龍の檻と青年

はる

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壊れかけの人形

薄暗い部屋の中で、時間の感覚はとっくに溶けていた。
何日が、何ヶ月が過ぎたのかも、もう分からない。

朝なのか、昼なのか、夜なのか。
扉が軋む音がして、誰かが来て、何かを腕に押し当てられる。
それだけが、世界とつながっている合図だった。

奏多は天井を見つめる。
黒い染みが、ゆっくり形を変えていくように見える。
雲みたいだ、と思った次の瞬間、その考えすら遠くへ流れていった。

たまに、扉が開いて、外の空気が入る。
その時だけ、足元に光が落ちる。
陵たちの気分がいい時だけ、ほんの少し外へ出してもらえる。
けれど、眩しさに目を細めるほどの力も、もう残っていなかった。
外に出すと言っても、例の部屋でそういう行為をさせられるか、ストレスの発散道具にさせられるか、人が死んでいく姿を見届けるだけ。

声をかけられても、返事が遅れる。
怒られても、叩かれても、心が動かない。
悲しみも、恐怖も、どこか別の場所に置き去りにされたみたいだった。

ただ、胸の奥に、小さな火種みたいなものが残っている。
名前を呼ぶ声。
温かい手の感触。
笑い合った日々。

――忘れたくない。

そう思うのに、その思いさえ、指の隙間からこぼれ落ちていく。
奏多は、壊れかけた人形みたいに、静かに壁にもたれたまま、
暗闇の中で、ただ呼吸だけを続けていた。

****


扉の向こうで、金属が擦れるような音がした。
奏多は反射的に肩をすくめる。でも、その動きさえ、どこか遅れている。

重たい扉が開き、冷たい空気が流れ込んできた。
影が二つ、床に伸びる。

朔弥が先に足を踏み入れる。視線だけで部屋をなぞり、奏多の姿を見つけると、わずかに眉をひそめた。
その後ろから陵が入ってくる。相変わらず、口元には薄い笑みが貼りついたままだ。

「……生きてる?笑」

陵の声が、やけに明るく響く。
奏多は返事をしない。しないというより、できない。視線は床に落ちたまま、ただ呼吸だけが、浅く続いている。

朔弥が一歩近づく。
靴音が、やけに大きく聞こえた。

「名前、呼んでみるか」

陵がそう言って、奏多の前にしゃがみこむ。
視線の高さを合わせようとするけれど、奏多の目は、相手を映さない。

「奏多」

その声に、指先がほんのわずかに動いた。
それだけ。

陵はそれを見て、満足そうに息を吐く。
「よかった、死んだかと思ったわ。笑
な、何も考えないのは楽やろ?|」

「綺麗なお人形さんやな~。」

そう言って冷たい手で奏多の傷だらけの頬を撫でる。

朔弥は何も言わず、壁にもたれたまま、腕を組む。
視線だけが、鋭く奏多を追っていた。

部屋の中には、重たい沈黙が落ちる。
奏多は、その空気に包まれながら、遠くで誰かが自分を呼んでいるような、そんな気配だけを感じていた。

でも、その声が、誰のものかは、もう分からなかった。
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