73 / 82
三章 古の対峙
72話 その男、一流冒険者に真実をつきつける
俺たちは足音を殺して、かつ魔導灯の明るさも抑えて、ゆっくりと進む。一定程度近づいたところで飛び込んできたのは、眩しいオレンジの炎だった。
そこに広がっていた光景に目が丸くなる。
「ガルゥ!!!」
オレステ・オレンが、まさに魔物と対峙していたのだ。
それだけならダンジョンであれば、別になんということはない。
が、異常なのはその数のほうであった。
あまりにも多くの魔物がそこには固まっていた。
サーペント、デントラットといった、この『惑いの森林』ダンジョンで普通に見かける魔物たちはいい。
が、目を引くのは比較的南の地域で多く見られる大きな単眼を持ち葉から火の粉を降らす植物魔物・アイや、北方にしか現れない熊型の魔物・オルソなんて魔物だ。
このダンジョンに出現することはめったにない。
それも共存するなんて、ありえないのだ。
それらの攻撃をオレステは淡々と、なぎ倒していく。
それを見ながらに【鑑定】魔術を使えば、他の地点に比べて明らかに瘴気が濃い。そして、【魔物召喚】の魔術を使われた痕跡が残っている。
それは千年前においても使用が禁止されていた禁忌の術だ。
その特徴は、「黒」の魔素を利用していること。この間、ビアンコを召喚したことで蘇った記憶の中に、その魔素のこともあった。
ビアンコの持つ「白」の魔素と対になるそれは、瘴気と似た特徴を持つ。
中にはこれを悪用して、魔物を操る者もいた――。
と、そこまで分析したところで、こちらにも一体のギアオルソが襲い掛かってきた。
地面を掴むように蹴り、猛然と駆けてくる。
かなりのスピードだ。【加重】で叩きつけようにも、相手は俺の数倍以上の身体をしたかなりの巨体である。
そこで俺は、リーナと自分の周りに【浮遊】の魔術をかける。
ふわふわと、身体はだんだんと宙の高いところまで上がっていく。周りの岩や木々も、同様に空中を漂う。
「せ、先生……! た、高いかも……」
……リーナがスカートを履いていることまでは考慮できていなかったが。
懸命に裾を抑える彼女を横目に、
「わ、悪い。あとはもうこれだけで済むから」
俺はギアオルソの動きを注視する。
そして目論んだ通り、俺たちが浮かぶ宙の真下に来たところで、魔術陣を解除。
その脳天へと大岩を叩きつけてやった。
そのうえで、地面へと降りる。
その頃には、オレステのほうも、魔物を倒し終えていたらしい。
「……お前たち、たしか」
倒れた魔物の奥から、薄明りの中でもはっきりと分かるくらい、、鋭い視線をこちらへと向けてくる。
一応、斧は背中にしまっていたから、害意はないらしい。
「オレステ・オレン君だね。会うのは、数年ぶりかな? アデル・オルラドだ。こっちはリーナ・リナルディ。と、紹介しなくても知っているかな?」
「……にこやかに話すつもりはない。なぜここにいる」
「それはこっちが聞きたいよ。こんな時間にここでなにをしていたのか教えて貰おうか。俺たちは、それを知るために来たんだよ」
俺が笑顔を作りながら言う。
「魔物を倒しに来た、というのは通じませんよ。街を徘徊したあとに、変な入口からダンジョンに入ったんです。理由があったのでしょう、オレステ・オレン」
一方リーナはといえば鋭い追及をしかけて、彼は一度目を瞑る。
それから、なにを言うでもなく、立ち去ろうとするから、俺はその行く手を【吸収】の壁を作って阻む。
そのうえで、【加重】をかければ、彼は足元を一目見てから、じっとこちらを睨みつけてきた。
「……人を拘束しておいて尋問とは、お前たちも大概怪しいな」
「話のすり替えですよ、それは。あなたが白状するまで、解放する気はありませんよ。なぜ、こんなことをしていたのです」
「それを言えば、解放するのか」
「ええ、もちろん。教職者ですから、元生徒相手に嘘を吐くわけにはいかないからね」
当然、答えによっては拘束を解く気はないのだが。
そんな俺の意図を知ってか知らずか、オレステは口を開く。
「……ある人に指示をもらったからだ。それ以上は知らない。ここに、普段は現れることのない魔物が現れるから倒してくれないかと、依頼を受けた」
見る限り、嘘をついているようには見えなかった。
肝心の部分は、彼には伝えられていなかったらしい。
命令者は誰か。
オレステはそれを伏せていたが、リーナの事前情報があったから、もう誰のことかは分かる。
そして、事前に立てていた推測もほとんど確信に変わっていた。
「シモーニのことだな。君が彼の研究室出身で親しくしていたことは既に調べがついているよ」
「……なんで、そんなことまで」
「そのシモーニを疑っているからだよ。ここ最近の魔物の暴走事件に関与しているんじゃないかとね」
「なん、だと?」
「大方狙いは、属性魔法学の復権と、魔術学を再び排除するためだろうね。愛弟子の君に手柄を挙げさせて、一方で魔術によって「魔物が呼び寄せられた」と嘘の告発をして、魔術学を潰そうという魂胆だろうね」
俺がここまで話したところで、シモーニの表情が一気に険しくなる。
纏う空気もいっぺんに変わった。鋭い圧が、俺たちへと向けられる。
思わず一歩下がってしまうほどの迫力だった。そして、それだけじゃない。
「シモーニ先生がそんなことをするわけがないだろうが!!」
彼はなんと自力で【加重】をふりほどき、斧を構えてみせる。
さすがは一流冒険者だ。その実績はただの飾りではないらしい。
「先生のことだ。きっと、なにかを掴んで、俺にこんなことをさせているんだ、そうに違いねぇ」
なるほど、かなり心酔しているらしい。
ここまで怒るというのがいい証拠だ。
大方、その忠誠心を利用して、悪事に利用したということだろうが……それを彼に今諭してもたぶん、なんの効果もない。
あなたにおすすめの小説
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!