25 / 70
二章 商品企画部のエリート部長は独裁者?
25話 久しぶりの『はれるや』
しおりを挟む「で、はれるやに来るんですね」
「一番きやすいだろ? それに、阪口からなら正直な話だって聞きやすい」
退勤後、午後六時。希美は鴨志田とともに、『創作和食ダイニング・はれるや』を訪れていた。
約一ヶ月ぶりのことだった。最近は仕事がうまく立ちいっていないこともある。
たまに四月のことは幻だったのでは? とさえ思っていたのだが、
「まだダックスくんののぼり使ってくれてましたね! 店員の制服も統一したみたい!」
「あぁ。なにより、よく人が入ってる。この早い時間から人気なのは珍しいよ」
ちゃんと現実だったようだ。なんでも、あれ以降さらなる改良を重ねた出汁が、かなりの評判を呼んでいるとのこと。
アルバイトの店員に聞くに、八時頃までは予約がかなり詰まっているらしい。店長の阪口は、どうしても手が離せないそうだ。
「適度に」を連呼する鴨志田と、酒や料理を楽しみながら待つ。
勝手に鴨志田はアルコールに強いものだと思っていたが、むしろ苦手らしい。梅酒を舐めるように飲む姿はペットのきゅーちゃんに少し似ていて、ちょっときゅんときた。
話題は、プライベートから仕事まで案外に途切れなかった。
「趣味はドライブ! 好きなお酒は梅酒で、自分でも漬けてる。で、他には?」
「……取材かよ」
「だって鴨志田さんって謎なんですもん」
ベールを剥がし切れないうちに、個室の戸がノックされた。
膝をついた姿勢で、深々と頭を下げてみせたのは阪口だ。作務衣を着ていた時ほどの職人感はないが、Tシャツ姿も様になっている。
「遅れて申し訳ありません。デザートをお持ちしました。また来ていただけるなんて、光栄です」
その横手には例のパフェが乗ったお盆があった。だが、盛りつけ方がやや違うようだ。
「お団子は乗せてないんですね?」
挨拶もそこそこに、希美は指摘する。
パフェグラスをテーブルに置きながら、阪口は首を縦に振った。別皿に乗せた団子を隣に並べる。
「不評なものですから。勝手ながら、こうして分けて提供させていただいているんです」
「やっぱり人気ないんですね」
「まぁ、はい。相性が悪いのは素人でもわかる話です。ですから、乗せるか否かはお客様に任せています。木原さんもお好きにどうぞ」
そう言われると、少し判断が揺らぐ。正直、別々に食べる方がいいに決まっていた。「混ぜるな危険」感が滲み出ている。
だが、今日はあくまで味を見にきたのだ。希美は竹串を摘んで、チェリーアイスの上へ乗せる。ままよ、とまとめて口へ運んだ。
「……食べられますね、意外と」
悪くはない、と言うのが感想だった。タレの砂糖は控えめで、塩加減もほどよく調節されている。ねっとりとしたタレの舌触りも、いいアクセントになっていた。
けれど逆に言えば、そのレベルでしかない。
いくらコンセプトが和洋折衷とはいえ、もっといい組み合わせがあるはずだ。すぐには出てこないけれど。
「あくまで見た目にしては、な」
反対側からつついた鴨志田は、一口でスプーンを置く。
「これじゃあテレビ番組で取り上げてもらったって、ほんの一瞬しかブーストできないだろうな」
「……どんな有名な人が美味しいって言ってくれようと、結局は味ですもんね」
「後輩も分かるようになってきたな。いい成長ぶりだ」
鴨志田が嘘っぽくない笑顔を見せた。
真昼の月みたい、白く美しい顔が少しだけ綻んでいる。
不意のことにどきりとしたが、パフェを人差し指で押しやられて、げんなりする。
「おだてたのは、そういう魂胆か! 食べますけど! 分けて食べたら美味いですもん!」
既にかなりの量ご飯を食べていたが、それでもデザートは別腹である。
できるだけ混ざらないよう慎重に食べ進めていたら、
「……実は変な話を聞きまして」阪口が神妙な調子で切り出した。
スプーンをかく手が止まる。希美は嫌なデジャブを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる