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二章 商品企画部のエリート部長は独裁者?
25話 久しぶりの『はれるや』
しおりを挟む「で、はれるやに来るんですね」
「一番きやすいだろ? それに、阪口からなら正直な話だって聞きやすい」
退勤後、午後六時。希美は鴨志田とともに、『創作和食ダイニング・はれるや』を訪れていた。
約一ヶ月ぶりのことだった。最近は仕事がうまく立ちいっていないこともある。
たまに四月のことは幻だったのでは? とさえ思っていたのだが、
「まだダックスくんののぼり使ってくれてましたね! 店員の制服も統一したみたい!」
「あぁ。なにより、よく人が入ってる。この早い時間から人気なのは珍しいよ」
ちゃんと現実だったようだ。なんでも、あれ以降さらなる改良を重ねた出汁が、かなりの評判を呼んでいるとのこと。
アルバイトの店員に聞くに、八時頃までは予約がかなり詰まっているらしい。店長の阪口は、どうしても手が離せないそうだ。
「適度に」を連呼する鴨志田と、酒や料理を楽しみながら待つ。
勝手に鴨志田はアルコールに強いものだと思っていたが、むしろ苦手らしい。梅酒を舐めるように飲む姿はペットのきゅーちゃんに少し似ていて、ちょっときゅんときた。
話題は、プライベートから仕事まで案外に途切れなかった。
「趣味はドライブ! 好きなお酒は梅酒で、自分でも漬けてる。で、他には?」
「……取材かよ」
「だって鴨志田さんって謎なんですもん」
ベールを剥がし切れないうちに、個室の戸がノックされた。
膝をついた姿勢で、深々と頭を下げてみせたのは阪口だ。作務衣を着ていた時ほどの職人感はないが、Tシャツ姿も様になっている。
「遅れて申し訳ありません。デザートをお持ちしました。また来ていただけるなんて、光栄です」
その横手には例のパフェが乗ったお盆があった。だが、盛りつけ方がやや違うようだ。
「お団子は乗せてないんですね?」
挨拶もそこそこに、希美は指摘する。
パフェグラスをテーブルに置きながら、阪口は首を縦に振った。別皿に乗せた団子を隣に並べる。
「不評なものですから。勝手ながら、こうして分けて提供させていただいているんです」
「やっぱり人気ないんですね」
「まぁ、はい。相性が悪いのは素人でもわかる話です。ですから、乗せるか否かはお客様に任せています。木原さんもお好きにどうぞ」
そう言われると、少し判断が揺らぐ。正直、別々に食べる方がいいに決まっていた。「混ぜるな危険」感が滲み出ている。
だが、今日はあくまで味を見にきたのだ。希美は竹串を摘んで、チェリーアイスの上へ乗せる。ままよ、とまとめて口へ運んだ。
「……食べられますね、意外と」
悪くはない、と言うのが感想だった。タレの砂糖は控えめで、塩加減もほどよく調節されている。ねっとりとしたタレの舌触りも、いいアクセントになっていた。
けれど逆に言えば、そのレベルでしかない。
いくらコンセプトが和洋折衷とはいえ、もっといい組み合わせがあるはずだ。すぐには出てこないけれど。
「あくまで見た目にしては、な」
反対側からつついた鴨志田は、一口でスプーンを置く。
「これじゃあテレビ番組で取り上げてもらったって、ほんの一瞬しかブーストできないだろうな」
「……どんな有名な人が美味しいって言ってくれようと、結局は味ですもんね」
「後輩も分かるようになってきたな。いい成長ぶりだ」
鴨志田が嘘っぽくない笑顔を見せた。
真昼の月みたい、白く美しい顔が少しだけ綻んでいる。
不意のことにどきりとしたが、パフェを人差し指で押しやられて、げんなりする。
「おだてたのは、そういう魂胆か! 食べますけど! 分けて食べたら美味いですもん!」
既にかなりの量ご飯を食べていたが、それでもデザートは別腹である。
できるだけ混ざらないよう慎重に食べ進めていたら、
「……実は変な話を聞きまして」阪口が神妙な調子で切り出した。
スプーンをかく手が止まる。希美は嫌なデジャブを感じていた。
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