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三章 古の対峙
77話 その男、衛兵たちを救う
俺たちは連れ立って、外へと出る。
音がした方角は、王都のほうであった。
しかし、それが実際にどこから鳴り響いたものなのかは、ここからでは分かりえない。
小屋の中を調査しているうちに夜明けが迫っており、ここへ来たときよりは明るくなっているとはいえ、あたりは鬱蒼とした森の中だ。。
ここからでは、様子を伺えない。
が、俺は嫌な予感がしていたから【探索】の魔法を使って、遠くの魔素を探ってみる。
すると、衝撃的なことが分かって、言葉が出なくなる。
「先生、もしかして……」
「あぁ、どうやら魔物が王都内に侵入している。それも、半端な数じゃない」
俺が、探知した事実を告げると、リーナは大きく目を見開く。
一方のオレステはといえば、錯乱していたのかもしれない。なにも口にしないまま唐突に、王都の方へと走り出した。
「待ちなさい!」
リーナが袖を引いて止めてくれようとするが、男と女では、力が違う。
彼はそれをいとも簡単に振り払い、一心不乱に暗闇の中へと走っていってしまった。
「先生、どうしますか」
「……俺たちも戻ろうか。まだこんな時間だ。あれだけの数の魔物に暴れられたら、取返しのつかないことになる」
「じゃあ、あの下っ端二人組は――」
「そうだね、逃げ出す度胸もないだろうから、とりあえずは置いていこう。俺たちも行こうか」
オレステのあとを追うようにして、俺とリーナも小屋を発つ。
その途中、ダンジョン内だというのに、魔物に遭遇することはなかった。
たぶん、ここの魔物が街中へと放たれているのだろう。
俺とリーナはショートカットをするため、行きは使わなかった裏路地へと通ずる隠しルートから王都へと戻る。
そうして通りへと出てみれば、ちょうど衛兵ら約十名ほどが、蛇型魔物・サーペントの群れと対峙をしていた。
一応、倒せていないわけじゃない。
あたりには何体か魔物が転がっているが、一方で、その数は尋常ではなくて、サーペントなどは複数個体が絡まり合っていて、何体いるかすら掴めない。
「はぁ、はぁ、くそ……!! 多すぎる!!」
と、衛兵の一人が疲労からか膝をついたところで、俺はすかさずフォローへと入った。
すぐさま術式展開を行い、サーペントと衛兵の間に【吸収】のバリアコートを巡らせる。
「雨槍(ピオッチャランチア)!」
そこへすかさずリーナが剣を抜き、それを高く掲げると、大蛇の脳天を突きさすように、水の槍が突き刺さった。
これで大蛇がその大きな身体を横たえさせて、「おぉ」とどよめきが起こる。
そんななか、剣をしまうさまは、我が生徒ながらなかなかに格好がついている。
「……先生との共同戦線は、やはりいいですね」
などと言う顔は、こんな状況にも関わらず、少しにやけていて、どうかと思ったが。
「お二人とも、ありがとうございます……!!」
「来ていただいていなかったら、今頃どうなっていたか」
衛兵二人が俺たちにこう感謝を捧げるが、まだまだ予断ならない状況は続いている。
「あんまり油断しない方がいいですよ。すぐに次の攻撃が来ます」
俺はこう声かけをして、サーペントの方へと再び構える。
そこで、背中がぞくりと震えた。
はっと振り返ってみれば今度は後ろから狼型の魔物・ウルラートウルフまで現れているではないか。
……本当にかなりの数が闊歩しているらしい。
そして、【探索】で見たところ、さっきより全体の数が増えているから、今この瞬間も送り込まれているらしい。
各所に分かれて、戦闘が繰り広げられていた。
「こんなもの、どうすればいいというのだ!」
衛兵を率いる隊長が嘆くようにして、こう叫びあげる。
建物などの多いこの通りで挟み撃ちにされたのだから、その気持ちはよく分かるが、しかし。
これはむしろ、一気に殲滅をする大チャンスだ。
「サーペント、ウルラートウルフ、双方の群れに適当に威嚇してもらってもいいでしょうか」
俺は衛兵の隊長に、こう提案する。
