「異端者だ」と追放された三十路男、実は転生最強【魔術師】!〜魔術の廃れた千年後を、美少女教え子とともにやり直す〜

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】

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二章 属性魔法学との対峙

60話 お忍びで元生徒のお店に訪問したら歓迎されすぎな件






と、まぁ授業を締め直すことには成功したものの、だ。

すべての教室に対して、授業を行うことができたわけではなかったから、まだまだ生徒たちからの好奇の目は止まらなかった。

研究室には、普段は来ないだろう生徒がたくさん訪れて、いくつも質問などをされる。
注目されないより、ありがたいことではあったが、おかげで、なかなかどうして魔術研究に集中しきれない。

それに、たくさんの人を応対するのは単純に骨が折れる。

おかげで一週間が終わる頃には疲労困憊していたのだけれど……、その疲れが吹き問うような出来事が俺には待っていた。

そう、給与を貰える日だ。
実質的に教授として、研究室を貰えたこともあり、月給は50万近く入っていた。

そのため、ほくほく気分で研究室をあとにしようとする。
その際、一つの約束を思い出した。

俺は考えた末、とある素材を鞄に入れて、街中のほうへと足を向ける。

日没後の大通り付近は、酔っ払いも増えてくる。
絡まれてしまったら面倒な事態になりかねない。

そこで俺は【視認阻害】の魔術も駆使しながら、目的の店へと入る。

そして、かつての生徒・フェルミを見つけて、その前でその魔術を解いた。

「せ、せ、先生!?」

それが彼女を大層驚かせてしまったらしい。
店内カウンターの中で、椅子を後ろに倒してひっくり返っていた。

いてて~、とお尻を抑えながら起き上がる。

その姿を見ている限り、俺が指導していたときとあまり変わっていないようにさえ思えるどじっぷりだ。
が、これでも彼女はこの王都で立派なアイテムショップを経営している店主だ。

「急すぎますよ~。というか、【視認阻害】は街中で使うのは危ないですよ!」
「……悪い悪い。どうも人目が多くてな」
「まぁその気持ちは分かりますけど。先生は今、時の人ですもんね」

と言いながら、フェルミが見るのは、カウンターの後ろだ。

……そこにはどういうわけか、号外の新聞が飾られている。しかも、一枚ではなく、複数枚だ。
しかも、その横には彼女が書いたのだろう、俺の似顔絵までが掲示されてあった

「あたしも嬉しくなっちゃって。特設コーナー作っちゃってました。それに、お店をやる以上、流行には乗りたいですしね」

思ったより商売っ気がある発言だ。
でもまぁ、そういう考え方自体は嫌いではない。

「それで、先生。もしかしなくても今日はお買い物に来てくれた感じですか?」
「あぁ、まぁね。ちょうど今日が給料日だったんだ。それに一つ頼めるか確認したいこともあってね」
「なるほど……! 約束、覚えててくれたんですね」

フェルミは、自然と俺の手を取り、にこにこと笑う。
あまりにも自然だったから、リーナの時と違って、うまく反応できなかった。

「じゃあ先生。こっちに来てください。裏に部屋があるんで、くわしい話はそこでききますね」
「店の裏……?」
「ほら、先生がいたら、また騒ぎになっちゃうかもですし」

フェルミは、他の店員を会計カウンターへと呼んだあと、「こちらへどうぞ!」と俺を店奥へといざなう。

少し戸惑ってはいたものの、店に迷惑をかけるわけにもいかない。
彼女について店裏へと行けば、通されたのは四人掛けのテーブルを置いたら、少ししかスペースの残らないくらい、小さな部屋だ。

そこで、フェルミと向き合う。
……どういうわけか、大量の菓子類を挟んで。

「どういうことだよ、これ」
「まあ言ってしまったら、休憩室ですよ、従業員用の。あたしの趣味で、お菓子とか山ほどおいてるんです。先生もどうぞ! あ、これとか、あたしが焼いたものですよ」

そう言って彼女は、一つのマフィンを差し出してくる。
また同時に、紅茶をも淹れてくれた。

受け取ってしまったら、食べないわけにはいかない。
俺は貰ったマフィンを小さく一口噛む。うん、たしかに美味しい。ほろっと生地が崩れてくる感じも、ほんのりとした優しい甘さも、次の一口を掻き立てる。

そして、またこれが出してもらった紅茶に合うのだ。
こちらは砂糖が控えめで、レモンが効いていて、お菓子とベストマッチしている。


ついついもう一つと手にして、それにかじりつく。

「お、やった!」

とフェルミが高く小さな声で拳を握っている姿を見つつ、はっとした。

「あれ。俺、そもそもアイテムを買いに来たんだけど。なんでこうなったんだっけ」
「思い出しちゃいましたか? まぁでも、今もアイテムをお勧めしてるようなものですよ?」
「どこがだよ。これじゃただの休憩タイムだろう?」
「いえいえ、このお菓子も魔導オーブンで焼いたものですし、紅茶は湯沸かしを使っています。これは、あたしのところの商品を使ってるんですよ」

なるほど、おもてなしをしつつ宣伝……って、ちょっと無理がある気がする。

「いいのか? 本当になにかは買おうと思ってきたのに」
「それはあとでしっかりやりますよ。まずは、先生をいい気分にさせて、お財布の紐を緩めるところからです」
「……おいおい」

まぁ俺も別に、話したくなかったわけじゃない。
アイテムショップの事情が気になっていることもあったので、お互いに近況報告をしあう。

そこで生徒にサインを求められた話をしたところ――

「えー、いいなぁサイン。あたしにも一つください!」
「……生徒のは断ったんだよ。それに、そんなもの考えてないんだ」
「じゃあ今考えましょう! あたしも一緒に考えますよ」

そう言うと彼女は一度外へ出て、羽ペンと紙を用意すると、ナチュラルに俺の隣の席へと「よいしょ」と小さな声を上げながら座る。
さらにはぐいっと身を乗り出してきて、腕と腕が触れる。

「どうしましょうか。やっぱり魔術陣の形がいいですよね、外枠は~」

くわえて、ほとんど俺の耳元でこう言いながら、「うーん」と声を漏らす。


……どうも自分の魅力を理解していないらしい、この子は。

いっさい恥ずかしそうにすることもなくやっているから、たぶん天性なのだろう。
こりゃあ同級生だったら勘違いする男も多かっただろうなぁ、なんて思いつつ、俺は椅子をずらして少し距離をとる。

が、それもなんの気なしに詰められる。

「先生、なにかアイデアありませんか? って先生?」
「……いや、なにもない。とにかく五芒星だけじゃだめか?」
「それ、ただの星マークですよ。もっとこう、先生らしさが欲しいです!」

フェルミに流されるまま、サインを考える。
フェルミがかわいらしさを求めるのと、俺が書きやすさを求めるのとで、違いがあったこともある。

そのせいで、なかなか決まらなかったのだが、
最終的には星を丸で囲み、そのすぐ外側に、笑顔のマークと名前を記すという、折衷案に落ち着くこととなった。

その出来上がったサインを、俺はフェルミが持ってきた厚紙に記す。
言われたとおりに、彼女の名前も記した。

「ありがとうございます! 大事に飾ります!」

フェルミはそれを受け取ると、頭上に掲げて、喜色満面の顔でそれを見つめる。


まぁこの笑顔を見れたなら来た甲斐もあったかな? なんて素で思いかけて、はっとした。
まだ買い物も、頼み事もしていない。
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