龍の檻と青年

はる

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危機

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夜の闇に包まれた密会場の駐車場。
 
黒塗りの車が静かに停まると、エンジンが切られた。

後部座席に座る桐谷悠は窓の外をじっと見つめていた。
 
長い沈黙のあと、助席にいた蓮が素早くドアのロックを解除する。

蓮「若、着きました。」

蓮の低い声に、桐谷はゆっくりと体を起こした。
 
その視線はまっすぐ前を向き、揺るがぬ覚悟が宿っている。

蓮がドアを開けると、冷たい夜風が車内に流れ込んだ。

桐谷「さあ、行こう」

蓮は桐谷の背中をそっと押すように促し、車外へと導いた。

桐谷は片足を車外に降ろす。
 
静かな闇が彼を包み込み、今まさに始まる緊迫した時間を告げていた。


静かな夜にコツコツと靴の音だけが響く。

その時だった。


蓮の目にキラリとしたものが映る。

蓮「若っっ!!!!」


ぱんっっっ!!


蓮が叫んだと同時に銃声がなる。

「うっっっ、、。」

倒れ込みそうになった蓮を慌てて桐谷が支える。

桐谷「蓮っっ!!!」

蓮を支えた桐谷の手は真っ赤に染まっていた。

桐谷「クソッッ!やられた」

桐谷「おい、周りを確認しろ!!」

組員「、!!はいっ!!」

桐谷は蓮を支えて車に乗り込んだ。

桐谷「だせ。〇〇病院に。急げ!」

そう、運転手の組員に告げ、蓮の応急処置にあたった。

桐谷「どこを撃たれた?!」

蓮「ハハッ笑大丈夫っすよ。はぁはぁ
少し右肩をかすっただけです。」

桐谷はそれを聞きながら、急いで蓮の右肩を止血しようと、ネクタイでキツく縛った。

桐谷『血の量が多い、、かすっただけじゃないな、、』

桐谷「すまねぇ、、。」

蓮「なにらしくないことを、、笑はぁ、はぁ
これが俺の仕事なんで笑
若が無事でよかった、笑」

桐谷「もういい、それ以上喋るな
あと、少しだ。耐えろ。」



病院ー

蛍光灯の白い光が、やけに眩しかった。
 
無機質な廊下に、時間だけが重く沈んでいく。
 
桐谷は背中を壁につけ、腕を組んだまま目を閉じていた。

——蓮の血の感触が、まだ手に残っている。

 
車内で肩を押さえつけ、必死に止血しながら病院へ向かった。
 
それでも、あいつはずっと意識を失わなかった。

蓮「若が無事なら、それでいい」
 
笑って、そんなことを言いやがる。

ふざけるな。

そんなもんで済ませていいわけがない。

背中にかくりと力が抜けたとき、処置室の扉が開いた。

白衣の医師が現れ、落ち着いた声で告げた。

医者「……桐谷悠さん。付き添いの方ですね?」

「はい。……蓮は、?」

医師はカルテを手に持ったまま、はっきりと言った。

医者「右肩の貫通銃創です。ですが、運が良かった。防弾チョッキを着ていたこともあり、骨にも血管にも重大な損傷はなく、弾もすぐに摘出できました」

そして——

医者「命に別状はありません。ご安心ください」

その言葉が降りた瞬間、桐谷は無言のまま、ゆっくりと目を閉じた。

全身からふっと力が抜ける。
 
組んでいた腕が落ち、壁に凭れた肩が少しだけ沈む。

よかった——なんて言葉は出なかった。
 
ただ、心の奥で張り詰めていた何かが、静かにほどけていくのがわかった。

桐谷「目を覚ますのはいつぐらいですか?」

医者「全身麻酔なので、今夜中には。傷は深くありませんが、安静が必要です。動かすのは避けてください」

桐谷「……分かりました。ありがとうございます。」

桐谷は短くそう答えると、処置室の扉を見つめた。

そこにいるのは、たかが部下なんかじゃない。
 
命を懸けて、自分を守ってくれた“家族”だ。

心の中で小さく呟く。

——生きてくれて、ありがとう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

規則的な電子音が、病室に静かに響いていた。
 
蓮は、まぶたの奥でぼんやりと光を感じていた。
 
意識の縁をさまよう中で、胸元に走った鋭い痛みが、徐々に現実を呼び戻していく。

蓮「……っ……」

眉を寄せ、ゆっくりと目を開ける。
 
天井の白さが目に飛び込んできた。

隣で椅子のきしむ音がする。

桐谷「……起きたか」

低く、聞き慣れた声。
 
目を向けると、ベッド脇の椅子に腰を下ろす若がいた。

黒いスーツのまま、少し自分の血がついた腕を組んで俺をみていた。
 
その顔に、いつもの冷静さはあったが、目の奥にだけは明らかな疲労と、何かを押し殺す色があった。

蓮「……若……」

喉がひりつき、声にならない。

桐谷「喋んな。医者には“しゃべるな、動くな”って言われてる」

口調はいつも通りだが、その声に滲んだ安堵は、隠しようもなかった。

蓮はゆっくりと呼吸を整え、微かに笑みを浮かべた。

蓮「……死んでないんですね、俺……」

桐谷「当たり前だ。あんなもんでくたばるようなヤワな育て方はしてねぇ」

冗談めかしたその一言に、蓮は目を細めた。

蓮「……若、無事ですか……?」

桐谷は短く息をつき、眉間に皺を寄せた。

桐谷「……あぁ、お前が守ってくれたおかげで傷一つない。助かった。俺のことは今考えんな。
いいか、てめぇは今、寝て治すだけだ。わかったな」

 蓮は頷こうとして、痛みで顔をしかめた。

蓮「……へいへい、了解っす……」

沈黙の中で、桐谷はゆっくりと立ち上がり、ベッド脇に歩み寄る。
 

桐谷「……一つだけ、聞かせろ」

 蓮の瞼がわずかに動き、視線だけが桐谷をとらえる。

桐谷「なぜ……撃たれると気づいた?」

桐谷の声は低く静かだった。
 
だが、その奥にあるのは単なる疑問じゃない。
 
“命を張って守った理由”を、確かめたかったのだ。

蓮は少しだけ笑った。
 
それは力ない、けれども迷いのない笑みだった。

蓮「……気配です。空気の、張り方が変わった」

桐谷「気配、ね……」

桐谷は目を細めた。

蓮は続ける。

蓮「車が止まって、あの会場の裏手……妙に静かすぎたんです。虫の音も、人の気配も、ない」

 「……」

 蓮「風向きが変わった瞬間、金属が動いた音がしました。安全装置を外す、小さな“カチ”って音」

その説明に、桐谷は短く息をついた。

桐谷「それで、俺を庇ったのか」

 蓮は静かに頷いた。

蓮「ええ。……あそこに立ってたのが俺や若じゃなくて、奏多だったらって思ったら……ゾッとしました」

桐谷の眉がわずかに動いた。

蓮は目を閉じながら、続ける。

蓮「俺は、桐谷さんの“隙”を守るために側にいるんで。……それが仕事ですから」

数秒の沈黙が落ちた。

やがて、桐谷はふっと目をそらし、ベッドの端に手を置いた。

桐谷「……ありがとな」

その言葉は、静かだけど、確かに重たかった。

蓮はそれに応えるように、わずかに口元を緩めた。

再び目を閉じた蓮の表情は、どこか安心したようだった。

桐谷はしばらく何も言わず、ただ黙って蓮の呼吸を見守っていた。


すると、ジャケットの内ポケットで、スマートフォンが震えた。

バイブの音がやけに大きく響く。

桐谷は眉をひそめながら画面を見る。
 
発信者は、一応のために奏多につけていた警護の若手の組員だった。

嫌な胸騒ぎが、脊髄を走る。

通話ボタンを押した瞬間、焦った声が飛び込んできた。

組員『桐谷さん! す、すみません! 奏多さんが……いません!』

その言葉に、時間が止まったように感じた。

桐谷「……は?」

低く押し殺した声で返す。

組員『後ろからつけていたんですが、姿が見えなくて……連絡も、ずっと繋がらないんです……!』

脳裏に、先ほど病院に来る直前の光景がよみがえる。
 
「ここで待ってろ」と言って残した、あの瞬間。

誰もいない密会場。

いきなり撃ってきた輩。

——嫌な予感は、確かにあった。

桐谷は通話口を睨みつけるように言った。


桐谷「周囲は確認したのか」


組員『はい、建物内・周辺の監視カメラも今確認中ですが……他の幹部にも共有を——』

桐谷「甘いんだよ、お前ら……ッ!」

怒鳴り声を叩きつけた。

目を開けていた蓮がわずかに顔をしかめて桐谷を見る。

蓮「……奏多、どうかしたんですか」

桐谷「……いねぇ」

その一言で、蓮の表情も凍りつく。

桐谷は立ち上がり、スーツの裾を整えながら短く呟いた。


桐谷「すぐ戻るから。急いで探せ!!!」





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