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手のひらの温度
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次に目を開けたとき、
奏多は、いつのまにか病室のベッドの上に戻されていた。
白い天井。
夕日が薄く染めるカーテンの端。
静かすぎる空気。
そして――
そこには誰もいなかった。
(……あれ……?)
ほんの少し前の記憶が、霞のように揺らぐ。
桐谷の声。触れた指先。
涙が勝手に流れたこと。
その全部が、急に色を失っていく。
(……やっぱり……夢だったんだ……)
胸の奥が、ゆっくり沈んでいくように痛んだ。
自分の涙の温度も、
桐谷の手の熱も、
心臓が早く打ったことも――
全部ただの「願い」みたいに思えてくる。
誰もいない部屋が、
その残酷さを肯定してくれるようで。
奏多の目から、ぽろりと涙が落ちた。
一滴落ちる音が聞こえそうなほど、
静かで孤独な涙だった。
(……会いたい……)
その言葉だけが、胸の奥で震えていた。
その瞬間――
病室のドアが、静かに開いた。
「――奏多」
低く、掠れた、聞き慣れた声。
奏多の身体がびくっと震える。
顔を向けると、
そこに立っていたのは、まぎれもなく桐谷だった。
夕日を背にして、
強張った顔で、息を少しだけ荒くして。
まるで走って戻ってきたみたいに。
奏多の目に、涙が一気にあふれた。
止めようとしても止まらなくて、
喉の奥がひゅっと狭くなる。
「……な、なんで……」
声にならない声が、息だけで漏れた。
桐谷は驚いたように一歩近づき、
その顔が痛むほど優しい。
「お前……泣いて……どうした……?
俺、ただ飲み物買いに行ってただけだぞ……」
まるで胸を押さえるような小さな声で、
桐谷がベッドの横まで駆け寄った。
奏多は震える指先を伸ばした。
触れたくて。確かめたくて。
夢じゃないと知りたくて。
桐谷は今度こそその指をそっと掴んだ。
大きくて、温かい手で。
その瞬間――
涙が止まらなくなった。
桐谷「……奏多」
「……ここにいる。夢なんかじゃねぇよ」
桐谷は、泣きじゃくる奏多の指を強く握りしめ、息が震える声でそう告げた。
夕日の光の中で、
奏多の涙は静かに流れ続けた――
まるで、ずっと欲しかった答えに触れたように。
涙がひとしきり流れたあと、
奏多はようやく呼吸を整えはじめた。
まだ目の縁は赤く、
身体は熱に浮かされたようにだるくて、
胸の奥のざわめきは完全には消えない。
けれど、桐谷の手がずっと握られているだけで、そのざわめきはゆっくり静まっていった。
桐谷は、奏多の指を撫でながら小さく息をつく。
桐谷「……泣かせちまったな。悪かった」
まるで自分のせいだと思っているような声音だった。
奏多はかすかに首を横に振る。
“悪くないよ”と伝えたいのに、うまく言葉にならない。
桐谷は俯いたまま、ふと口を開いた。
桐谷「……なぁ、奏多」
その声には、いつもの強さがなかった。
痛みを押し殺すような低い響き。
奏多は桐谷の顔を見る。
桐谷はその視線を受けたまま、一瞬言葉に詰まり――
ゆっくり話し始めた。
桐谷「……お前が倒れたって聞いた時、
胸が……潰れるかと思った」
短い言葉なのに、
ひどく重くて、なにもかもが詰まった声音だった。
桐谷「また……」
桐谷は言いかけて、唇を噛んだ。
(また……?)
