上 下
12 / 23
彼と彼女のstart

-4-彼の今世

しおりを挟む
今日は領主の娘、つまり貴族のお嬢様が来ると聞いていた。

俺は前前世と、前世の記憶がある。それもこの世界とは美醜の基準が逆転した、世界のものだった。

だから、これは罰なのかな、と思った。

前前世でも前世でも彼女を大切にできなかった俺への罰。

美醜がとても重視にされるこの世界でこんな姿で生まれたのは。

正確には、俺がこの世界に来た時、すでに10歳だったが。

見た目がダメでも攻めて中身は磨きたいと、俺は必死に紳士を装い、剣の腕だけを磨いた。

そして24歳。

俺は最年少にして、この国の騎士のトップに上り詰めた。

でもそれは実力だけ。

見た目が重視されるこの世界で本当のトップを取ることは出来なかったのだ。

結局は見た目。

俺は内心絶望しながらも、もしかしたら一分ぐらいは見に来てくれるのではないか、なんて淡い期待を募らせた。



期待している自分と、すでに諦めている自分。

俺の内心はすでに荒れ狂っている。

穏やかじゃない。

どうせお嬢様なんて、そこらへんの女よりももっと見た目で判断するのだろう。

でもお嬢様なら貴族のプライドとやらで、義務として、ちらっとだけはみに来てくれるのではないか。

いや、俺は何を期待しているんだろう。

見に来てくれたってどうにもならない。

どうにかしている。この14年間耐えてきた傷に、今だけは少し癒しが欲しいだなんて。

これは彼女を死なせた俺への罰なのにな。



領主の娘は俺の期待通り、第三に来てくれた。

しかも嬉しそうに。

その、横顔が彼女に見えてくる...

もしかして、なんて淡い期待を募らせてしまう。

この子は彼女なのではないか。

照れた時に少し服の袖を掴むのも、嬉しそうな時は瞬きが多くなるのも、全部彼女なのではないかと思えてしまう。

そしてそんな俺の疑いは、確信へとなった。

...傷が...同じところにある?



前世で、ルネリアが死ぬ直前俺も、今回だけは死なせたくないと、本能的に海に飛び込んだ。

でもそれは無駄だった。

海の中で馬車の扉ををこじ開けた時にはすでに生き絶えていた。

まあそれで俺も後を追って死んだわけなんだが。

俺は苦しくて、彼女を強く抱きしめて、その他に力が有り余って、首を引っ掻いてしまったのだ。

そして今その目の前にいる彼女の首には俺がつけた跡と全く同じものがある。

俺は嬉しさと共に絶望するのであった。



結局俺は守れない。

でも今からどうだ?

国一番の剣の腕がある。

顔だけでのし上がってきたあいつら第一とは違う。

しかも彼女なら美醜感覚もこの世界とは違う。

俺は...今世こそ彼女を守ってみせる。

好きになっても、嫌われようとしてもダメなら、せめて近くで守ろうと決めるのだった。



しおりを挟む

処理中です...