ヘリオポリスー九柱の神々ー

soltydog369

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第三十六話

𓅓𓇋𓏏𓇋〜未知なるもの〜

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「どういう事じゃ? わしにはまるで違いが分からん」
 ベスが困惑した顔でトトを見る。 

「僕も言葉では上手く説明ができない。ただもし今、僕が制御できない未知の力が働いているのだとしたらそれは——」

 これは俺の力じゃない。その羽が自身のものであると気付いた時、ホルスは愕然とした。羽から感じる不穏な何かがその不安を増幅させる。

 唐突な頭痛に襲われホルスはその場に膝をついた。
 まただ。また、気配がする。
 己を支配しようとする何者かが得体の知れぬビジョンと見せ、語りかけてくる。

『そこにいるべきはお前じゃない』
 その声を聞いた瞬間ホルスははっとする。この声は川で聞いた――。

「お前は一体誰なんだ ! 今までのは全部お前が――」

「あやつ、さっきから一体誰に話しかけておるのじゃ」
 先程から不可解な挙動を見せるホルスに困惑するベスの横でトトは微動だにせずその様子を静かに観察している。

「その体だけでなく、精神にまで干渉する力。ホルスが言ってたのはこれか」
「おぬし随分と冷静じゃがこれは呼び戻した方がいいのではないか?」
 頭を抱え、何かと葛藤しているホルスを見るに見かねたベスはトトに迫った。

「……いや、このままもう少し様子を見よう。本当に危険だと判断したら僕が何とかする」
 トトの額にじんわりと汗が滲んでいるのを見たベスは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

 二柱が再び鏡に目を向けると、先程まで何かに苦しめられていた彼は正気を取り戻したかのようにゆっくりと立ち上がり、再び歩き出した。

 あれは一体何なのか。ホルスは己の中に潜む闇の存在に恐怖しながらも、一縷の希望を抱いていた。あの時感じた力が漲ってくるようなあの感覚。怪しいとはいえ力は力だ。上手く取り込む事ができれば自分自身をもっと強化出来るのではないかとホルスは思った。

「ホルス、君は僕が思うよりずっと強かで、頭も悪くないのかもしれない。でもその力は駄目だ。何故か分からないけど危険な匂いがするんだ」

 トトはゆっくりと駒を動かし、残り一マスになった所で大きく息を吐いた。

「ゴールは目前。これが最後の試練だよホルス。君がどんな奮闘を見せるのか、見届けさせてもらおう」

***

「親子揃って暴力的だな」
 血の付いた瓦礫を握りしめながら立ちすくむ女の背後にゆっくりと近づく人影。

「これで満足?」
 ネフティスはそう言って後ろを振り返る。

「命拾いしたなネフティス。それとも最初から——」
 勘繰るような視線にネフティスはせせら笑った。

「そんな筈ないでしょう。あの子は私を死ぬ程恨んでる」
「フン、まあいい。謀反だろうと俺に背を向ける奴は片っ端から消し去るだけだ」
 
 そう言ってセトはネフティスをねめつけた。
 
「何を突っ立ってる? 早くを運べ」
 実の姉をまるで物のように扱うセトにネフティスは侮蔑の目を向ける。だが実兄を極めて利己的な理由で手に掛けた男に今更礼節など説いた所で通じる筈もない。

 ネフティスは永遠に解けない枷に絶望し、それに抗う気概すらない己を恥じた。

 ——それでも。
 息子を守り抜く。全てを失ってもそれだけは揺るがないただ一つの信念。

 ネフティスは姉の体を抱き起こし、ゆっくりと立ち上がった。

「さあ、行きましょう」
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