奏多の胸がかすかに痛む。
桐谷「……また、お前を失うかもしれないって……
その瞬間に頭よぎって、足が動かなくなった」
苦しげな笑いが混じる。
でもそれは笑っているというより、
自分を責めて押し殺すための笑いだった。
桐谷「俺は……あの半年を、
もう二度と繰り返すつもりなかったのに」
その一言で、奏多の身体がびくっと震えた。
半年――
奏多が眠り続けた、永すぎる時間。
桐谷の手がぎゅっと強く握られる。
桐谷「……怖かったんだよ」
短い言葉。
けれど、その響きはあまりにも重い。
奏多が眠っていたあの半年、
桐谷がどれほどの恐怖と無力を抱えていたか。
想像しなくても、声に滲む感情で理解できた。
桐谷「目開けても、俺のこと見てなかったろ……?」
「呼んでも返ってこないお前を……二度と見たくねぇんだよ」
桐谷の喉が震えた。
掠れた声が途切れ、
そこにあるのは“強い大人”ではなかった。
ただ、
大切なものを本気で失いかけた男の弱さだった。
奏多の胸がじんと熱くなる。
(……僕のせいで、こんな……)
涙がこぼれそうになるのを堪えながら、
奏多は震える指で桐谷の手を包む。
桐谷はその小さな手の動きに気づき、
顔を上げた。
涙を堪えたような目が、
奏多の目と合う。
奏多は微かに唇を動かす。
奏多「……ごめ……な……」
かすれた声は途切れそうで、
それでも必死に言葉を出そうとしていた。
桐谷は奏多の言葉を遮るように、
そっと手を頬に添えた。
桐谷「謝んな。お前は悪くねぇ」
その声は、震えた優しさで満ちていた。
桐谷「……もういい。
ただ……ここにいろ。
それだけで俺は十分だから」
その言葉が胸に落ちた瞬間、
奏多の涙が静かにまた溢れた。
桐谷はその涙を拭おうともせず、
ただ受け止めるように見つめ続けた。
しばらく二人は、
言葉のないまま手を握りあっていた。
病室には、
機械の規則正しい音と、
二人の呼吸だけが静かに流れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕方。
病室の窓から差し込む光が朱に染まり、
その細い光が奏多の頬の影を長く伸ばしていた。
点滴の滴下音だけが静かに続く空間で、
奏多はずっと何かを言い出せずにいた。
その沈黙があまりにも長かったせいか、
桐谷は椅子から体を起こし、少し茶化したような声を出した。
桐谷「どうした。そんな顔すんな。言いたいことがあんなら言えよ」
その声音はいつもと同じ、
けれど、いつもよりもずっと柔らかかった。
だからこそ――奏多は逃げられなくなった。
奏多「……桐谷さん」
奏多は自分の布団の上で、指をきつく絡める。
震えてほどけそうな指先を押し殺すように。
奏多「……僕……
言わなきゃいけないこと、あります」
桐谷は眉を寄せ、
椅子ごと少し奏多のほうへ寄った。
桐谷「……。あぁ。怒らねぇよ。何でも言え」
その言葉が刺さる。
優しすぎて、痛い。
奏多の喉がひゅっと縮むように震え、
声がなかなか出なかった。
奏多「……検査で……
分かったんです」
桐谷「検査?」
奏多「僕……」
胸の奥に沈めていた黒い塊が、
せり上がるように喉へ押し出される。
奏多「……HIV……でした」
桐谷の眼がわずかに揺れた。
が、驚きより先に、奏多を見つめる目が強くなる。
奏多は自分が見たくないその目から逃げるように、深く、深く俯いた。
奏多「……黙ってて……ごめ……っ」
言葉の途中で声が震え、
涙がにじむ。
奏多「言ったら……桐谷さん、離れると思って……汚いって……思われるって……
怖くて……言えなくて……」
その“本当の恐怖”を言った瞬間、
桐谷の胸の奥で何かが大きく揺れた。
奏多の肩は小刻みに震え、
呼吸が不安定なほど乱れている。
奏多「僕……
如月のところにいた時……
何されたか……全部覚えてないけど……
きっと……そこだと思ってる……
ごめんなさい……ごめんなさっ泣……」
罪悪感のせいで顔も上げられない。
薄く涙が落ちる音が、
やけに大きく響いた。
しばらく沈黙。
その沈黙が、奏多には――
拒絶の予兆にしか思えなかった。
(……嫌われた……)
なぜか、
胸の奥が急にズキリと痛んだ。
その瞬間だった。
桐谷「奏多」
低く、振動するような声が降りてくる。
桐谷は椅子から立ち上がり、
ゆっくりと奏多の前に膝をついた。
奏多の震える手を、
そっと両手で包み込む。
桐谷「……離れるわけねぇだろ」
顔を上げられない奏多の前髪を、
桐谷の指が優しくかき分けた。
桐谷「汚い?誰がそんなこと言った。
お前がどんな状態だろうと、お前はお前だ」
言い切った。
強く、迷いなく。
それが逆に、奏多の胸を締めつける。
奏多「でも……っ、僕……病気で……
迷惑で……いつ死ぬかも……」
桐谷「だから何だよ、それに死なせねぇよ。」
桐谷は奏多の涙を指でぬぐい、
苦しいほど真っ直ぐに見つめた。
桐谷「お前が幸せに生きてんなら、それでいい。
病気なら支えりゃいいだけだ。治療法はある んだろ。
それで俺から離れる?
