65 / 82
二章 属性魔法学との対峙
64話 その男、ダンジョンでの調査に生徒と打って出る
リーナが生徒たちを引きつけているうちに、すぐに学外へと出て、ダンジョンに向かう――。
そして日没までは一人でダンジョン調査を行い、そのまま帰路につく。
考えていたのはこんな計画であった。
が、しかし最後の授業を持ったクラスが彼女のいるクラスだったのが、まさかの展開のはじまりであった。
「いやぁ、アデル先生。一人で行くなんて水くさすぎだし」
ルチア・ルチアーノだ。
授業が終わるやいなや教室を出た俺の後ろから彼女が追いかけてきて、魔術の訓練をつけて、と懇願されたのだ。「お願い、お願いってば!」と、いつものため口で。
彼女が魔術に対して人一倍の興味を持っていて、才能があることは知っていた。
だから断り切れずに、今である。
俺は彼女とともに、王都外れに位置する『惑いの森林』ダンジョンにいた。
学校からの移動は、騒ぎにならないよう【視認阻害】魔術を使った。
いつかフェデリカに忠告されたとおり、大通りを避けてきたから誰かにぶつかることもなく、無事に到着できた。
「いやぁでもラッキーだなぁ。先生を独り占めできるなんて、今じゃそうないし。ルチアぐらいじゃない?」
「いいから行くぞ。それに、魔物も出るから気をつけてくれよ」
「はーい。で、なにをやればいいんだっけ」
「この前アーマヅラが発生した箇所の魔素確認だよ。「膨」の異常値がないか確認しにきたんだ」
「膨」の魔素が、瘴気と混じりあう。
その現象が起きるには、空気中に含まれる「膨」の魔素が通常より多いことが原則になってくる。
そもそも空気に含まれている程度の分量なら、あそこまで異常な反応を示すことはないからだ。
だから素直に考えれば、この間アーマヅラが発生した地点かその近くに、「膨」の魔素が多く噴出する原因がある。
そうでなければ、何者かの手によってその状況が作られた――と、こう考えるのが自然だろう。
「なるほどねー、じゃああれだ。【鑑定】が使えればよさそうかな?」
「そうだな。あれから、また練習したのか?」
「そりゃあもう。学校の授業サボって、魔術陣書いてたもん」
「それは教師としては見過ごせないなぁ。俺はなにも、属性魔法が絶対にダメだって言ってるわけじゃないんだぞ」
「あー、はいはい、分かってる分かってる」
ルチアは目を瞑りながら、適当に手を払う。
いうまでもなく不遜な態度だが、彼女は誰に対してもこの態度だ。
だから別に不快に思ったりはしない。
「ルチアはね、やると決めたことはとことんやるんだよ。それがルチアの信条だ! ってね」
彼女はそう言うと、指に魔力を灯して、その場で空中に紋様を描き始める。
そのスピードはさらに速くなっており、正確性も変わっていない。
そうして魔術が発動されて、彼女は何度か首を縦に振る。
「うん、このあたりはとくに変わった感じはないかも。瘴気は漂ってるけど、周りと大差ない感じ。どう、この見立て」
「……正解だろうな、きっと」
「あれ、先生は魔術使わなくても分かる感じ?」
「いいや、【鑑定】の魔術陣が綺麗に描かれていたからだよ。俺がやったって同じ結果になってる。なかなかやるな、ルチアーノ君」
俺がこう褒めると、えへんと彼女は胸を一つ叩き、歯を見せて笑った。
「まぁね。もう先生の指導いらないかも」
「うん、そうかもしれないな」
「って、ちょ、やめてやめて。冗談だって。まだまだこれ基礎でしょ。先生が「基礎を固めろ」って言ったからやったんだし。先生以外に言われてたらやってないっていうかさ」
ルチアは珍しく、少し恥ずかしそうにこめかみをかきながら言う。
それからすぐに、俺の前を速足で歩きだした。
「もう行くよ!」
……いつのまにか、立場が逆になっている。
が、別に調査ができるなら、どちらでも大きな差はない。
俺は彼女についていき、調査を進めていく。
その結果、特異的に「膨」の魔素が噴出しているような地点はどうしても見つからなかった。
「んー、じゃあやっぱり人がやったってこと?」
「あとは魔物から出てる可能性もあるね」
まぁ少なくとも、これまでそんな魔物はいなかったから、限りなく可能性は低いのだけれど。
「まぁ断定はできない。決めつけて入ってはいけないよ」
俺はあえて、こう濁す。
そこで意図的に話を断ち切った。
もし、トレントを進化させアーマヅラにするだけではなく、あれだけのサイズに肥大化させる行為が人為的に行われていたとなると、厄介な事件が後ろに隠れている可能性があるからだ。
そして、その実行者は只者ではない。
なにせ「膨」の魔素を集められるということは、魔術を使えるということとイコールで結ばれる。
そのうえ、あれだけ肥大化させるほどの量を集めたのだから、その習熟度はかなりの領域と見ていい。
魔術がほとんど廃れてしまった今の時代である。
自分で言うのもなにだが、魔術を高レベルで操ることのできる人間は少なくとも普通じゃない。
そんな危ない奴が、魔物を進化させて、なにかの悪事を企んでいるのだとしたら、あまり深く、一学生であるルチアを巻き込みたくなかった。
