61 / 82
二章 属性魔法学との対峙
60話 お忍びで元生徒のお店に訪問したら歓迎されすぎな件
♢
と、まぁ授業を締め直すことには成功したものの、だ。
すべての教室に対して、授業を行うことができたわけではなかったから、まだまだ生徒たちからの好奇の目は止まらなかった。
研究室には、普段は来ないだろう生徒がたくさん訪れて、いくつも質問などをされる。
注目されないより、ありがたいことではあったが、おかげで、なかなかどうして魔術研究に集中しきれない。
それに、たくさんの人を応対するのは単純に骨が折れる。
おかげで一週間が終わる頃には疲労困憊していたのだけれど……、その疲れが吹き問うような出来事が俺には待っていた。
そう、給与を貰える日だ。
実質的に教授として、研究室を貰えたこともあり、月給は50万近く入っていた。
そのため、ほくほく気分で研究室をあとにしようとする。
その際、一つの約束を思い出した。
俺は考えた末、とある素材を鞄に入れて、街中のほうへと足を向ける。
日没後の大通り付近は、酔っ払いも増えてくる。
絡まれてしまったら面倒な事態になりかねない。
そこで俺は【視認阻害】の魔術も駆使しながら、目的の店へと入る。
そして、かつての生徒・フェルミを見つけて、その前でその魔術を解いた。
「せ、せ、先生!?」
それが彼女を大層驚かせてしまったらしい。
店内カウンターの中で、椅子を後ろに倒してひっくり返っていた。
いてて~、とお尻を抑えながら起き上がる。
その姿を見ている限り、俺が指導していたときとあまり変わっていないようにさえ思えるどじっぷりだ。
が、これでも彼女はこの王都で立派なアイテムショップを経営している店主だ。
「急すぎますよ~。というか、【視認阻害】は街中で使うのは危ないですよ!」
「……悪い悪い。どうも人目が多くてな」
「まぁその気持ちは分かりますけど。先生は今、時の人ですもんね」
と言いながら、フェルミが見るのは、カウンターの後ろだ。
……そこにはどういうわけか、号外の新聞が飾られている。しかも、一枚ではなく、複数枚だ。
しかも、その横には彼女が書いたのだろう、俺の似顔絵までが掲示されてあった
「あたしも嬉しくなっちゃって。特設コーナー作っちゃってました。それに、お店をやる以上、流行には乗りたいですしね」
思ったより商売っ気がある発言だ。
でもまぁ、そういう考え方自体は嫌いではない。
「それで、先生。もしかしなくても今日はお買い物に来てくれた感じですか?」
「あぁ、まぁね。ちょうど今日が給料日だったんだ。それに一つ頼めるか確認したいこともあってね」
「なるほど……! 約束、覚えててくれたんですね」
フェルミは、自然と俺の手を取り、にこにこと笑う。
あまりにも自然だったから、リーナの時と違って、うまく反応できなかった。
「じゃあ先生。こっちに来てください。裏に部屋があるんで、くわしい話はそこでききますね」
「店の裏……?」
「ほら、先生がいたら、また騒ぎになっちゃうかもですし」
フェルミは、他の店員を会計カウンターへと呼んだあと、「こちらへどうぞ!」と俺を店奥へといざなう。
少し戸惑ってはいたものの、店に迷惑をかけるわけにもいかない。
彼女について店裏へと行けば、通されたのは四人掛けのテーブルを置いたら、少ししかスペースの残らないくらい、小さな部屋だ。
そこで、フェルミと向き合う。
……どういうわけか、大量の菓子類を挟んで。
「どういうことだよ、これ」
「まあ言ってしまったら、休憩室ですよ、従業員用の。あたしの趣味で、お菓子とか山ほどおいてるんです。先生もどうぞ! あ、これとか、あたしが焼いたものですよ」
そう言って彼女は、一つのマフィンを差し出してくる。
また同時に、紅茶をも淹れてくれた。
受け取ってしまったら、食べないわけにはいかない。
俺は貰ったマフィンを小さく一口噛む。うん、たしかに美味しい。ほろっと生地が崩れてくる感じも、ほんのりとした優しい甘さも、次の一口を掻き立てる。
そして、またこれが出してもらった紅茶に合うのだ。
こちらは砂糖が控えめで、レモンが効いていて、お菓子とベストマッチしている。
ついついもう一つと手にして、それにかじりつく。
「お、やった!」
とフェルミが高く小さな声で拳を握っている姿を見つつ、はっとした。
「あれ。俺、そもそもアイテムを買いに来たんだけど。なんでこうなったんだっけ」
「思い出しちゃいましたか? まぁでも、今もアイテムをお勧めしてるようなものですよ?」
「どこがだよ。これじゃただの休憩タイムだろう?」
「いえいえ、このお菓子も魔導オーブンで焼いたものですし、紅茶は湯沸かしを使っています。これは、あたしのところの商品を使ってるんですよ」
なるほど、おもてなしをしつつ宣伝……って、ちょっと無理がある気がする。
「いいのか? 本当になにかは買おうと思ってきたのに」
「それはあとでしっかりやりますよ。まずは、先生をいい気分にさせて、お財布の紐を緩めるところからです」
「……おいおい」
まぁ俺も別に、話したくなかったわけじゃない。
アイテムショップの事情が気になっていることもあったので、お互いに近況報告をしあう。
そこで生徒にサインを求められた話をしたところ――
「えー、いいなぁサイン。あたしにも一つください!」
「……生徒のは断ったんだよ。それに、そんなもの考えてないんだ」
「じゃあ今考えましょう! あたしも一緒に考えますよ」
そう言うと彼女は一度外へ出て、羽ペンと紙を用意すると、ナチュラルに俺の隣の席へと「よいしょ」と小さな声を上げながら座る。
さらにはぐいっと身を乗り出してきて、腕と腕が触れる。
「どうしましょうか。やっぱり魔術陣の形がいいですよね、外枠は~」
くわえて、ほとんど俺の耳元でこう言いながら、「うーん」と声を漏らす。
……どうも自分の魅力を理解していないらしい、この子は。
いっさい恥ずかしそうにすることもなくやっているから、たぶん天性なのだろう。
こりゃあ同級生だったら勘違いする男も多かっただろうなぁ、なんて思いつつ、俺は椅子をずらして少し距離をとる。
が、それもなんの気なしに詰められる。
「先生、なにかアイデアありませんか? って先生?」
「……いや、なにもない。とにかく五芒星だけじゃだめか?」
「それ、ただの星マークですよ。もっとこう、先生らしさが欲しいです!」
フェルミに流されるまま、サインを考える。
フェルミがかわいらしさを求めるのと、俺が書きやすさを求めるのとで、違いがあったこともある。
そのせいで、なかなか決まらなかったのだが、
最終的には星を丸で囲み、そのすぐ外側に、笑顔のマークと名前を記すという、折衷案に落ち着くこととなった。
その出来上がったサインを、俺はフェルミが持ってきた厚紙に記す。
言われたとおりに、彼女の名前も記した。
「ありがとうございます! 大事に飾ります!」
フェルミはそれを受け取ると、頭上に掲げて、喜色満面の顔でそれを見つめる。
まぁこの笑顔を見れたなら来た甲斐もあったかな? なんて素で思いかけて、はっとした。
まだ買い物も、頼み事もしていない。
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!