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二章 属性魔法学との対峙
69話 先生のためですから?
「……分かったよ」
「ふふっ、ありがとうございます。私の作戦がちですね」
「ああ完敗だ」
俺はそこからリーナに、現在分かっている情報を事細かに伝える。
こうなったら、と包み隠さずに全て話した。
「……なるほど、魔物の肥大化に魔術が使われた可能性があり、それと今回のオレステ・オレンの件が関係あるかもしれないと先生は考えたのですね」
「あぁ、だから厄介なんだ。下手に関わると、魔術を使える俺たちが疑われることになる」
「ふふ、それが隠していた理由ですか。私を心配してくれていた、と。先生らしいですね。優しいです、本当に。過保護ですけど」
正面からそう言われると、なかなかに恥ずかしい。
改めて考えれば、たしかにそんなふうに捉えられてもおかしくない。
「……あまり言わないでくれよ」
俺がこう目線を逸らしながら言えば、リーナは実に楽しげにくすくすと笑う。
「では、先生のご希望に応えて、そろそろオレステ・オレンの話に移りましょうか」
その最後に、こほんと一つ咳払いして、彼女はこう話を切り替えた。
「私は彼の同級生ですが、名前しか存じていなかったので、改めて調べました。どうやら彼は、あのシモーニの研究室に属していたようです」
「……シモーニの」
その忌々しい名前には、つい目元が引きつる。
「はい。侯爵家出身と言う地位の高さもあるのでしょう。シモーニには、かなり気に入られていたようでして、卒業後もシモーニとは何度も会う機会があったようですね」
そう言って彼女が見せてくれるのは、オレステ・オレンが主に活躍していた数年前のニュースペーパー、その三面記事だ。
そこではオレステがシモーニへの感謝を述べているが、そんなことより、だ。
「また、すごいところから見つけてきたな」
「そうでしょうか。ここは、ニュースペーパーの類はすべて保管していますから、珍しいものでもありませんよ」
「そういうことじゃない。こんなの、もし資料があったとしても、膨大な情報の中から見つけるには小さな情報すぎる。一日じゃ足りないだろう」
「……? 先生のためですから、これくらいできますよ?」
リーナはそうさらりと言ってのけるが、いやいや普通に考えて、そんな簡単なものではない。
それを理事としての仕事をやりながら探したのだから、あまりにも出来すぎだ。
……俺のためだから? いやいやいくら誰のためだとしても、おかしい。
「それより」
が、リーナには本当に大したことではないようで、彼女は話を元に戻す。
「このオレステですが、このところは活動を休止しておりました。なんでも大怪我を負って以来、傷がなかなか治り切らなかったようです。」
「……ということは、最近になって治った?」
「ありえない話ではありませんが、剣を振れなくなるほどの怪我だったそうです。それが簡単に癒えることはないでしょうね」
……なるほど。
少しずつ要素が揃い始めている気がする。
魔物の減少、突然復活する元一級冒険者・オレステ、そしてその陰に見え隠れするその恩師・シモーニ。
これらに加えて、「膨」の魔素を集めるために利用された魔術、そして魔物の暴走まで。
繋げようと思えば、いろんなものが繋がる気がしてくる。
が、これらはまだあくまで現状、想像の域を出ない。
これらの要素を繋げるためには、確たる証拠が必要になる。
「一度、このオレステ・オレンについては調べる必要がありそうだね。気になるのは、彼がどういうふうに魔物を狩っているか、だ。そこにもしかすると、なにか糸口があるかもしれない」
「はい。先生ならそう言うかと思っておりました」
そう言いながらリーナは、今度は別の資料を取り出す。
こうなったら、もはや逆に恐ろしい。
いったいどんな情報が、この資料には乗っているのだか。そう思いつつ確認して、俺は目が点になる。
そこには、オレステ・オレンが現在暮らしていると思われる宿の名前や、昼食でよく利用する店、行きつけであるアイテムショップなんかまで、事細かに記されている。
そして驚くべきは、宿を貸している人間の過去まで洗われていることだ。
周辺情報まで、ばっちり抑えてある。
「先生なら、追跡を希望されるかと思いまして。昼頃に実際、聞き込みをしてまいりました。一部は、部下にやらせましたが、おおよそ間違いはないでしょう。ただ、いつどのようにダンジョンに入っているかだけは、なぜか分かっていないんです。冒険者にも目撃者がいないようでした」
「とすると、深夜に動いているのかもしれないね」
「はい、そう考えたくなりますね。それなら、人に見つからないのも理解はできる」
「……にしても、すごいな、まじで。いや、これはさすがに普通とは言わせないぞ、リーナ。こんな整った資料、一か月あっても作れないだろうよ」
「……? 先生のためですから」
すまし顔で、またしてもあっさり彼女は言う。
いや、免罪符みたいにその言葉使ってるけど、さっきから全然理由になってないからね?
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