そんなわけねぇだろ」
奏多は唇を噛み締め、
とうとう顔を覆って泣いた。
嗚咽が漏れる。
桐谷はその手にそっと触れ、
ゆっくりと腕ごと引き寄せた。
桐谷「……言ってくれてありがとう。
言うまで待つつもりだった」
奏多「でも……怖かった……」
桐谷「怖いなら言えよ。
ひとりで抱えんな」
奏多はその言葉で、
胸の奥でせき止めていた恐怖ごと崩れ落ちた。
泣きながら桐谷の胸に顔を埋め、
震える声で何度も謝り続ける。
桐谷はそのたびに、
背を撫で、髪に触れ、
逃げる隙を与えないように支えた。
桐谷「……大丈夫だ。どこにも行かねぇ。
奏多、お前はひとりじゃねぇ」
その夜――
また奏多の体調が悪化する予兆のように、
熱は静かに上がり始めていた。
奏多は、いつのまにか病室のベッドの上に戻されていた。
白い天井。
夕日が薄く染めるカーテンの端。
静かすぎる空気。
そして――
そこには誰もいなかった。
(……あれ……?)
ほんの少し前の記憶が、霞のように揺らぐ。
桐谷の声。触れた指先。
涙が勝手に流れたこと。
その全部が、急に色を失っていく。
(……やっぱり……夢だったんだ……)
胸の奥が、ゆっくり沈んでいくように痛んだ。
自分の涙の温度も、
桐谷の手の熱も、
心臓が早く打ったことも――
全部ただの「願い」みたいに思えてくる。
誰もいない部屋が、
その残酷さを肯定してくれるようで。
奏多の目から、ぽろりと涙が落ちた。
一滴落ちる音が聞こえそうなほど、
静かで孤独な涙だった。
(……会いたい……)
その言葉だけが、胸の奥で震えていた。
その瞬間――
病室のドアが、静かに開いた。
「――奏多」
低く、掠れた、聞き慣れた声。
奏多の身体がびくっと震える。
顔を向けると、
そこに立っていたのは、まぎれもなく桐谷だった。
夕日を背にして、
強張った顔で、息を少しだけ荒くして。
まるで走って戻ってきたみたいに。
奏多の目に、涙が一気にあふれた。
止めようとしても止まらなくて、
喉の奥がひゅっと狭くなる。
「……な、なんで……」
声にならない声が、息だけで漏れた。
桐谷は驚いたように一歩近づき、
その顔が痛むほど優しい。
「お前……泣いて……どうした……?