「え? だけど、そんなことをしたら……!!」
隊長は訝し気に眉にしわを寄せて、俺のほうを見る。
その額には汗がにじんでおり、気持ちの焦りが伺える。
そりゃそうだ。
いくら王都を守るため、日々鍛錬を積んでいる彼らとはいえ、実際にここまで大規模な戦闘に駆り出されることはほとんどない。
冷静でいるほうが難しいだろう。
「大丈夫です。安心してください」
だから俺は彼にこう微笑みかける。
「もし失敗したら、俺のせいにしてくださって構いませんよ」
そのうえで、こう伝えた。それを彼がどう受け止めたかは分からない。
が、俺はとりあえず作戦の概要を彼に伝える。
しばらくは考え込んでいた隊長であったが、いよいよ魔物たちが動き始めようとしていたところで英断をしてくれた。
衛兵らに威嚇攻撃をさせる。
それにより、サーペント、ウルラートウルフ、双方の群れが一気にこちらへとなだれ込んできたところが、俺の狙っていたタイミングだった。
俺はひときわ強く手を握りしめて、指輪から魔力を最大限に放出する。
その状態で描いたのは、もっとも使っているだろう魔術【浮遊】だ。
その対象範囲はといえば――衛兵ら全員と、リーナ、それから俺自身だ。
「な、なんだよ、これ!!」
とみなが一様に驚いているが、俺はそんななか、下で直接激突する形となったサーペントとウルラートウルフに目をやる。
ばっちり、一か所に固まってくれていた。
俺はそいつらが逃げ出せないよう、その周囲を【吸収】の防御壁で囲う。
そうして準備が整ったところで、隊長がこちらをちらりと見るから、俺はこくりと一つ頷く。
「おい、みなのもの!! 真下に向かって、ありったけの火属性魔法攻撃だ!! 放て!!」
それに答えて、隊長はこう命じてくれた。
戸惑いながらではあったが、二十余名全員の火属性魔法攻撃が一か所に集中して集められる。
そしてそれが魔物たちの元に届いたところで俺は、吸収の壁で上部に蓋をしてやった。
サーペントは苦し気にその体躯をうねらせ、ウルラートウルフもその身を焼かれて、身体をよじる。
が、そのうめき声すら【吸収】の壁の内側とあっては、外には漏れ聞こえてこない。
王都に静寂が帰ってきてしばし、俺は【吸収】の壁を解除する。
そこに残っていたのはもはや、灰と骨だけであった。
俺は【浮遊】の魔術をじわじわと解除して、全員を着地させる。
すると、そこでわっと上がったのは歓声だ。
「すごい、すごすぎる!!」
「ありえない、あの数を一瞬で殲滅できた!!!」
まるで、もう勝ち切ったかのような喜びようであった。
「いやでもアデル先生さえいれば、勝ち確ですよ!!」
中にはこうのたまう者もいるが、しかし、それは俺の魔術が無限に使えたらという仮定の話だ。
俺が一つため息をつくと、リーナが言う。
「先生、もしかして魔力が――」
「さすがに、君には誤魔化せないか。うん。もう切れかかってる。しばらくは、溜まるのを待たないといけないね」
ちらりと指輪を見た
これには、裏側に魔術が刻んであり、空気中から魔素を集めることで、魔力を作り出している。
蓄えることもできるが、それは無尽蔵ではない。使うスピードが生成スピードを上回れば、いつかは尽きる。
今日は探索系の魔術を何度も利用したし、今の大がかりな魔術もやった。
どうやら底が見え始めているらしい。
本当なら、すぐにでも、【魔物召喚】の魔術を使っている大元を断ちたかったが、今の状態では難しい。
この状態ではたとえ敵を捕捉したとしても、戦闘に入るのは望ましくない。
しかも悪いことには、魔物たちとの連戦のせいで衛兵たちも疲弊しきっている。
ここへまた魔物が送り込まれたら、しばらくは、持久戦で粘るしかなくなる。
俺がその展開を覚悟しかけていたそのときだ。
「衛兵のみなさん!! うちの店のポーションです。ぜひ使ってください!」
後ろから、耳慣れた甲高い声が聞えてきた。
フェデリカ・フェルミがそこに立っていたのだ。
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