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一章 かつての生徒が迎えにきて
31話 その男、どうしようもない教授にため息をつく。
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――そうして、迎えた放課後。
俺は授業関係の事務仕事を終えると、すぐに講師室を後にした。
教授になれば、研究室を与えられて研究の範囲において自由に扱うことができる。
実際、5年前には資料の山に囲まれながら仕事をする環境を作り出していた。
しかし現状、副講師の身分である俺にその権利はない。
そんな環境において、魔術を扱う資料に触れられる場所はといえば、図書館しかなかった。
もちろん間違っても、レイブル教授の研究室には行きたくなかったということもあるが……
「この五年のうちに失われたと思われていた魔術式の乗った古文書もいくつか見つかったとか、リーナが言ってたな」
真に確かめたかったのは、この情報の方だ。
もしかすると、かつて俺が生きていた時代の資料がみつかっている可能性もある。
魔術関連の書架が地下階の端に追いやられているのは、前と変わっていなかった。
俺はひとまず、そこへと足を向ける。
すると、そのすぐそばの机で一人の女生徒が魔術関連の書籍を読み漁っていた。
相変わらず、崩れた姿勢だ。
机に肘をつきながら、彼女はショートボブの髪をぐしゃぐしゃとかく。
「なにをやってるんだ? ルチア・ルチアーノくん」
わかりやすく悩んでいる様子であったから、思わず声をかけてしまった。
彼女は顔を上げて俺の方を見ると、一つ息をついた。
「あ、アデル先生。ちょうどよかった~、今から聞きに行こうかなぁとか考えてたんだよね」
それから、ずいぶんと親しげに、こちらへ視線を送ってくる。
まだ授業で一度顔を見合わせただけにもかかわらず、口調は友達に対するそれだ。
「ちょうど? なんのことだ?」
「昼すぎにね、レイブルの奴に今日の夕方までに解いてこいって魔術課題を出されたんだよ。
『命令だ、ワシの授業をまともに聞いてなかったお前には解けないだろう。できなかったら特別指導だ』、って。むかつくなぁ、ほんと。自分が解けんのかって話だし」
彼女はそう言いながら、手元にあった一枚の紙を俺の方へと見せる。
そこには、汚い字でありながら一つの魔術式が記されていた。
ただし、解がすでに示されているタイプの式だ。その解には、『聖なる白の精』とあった。
このタイプの式は、成立するためになにか欠けている箇所がある。そこに必要な文言を記入し魔力を流すことで、術が発動する仕組みだ。
「かなり難しい式だな、これ」
項数が多く、かなり複雑な条件式が組み込まれていた。
まだ習い立ての現段階で習うはずのない項目ばかりだ。
そればかりか、1000年前であってもこんな式を解けるのは選ばれし数人だけにちがいない。
もしかしたらこれが、俺のいない5年のうちに見つかった魔術式の一つなのかもしれない。
「間違いなく嫌がらせだな。この魔術式は、今の時代に残されている知識だけではほとんど解きようがない」
「……え、マジ? でもそんな式、あいつにも解けないだろうし……。ってことは、やっぱり」
そこでルチアは、自分の肩を抱くようにして身を縮める。
「なんだ、気付いたことでもあるのか?」
「あくまで噂だけど、レイブル教授って自分の研究室に女子生徒を連れ込んで、その……単位と引き換えに、いろいろなことをしているとかいう話が生徒の間で広まってるんだよね。さすがに冗談でしょって思ってたけど、わざわざ解けない問題渡してくるってことは……」
それは、とんでもない噂話だった。
事実だとすれば、まったくどうしようもない。
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