そして日没までは一人でダンジョン調査を行い、そのまま帰路につく。
考えていたのはこんな計画であった。
が、しかし最後の授業を持ったクラスが彼女のいるクラスだったのが、まさかの展開のはじまりであった。
「いやぁ、アデル先生。一人で行くなんて水くさすぎだし」
ルチア・ルチアーノだ。
授業が終わるやいなや教室を出た俺の後ろから彼女が追いかけてきて、魔術の訓練をつけて、と懇願されたのだ。「お願い、お願いってば!」と、いつものため口で。
彼女が魔術に対して人一倍の興味を持っていて、才能があることは知っていた。
だから断り切れずに、今である。
俺は彼女とともに、王都外れに位置する『惑いの森林』ダンジョンにいた。
学校からの移動は、騒ぎにならないよう【視認阻害】魔術を使った。
いつかフェデリカに忠告されたとおり、大通りを避けてきたから誰かにぶつかることもなく、無事に到着できた。
「いやぁでもラッキーだなぁ。先生を独り占めできるなんて、今じゃそうないし。ルチアぐらいじゃない?」
「いいから行くぞ。それに、魔物も出るから気をつけてくれよ」
「はーい。で、なにをやればいいんだっけ」
「この前アーマヅラが発生した箇所の魔素確認だよ。「膨」の異常値がないか確認しにきたんだ」
「膨」の魔素が、瘴気と混じりあう。
その現象が起きるには、空気中に含まれる「膨」の魔素が通常より多いことが原則になってくる。
そもそも空気に含まれている程度の分量なら、あそこまで異常な反応を示すことはないからだ。
だから素直に考えれば、この間アーマヅラが発生した地点かその近くに、「膨」の魔素が多く噴出する原因がある。
そうでなければ、何者かの手によってその状況が作られた――と、こう考えるのが自然だろう。
「なるほどねー、じゃああれだ。【鑑定】が使えればよさそうかな?」
「そうだな。あれから、また練習したのか?」
「そりゃあもう。学校の授業サボって、魔術陣書いてたもん」
「それは教師としては見過ごせないなぁ。俺はなにも、属性魔法が絶対にダメだって言ってるわけじゃないんだぞ」
「あー、はいはい、分かってる分かってる」
ルチアは目を瞑りながら、適当に手を払う。
いうまでもなく不遜な態度だが、彼女は誰に対してもこの態度だ。
だから別に不快に思ったりはしない。
「ルチアはね、やると決めたことはとことんやるんだよ。それがルチアの信条だ! ってね」
彼女はそう言うと、指に魔力を灯して、その場で空中に紋様を描き始める。
そのスピードはさらに速くなっており、正確性も変わっていない。
そうして魔術が発動されて、彼女は何度か首を縦に振る。
「うん、このあたりはとくに変わった感じはないかも。瘴気は漂ってるけど、周りと大差ない感じ。どう、この見立て」
「……正解だろうな、きっと」
「あれ、先生は魔術使わなくても分かる感じ?」
「いいや、【鑑定】の魔術陣が綺麗に描かれていたからだよ。俺がやったって同じ結果になってる。なかなかやるな、ルチアーノ君」
俺がこう褒めると、えへんと彼女は胸を一つ叩き、歯を見せて笑った。
「まぁね。もう先生の指導いらないかも」
「うん、そうかもしれないな」
「って、ちょ、やめてやめて。冗談だって。まだまだこれ基礎でしょ。先生が「基礎を固めろ」って言ったからやったんだし。先生以外に言われてたらやってないっていうかさ」
ルチアは珍しく、少し恥ずかしそうにこめかみをかきながら言う。
それからすぐに、俺の前を速足で歩きだした。
「もう行くよ!」
……いつのまにか、立場が逆になっている。
が、別に調査ができるなら、どちらでも大きな差はない。
俺は彼女についていき、調査を進めていく。
その結果、特異的に「膨」の魔素が噴出しているような地点はどうしても見つからなかった。
「んー、じゃあやっぱり人がやったってこと?」
「あとは魔物から出てる可能性もあるね」
まぁ少なくとも、これまでそんな魔物はいなかったから、限りなく可能性は低いのだけれど。
「まぁ断定はできない。決めつけて入ってはいけないよ」
俺はあえて、こう濁す。
そこで意図的に話を断ち切った。
もし、トレントを進化させアーマヅラにするだけではなく、あれだけのサイズに肥大化させる行為が人為的に行われていたとなると、厄介な事件が後ろに隠れている可能性があるからだ。
そして、その実行者は只者ではない。
なにせ「膨」の魔素を集められるということは、魔術を使えるということとイコールで結ばれる。
そのうえ、あれだけ肥大化させるほどの量を集めたのだから、その習熟度はかなりの領域と見ていい。
魔術がほとんど廃れてしまった今の時代である。
自分で言うのもなにだが、魔術を高レベルで操ることのできる人間は少なくとも普通じゃない。
そんな危ない奴が、魔物を進化させて、なにかの悪事を企んでいるのだとしたら、あまり深く、一学生であるルチアを巻き込みたくなかった。
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!