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一章 かつての生徒が迎えにきて

29話 その男、生徒らに賞賛される。

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「ほ、本物だ! すごいよ、あの新しい先生」
「嘘だろ、まじかよ……ありえねぇ。あんな魔法、見たことねぇぞ」

この発言に、レイブル教授が反応する。

「ふ、ふん! こんなのまやかしに決まっている! どうせ、なにか仕掛けているんだろう⁉ 本当は風属性魔法なんじゃないのか⁉」

たぶん、自分の授業を否定され、主導権を奪われた腹いせもあろう。

かなり怒り狂っていたが、魔術と属性魔法の違いもろくに分かっていない時点で、魔術の指導者としては不適切だ。

「風属性魔法では、ここまで綺麗に浮きませんよ。なにか仕掛けがあると思うのなら、確かめてもらいましょう。君、いいかな?」

俺の一番近くにいた最後尾座席に座っていた生徒に、俺はその役割をお願いする。

彼は戸惑いながらもロッカーのすぐ近くまで行ってくれたので、俺は尋ねる。

「君、風は吹いているか?」
「……吹いていません。それに、このロッカー重さを全然感じない…………」
「そうだろう? それに、こうやれば、もう魔術の力であることを確信してくれるかな」

俺は魔術紋様を今度は円を中心とした図柄へと書き換える。

円の図柄が指し示すのは、「拡散」型。
これをやることでロッカーだけではなく、俺の付近にあった机、椅子、ペン、ノートなどすべてが浮き上がる。

「これが、本当の魔術だ。今は喪失魔術ともされている。……けれど、これで少しは魔術のすごみが伝わったんじゃないかな。魔素は、他にもある。「引(いん)」という魔素は一点に集めれば、ものを引っ張る作用があるし、その反対の「離」という魔素もある。たとえば「膨」という魔素は対象物をより大きなものに変える。それらの空気中における配合率は、場所によって異なるけどね」

俺は【浮遊】を解除しつつこうまとめる。

その時にはみなが前のめりになっており、一部から起こった拍手は教室全体へと広がっていった。

さっきまでは、死んだ魚のように興味のなさそうにしていた少女・ルチアの瞳も、きらきら輝いている。

「さ、さぁ、みな! そろそろワシの授業を……」

教壇の上でレイブル教授がこう呼びかけるのだけれど、

「アデル先生! 他の魔術も見せて!」

その言葉を遮るように、ルチアが前のめりになって俺にこうお願いをしてくる。

他の生徒たちも、「見たいな、それ」と同意して、期待に満ちた目を注いできた。
そうなったらば、レイブル教授の顔を立ててもいられない。

魔術を知らしめるいい機会だ。
俺は【補修】などの基礎的な魔法をいくつか見せる。

そうしているうちに授業の終わりを告げる鐘が鳴ったのであった。

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