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一章 かつての生徒が迎えにきて

36話 その男、多種多様な魔術で変態教師を撃退する。

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「課題はできたかね、ルチア・ルチアーノ」
「えっと、それが難しくてぇ……」

ルチアには、できなかったふりをするよう頼んでいた。

そのとおりに、彼女は演じてくれる。
その声はさっきよりかなり高く、わざとらしい気もするが許容範囲だ。

「はは、そうかそうか。まぁ君にはまだ早かったかもしれないが、授業中にワシに口ごたえするんだから、これくらいできると思ったんだが……残念だよ」
「レイブル教授には分かるんですかぁ?」
「はは、まぁね。だが、君のような落第生に教えるつもりはないよ。『喪失魔術学』の単位は、君には与えられない」
「えぇ、それは困ります~」

……やっぱり、演技のしすぎ感はあるが、レイブル教授はそれでも気づいていないらしい。

「まぁ今からワシが言う事を聞くなら、君に単位を与えてやらないこともない」
「えっ。それって、なんですか?」
「そうだなぁ……ぐへへっ。お前、クソガキのくせにいい身体してるな。よし、ここで服を脱ぐんだ。そして、ワシの前で裸になれ」
「……え? でもそんなことしたらぁ」
「大丈夫さ。もうワシは退勤したことになっている。誰にもバレやしない。
もしできないと言うなら、単位はないよ。君に選択権はない。さぁ早くしろ。ワシは、反抗的な奴が従順になる瞬間が最も興奮するんだ」

どうやら疑惑は事実だったらしい。
レイブル教授が特殊な性癖を暴露したのち、鼻息を荒くする音が入り込む。

ここまで聞いたところで、俺はリーナと揃って立ちあがった。もう証拠は十分だ。
すぐに扉を蹴破って、教授室に飛び込むのだが……

「きもすぎでしょ、変態教師」
「ぐああっ、目がぁぁっ……!!」

すでに、ほとんどかたはついていた。

ルチアには、最終手段として『フェルショップ』でかつての生徒・フェデリカにもらった煙玉を持たせていたのだ。

その直撃を食らったらしく、醜い面を晒しながらレイブル教授――いや、今やただの変態犯罪者はのたうち回る。

「な、なんでアデルくんがここにいる⁉ り、リナルディ理事まで……⁉」

そんな中でも、俺とリーナの姿は目に入っていたらしい。
彼は途端にあわてふためき始める。

「なにをされようとしていたのですか、レイブル教授」

俺は、何も知らないふりで尋ねる。

「ち、ちょっと授業態度の悪い生徒がいたものだから特別指導をしようかと……」

必死の言い訳が始まるけれど、残念。
俺たちはもう、すべてを知っている。

「先生、例の音声を」

俺はリーナに促され、【記録】した音声を再生する。
その術名の通り、リアルタイムで音声を聞き取るだけではなく、後から再現もできるのだ。

『――ぐへへ、ここで裸になるんだ。服を脱げ』

「な、な、これはワシのさっきの……! こんなもの、どうやって」
「魔術の応用ですよ。普通分かるんじゃないですか? あんなに難しい術式を生徒への宿題に出すんだから。あの問題、最近出てきた古代魔術式ですよね。あれに比べれば、【記録】なんて簡易魔術だ」
「くっ。なぜ、アデルくんがそれを知ってるんだ⁉ まさか、君が仕組んだのか⁉ いや、きっとそうだ。これはすべて、この若造が――」

俺に罪をなすりつけようと、リーナに訴える作戦に切り替えたらしいが……

彼女は目をつむり、大きくため息をつく。
次に開かれた瞳に宿るのは、静かな怒りだ。それは、直接向けられたわけでもない俺の肌がそばだつほど鋭い。

「言い逃れはできませんよ、レイブル教授。私もすべてを見聞きしておりました。今ここにおいて、あなたの教授職をはく奪し、獄へと引き渡します」
「な、なんだと……⁉」
「どこに驚くことがあるのですか。当然でしょう」

リーナはそう言ったのち、水属性魔法で作り出した輪でレイブル教授の両手足を縛り付ける。
今回も魔術による補助を利用したようで、レイブルは痛い痛いと床でのたうち回る。

「先生に罪を擦り付けようとしたのですから、これくらいの報いは受けてもらわなくてはなりません。余罪もあるのでしょう?」
「い、いや、過去にはほとんど……」
「ほとんど……? すべて吐きなさい、外道」

容赦のない追及、いや拷問がはじまる。

「うわー、リーちゃん怖い。あと、なんか絵面やばい、怖い」

その様子に、ルチアがこう漏らしていたのが印象的だった。


その後、衛兵らにレイブル教授を引き渡す。

「先生、ありがとうね。ほんと助かった! それだけじゃ言い表せないくらい。というか……リーちゃんのライバルになっちゃおっかなぁ、ルチア」
「……認められませんよ、ルチアーノさん。生徒と教師間の恋愛は、いっさい禁止です」
「えー、恋愛に年齢も立場も関係ないって言ったら、さっきは同意してくれたじゃん~」

……なんだか不穏な会話が聞えてきた気もするが、一件落着?
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