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二章 商品企画部のエリート部長は独裁者?
22話 ラスボス退治には用意周到に。
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刺激をするな、と言われて、「はいそうですか」で引っ込むほど賢いなら、もはや希美ではない。
翌日から希美は、仲川の煎餅より固い防御壁を砕くため、攻勢をかける準備をスタートした。
部員全員が呆れていたが、知ったことではない。
まず初めにおこなったのは、店舗への電話調査だった。
本当は現地へ赴きたいところだったが、
「そこまでやったら、意見を通せなかった時の保険が効かない」
「意見を聞くくらい電話でもメールでもできる」
こう、鴨志田に強く引き止められた。実際、電話口でも話をするくらいには十分だった。
「いっそ和風に振り切ったほうがいい」「和洋のいいとこどりにしても、抹茶の方が合うのではないか」
など様々な案が集まる。
希美はそれらをとりあえず書き殴り、後から丁寧にワード文書へまとめていった。
見せてみろ、と鴨志田に言われて提出すると、何度もダメだしを食らう。だが、おかげさまで、最終的には論理の通った内容になった。
やっぱり鴨志田は優秀だ。そして、よく分からない。関わりたくない風だったのに、資料への赤入れには全く手抜きがなかった。
がしかし、それだけでは弱い。向こうも理論武装をしてくるのだ。装備は他にも必要であろう。
「ねぇ恵子。なんでもええから仲川部長のこと教えてくれん?」
昼休み、希美は恵子を誘って、近場のイタリアンへランチに出ていた。
少しでも部長の情報を引き出すくらいのつもりだったのだが、恵子は親身になって相談に乗ってくれる。
「可愛い年下同期のためだもん!」
と拳を握っていたが、どちらが可愛いかは傍目には明白だったろう。部長の普段の行動など、彼女は様々なことを希美に話してくれた。
「超ミニマリストなの。いつも机の上は物がないんだよ~」
「そういえば、前見たときも綺麗だったかも!」
「あ、分かった? そうなの、逆に仕事してないんじゃないのって思うくらい~」
希美は思わず笑いかけるが、はっとして周りを見渡す。もし聞かれていたらと考えれば、恐ろしい。
「大丈夫だよ、希美ちゃん。仲川部長はデスクでしかご飯食べないから。というか、もはやご飯食べてないんだよね」
「お昼ご飯抜くタイプなん?」
「ううん。そういうわけじゃ一応なくて、いつもこうなの」
恵子は、口を小さくつぼめる。そのジェスチャーがなにを指すのか見当もつかない。
「えぇっと?」
「ゼリードリンクだよ。いつも十秒でおしまいなんだ」
「…………なにそれ。外食屋さんの商品企画部長なのに?」
「まぁ仕事が忙しいからなんだろうけど」
いくらそうだからって、料理を考える責任者がそれってどうなのよ。
希美は、食べ終えたばかりのパスタ皿を見つめる。これがもし自分の食事をないがしろにする人の作った料理だったら。そう考えると、少しやりきれない想いになった。
「希美ちゃん、気分悪いの? 眉間、シワ寄ってるよ」
「ううん、大丈夫。ただ、こう、ちょっとモヤモヤしてもうて」
「そうだよね。でも、希美ちゃん。逆に考えたら、これは付け込むポイントかもよ」
恵子は、希美の肩に優しく手を回す。小さくても、立派にお姉さんだった。
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