。
 びくびくと吐き出される精は濃くて量も多い。
 達するところを空乃に見られているのだと思うと、快楽と羞恥で頭がおかしくなる。
「…っ、あっ、ごめん…」
 出し終えて荒い息を吐きながら、行人は謝った。早漏で顔射とか。あり得ない。
 名誉のために弁解するが、普段は決して早漏ではない。
 テクニックとかじゃなくて、もうこれは、空乃だから、好きだからとしか説明できない。
「なんで謝んの。抜かなくても、俺、全部飲んだのに」
 空乃は余裕の表情で、唇の端に飛んだ精液をぺろりと舐めている。 
 あまりの居たたまれなさにタオルケットにくるまると、空乃はタオルケットごと抱きしめてくる。
「ユキちゃーん、何拗ねてんの。イくとこ、すげえ可愛かったのに」
「自分がイケない大人になった気がする」
「いいじゃん、イケない大人」
「駄目だろ」
「駄目じゃないだろ。な、気持ちよかった?」
「何言わせるんだよ」
「俺、フェラ初めてだったからさ。ちゃんと気持ちよかったかなって」
 そうか、そうだよな。
 空乃はゲイじゃない。行人と付き合わなければ、フェラなんて一生経験しなかったかもしれない。
 それが、同じ男のものを躊躇いなく咥えてくれたのだ。
「…良かった、です」
「ぶは、なんで敬語」
「うるさい。おまえ、無駄に器用だよな」
「ユキちゃんを気持ちよくすることの何が無駄だよ」
 軽口を叩き合っていると視線が合い、吸い寄せられるように自然にキスをした。
「な、ユキ。続き、していい?」
 首を傾げる空乃の目は欲を孕んだ男のもので、その年不相応の色気に行人は唾を飲み込んだ。
 高校生だけど、ちゃんと男だ。俺が好きになった、男だ。
 行人はタオルケットを肩から落として、空乃の頬に触れた。
「うん。して」
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