俺、ただ飲み物買いに行ってただけだぞ……」
まるで胸を押さえるような小さな声で、
桐谷がベッドの横まで駆け寄った。
奏多は震える指先を伸ばした。
触れたくて。確かめたくて。
夢じゃないと知りたくて。
桐谷は今度こそその指をそっと掴んだ。
大きくて、温かい手で。
その瞬間――
涙が止まらなくなった。
桐谷「……奏多」
「……ここにいる。夢なんかじゃねぇよ」
桐谷は、泣きじゃくる奏多の指を強く握りしめ、息が震える声でそう告げた。
夕日の光の中で、
奏多の涙は静かに流れ続けた――
まるで、ずっと欲しかった答えに触れたように。
涙がひとしきり流れたあと、
奏多はようやく呼吸を整えはじめた。
まだ目の縁は赤く、
身体は熱に浮かされたようにだるくて、
胸の奥のざわめきは完全には消えない。
けれど、桐谷の手がずっと握られているだけで、そのざわめきはゆっくり静まっていった。
桐谷は、奏多の指を撫でながら小さく息をつく。
桐谷「……泣かせちまったな。悪かった」
まるで自分のせいだと思っているような声音だった。
奏多はかすかに首を横に振る。
“悪くないよ”と伝えたいのに、うまく言葉にならない。
桐谷は俯いたまま、ふと口を開いた。
桐谷「……なぁ、奏多」
その声には、いつもの強さがなかった。
痛みを押し殺すような低い響き。
奏多は桐谷の顔を見る。
桐谷はその視線を受けたまま、一瞬言葉に詰まり――
ゆっくり話し始めた。
桐谷「……お前が倒れたって聞いた時、
胸が……潰れるかと思った」
短い言葉なのに、
ひどく重くて、なにもかもが詰まった声音だった。
桐谷「また……」
桐谷は言いかけて、唇を噛んだ。
(また……?)
奏多の胸がかすかに痛む。
桐谷「……また、お前を失うかもしれないって……
その瞬間に頭よぎって、足が動かなくなった」
苦しげな笑いが混じる。
でもそれは笑っているというより、
自分を責めて押し殺すための笑いだった。
桐谷「俺は……あの半年を、
もう二度と繰り返すつもりなかったのに」
その一言で、奏多の身体がびくっと震えた。
半年――
奏多が眠り続けた、永すぎる時間。
桐谷の手がぎゅっと強く握られる。
桐谷「……怖かったんだよ」
短い言葉。
けれど、その響きはあまりにも重い。
奏多が眠っていたあの半年、
桐谷がどれほどの恐怖と無力を抱えていたか。
想像しなくても、声に滲む感情で理解できた。
桐谷「目開けても、俺のこと見てなかったろ……?」
「呼んでも返ってこないお前を……二度と見たくねぇんだよ」
桐谷の喉が震えた。
掠れた声が途切れ、
そこにあるのは“強い大人”ではなかった。
ただ、
大切なものを本気で失いかけた男の弱さだった。
奏多の胸がじんと熱くなる。
(……僕のせいで、こんな……)
涙がこぼれそうになるのを堪えながら、
奏多は震える指で桐谷の手を包む。
桐谷はその小さな手の動きに気づき、
顔を上げた。
涙を堪えたような目が、
奏多の目と合う。
奏多は微かに唇を動かす。
奏多「……ごめ……な……」
かすれた声は途切れそうで、
それでも必死に言葉を出そうとしていた。
桐谷は奏多の言葉を遮るように、
そっと手を頬に添えた。
桐谷「謝んな。お前は悪くねぇ」
その声は、震えた優しさで満ちていた。
桐谷「……もういい。
ただ……ここにいろ。
それだけで俺は十分だから」
その言葉が胸に落ちた瞬間、
奏多の涙が静かにまた溢れた。
桐谷はその涙を拭おうともせず、
ただ受け止めるように見つめ続けた。
しばらく二人は、
言葉のないまま手を握りあっていた。
病室には、
機械の規則正しい音と、
二人の呼吸だけが静かに流れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕方。
病室の窓から差し込む光が朱に染まり、
その細い光が奏多の頬の影を長く伸ばしていた。
点滴の滴下音だけが静かに続く空間で、
奏多はずっと何かを言い出せずにいた。
その沈黙があまりにも長かったせいか、
桐谷は椅子から体を起こし、少し茶化したような声を出した。
桐谷「どうした。そんな顔すんな。言いたいことがあんなら言えよ」
その声音はいつもと同じ、
けれど、いつもよりもずっと柔らかかった。
だからこそ――奏多は逃げられなくなった。
奏多「……桐谷さん」
奏多は自分の布団の上で、指をきつく絡める。
震えてほどけそうな指先を押し殺すように。
奏多「……僕……
言わなきゃいけないこと、あります」
桐谷は眉を寄せ、
椅子ごと少し奏多のほうへ寄った。
桐谷「……。あぁ。怒らねぇよ。何でも言え」
その言葉が刺さる。
優しすぎて、痛い。
奏多の喉がひゅっと縮むように震え、
声がなかなか出なかった。
奏多「……検査で……
分かったんです」
桐谷「検査?」
奏多「僕……」
胸の奥に沈めていた黒い塊が、
せり上がるように喉へ押し出される。
奏多「……HIV……でした」
桐谷の眼がわずかに揺れた。
が、驚きより先に、奏多を見つめる目が強くなる。
奏多は自分が見たくないその目から逃げるように、深く、深く俯いた。
奏多「……黙ってて……ごめ……っ」
言葉の途中で声が震え、
涙がにじむ。
奏多「言ったら……桐谷さん、離れると思って……汚いって……思われるって……
怖くて……言えなくて……」
その“本当の恐怖”を言った瞬間、
桐谷の胸の奥で何かが大きく揺れた。
奏多の肩は小刻みに震え、
呼吸が不安定なほど乱れている。
奏多「僕……
如月のところにいた時……
何されたか……全部覚えてないけど……
きっと……そこだと思ってる……
ごめんなさい……ごめんなさっ泣……」
罪悪感のせいで顔も上げられない。
薄く涙が落ちる音が、
やけに大きく響いた。
しばらく沈黙。
その沈黙が、奏多には――
拒絶の予兆にしか思えなかった。
(……嫌われた……)
なぜか、
胸の奥が急にズキリと痛んだ。
その瞬間だった。
桐谷「奏多」
低く、振動するような声が降りてくる。
桐谷は椅子から立ち上がり、
ゆっくりと奏多の前に膝をついた。
奏多の震える手を、
そっと両手で包み込む。
桐谷「……離れるわけねぇだろ」
顔を上げられない奏多の前髪を、
桐谷の指が優しくかき分けた。
桐谷「汚い?誰がそんなこと言った。
お前がどんな状態だろうと、お前はお前だ」
言い切った。
強く、迷いなく。
それが逆に、奏多の胸を締めつける。
奏多「でも……っ、僕……病気で……
迷惑で……いつ死ぬかも……」
桐谷「だから何だよ、それに死なせねぇよ。」
桐谷は奏多の涙を指でぬぐい、
苦しいほど真っ直ぐに見つめた。
桐谷「お前が幸せに生きてんなら、それでいい。
病気なら支えりゃいいだけだ。治療法はある んだろ。
それで俺から離れる?
そんなわけねぇだろ」
奏多は唇を噛み締め、
とうとう顔を覆って泣いた。
嗚咽が漏れる。
桐谷はその手にそっと触れ、
ゆっくりと腕ごと引き寄せた。
桐谷「……言ってくれてありがとう。
言うまで待つつもりだった」
奏多「でも……怖かった……」
桐谷「怖いなら言えよ。
ひとりで抱えんな」
奏多はその言葉で、
胸の奥でせき止めていた恐怖ごと崩れ落ちた。
泣きながら桐谷の胸に顔を埋め、
震える声で何度も謝り続ける。
桐谷はそのたびに、
背を撫で、髪に触れ、
逃げる隙を与えないように支えた。
桐谷「……大丈夫だ。どこにも行かねぇ。
奏多、お前はひとりじゃねぇ」
その夜――
また奏多の体調が悪化する予兆のように、
熱は静かに上がり始めていた。
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