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一章 おいおい、サキュバスが襲来したんだが!?
第8話 天然爆弾・なずなちゃん
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四
教室には、一番乗りだった。
二度寝をしなかった分。机に伏せて眠りにつこうとするのだが、あのサキュバスがこの教室に来るのだと思うと、どうにも落ち着けない。不安をパズルゲームで誤魔化そうとするのだが、ミスに次ぐミス。昨夜からお気に入りキャラの欄がブランクのままだから、画面には端的に「FAILED」「YOU LOSE」とのみ表示される。苛々して携帯を振りかぶりかけたところ、
「えっ、光男がこんな早よおるなんて! どないしたん?」
二番目に澄鈴がやってきた。
どきっと胸が鳴る。昨日までとは少し違った意味で。
「もしかして昨日ウチが背伸びへんよ言うたから、早寝早起き?」
「ま、まぁそんなところ」
「可愛いところあるやん! 背伸びたらえぇね」
澄鈴は再び僕の頭を撫でる。もはやごく自然に、だった。
この調子で、告白などどうしてできようか。望みのひとつもなく、玉砕間違いなしだろう。……いや、待てよ。
とりあえず砕けるのはなしではないかもしれない。結愛は「告白が失敗したら死ぬ」とは言っていなかった。ならば、一度砕けるのもアリなのでは。何事もまずは挑戦という。ナシよりかアリよりかと言えば、アリよりだろう。
失敗なんて小さい話だ。常に大事なのは命の方、と道徳の授業でも習った。それにもし成功すれば、あの悪魔が教室に来ることを未然にも防げる。
「そういえば昨日の光、あれなんやったん?」
「え、なんでもなかったよ。ねぇ澄鈴」
「ん、どうしたん? あ、ごめん。ついまた触っちゃって。で、でもこれは光男の髪が柔らかいからで! 別に他意はあらへんというか」
「それはいいんだけど。あの、話を一つ聞いてほしいんだ。実は、僕さ──」
ムードもなにもないこの告白。本当にいいものか、もし失敗したら今後はどうなる、もしかしたら気まずくなるのでは、そうなったら告白の成功なんて夢のまた夢になるのでは。それはつまり僕の死を意味することになる。つと不安が連鎖的に繋がっていく。言い止まっていたら、教室の後ろ扉が開いた。
「おはよう、すみちゃん! ……ってみっちゃんもいるなんて!」
入ってきたのは、クラス委員長の中之条(なかのじょう)なずな、だった。
諸事情で、クラスに友人の少ない僕の友達であり、なにより澄鈴の大親友である。彼女たちはいわゆるマブ、ズッ友だ。
「朝から二人でくっついて、やっぱり夫婦だね!」
「こ、こら、なず! アホなこと言わんの! ウチらはただの幼馴染!」
「ただの幼馴染は高校生になったら疎遠になってるんだよ。朝から教室で二人でこそこそ一緒ってないと思う。もしかして大事なところ邪魔したかな」
さすがにこれでは、告白はできまい。うんうん、と僕は一人頷く。するつもりはあったよ?
ただ、なずなは空気を読めるタイプの子ではないのだ。
黒髪ロングの高身長に、すらりとしたスタイル、一見すると頼れるように思える堂々とした振る舞い。一部の男子からはクイーンなどと呼ばれ、先生からは直々に委員長に指名されるなど厚い信頼を得ている彼女。
が、蓋を開ければ彼女は、一流の漁師も唖然とするほど、ド天然もののKYなのである。そしてそれでいて、変に勘が鋭い。
だからこればかりは仕方ない。
「光男もなんとか言いや!」
「……僕から言うことはないよ」
「えー、なんか言ってよ! なんでもいいよ、みっちゃんの思うままに!」
「言うことがないってことを言ったじゃないか」
「あ、たしかに! みっちゃんって実は頭いい?」
そのまま僕の席の前、女子二人の姦しい井戸端会議が始まる。末席に預けてもらっているうち、ついに恐れていた始業のチャイムが鳴った。
教室には、一番乗りだった。
二度寝をしなかった分。机に伏せて眠りにつこうとするのだが、あのサキュバスがこの教室に来るのだと思うと、どうにも落ち着けない。不安をパズルゲームで誤魔化そうとするのだが、ミスに次ぐミス。昨夜からお気に入りキャラの欄がブランクのままだから、画面には端的に「FAILED」「YOU LOSE」とのみ表示される。苛々して携帯を振りかぶりかけたところ、
「えっ、光男がこんな早よおるなんて! どないしたん?」
二番目に澄鈴がやってきた。
どきっと胸が鳴る。昨日までとは少し違った意味で。
「もしかして昨日ウチが背伸びへんよ言うたから、早寝早起き?」
「ま、まぁそんなところ」
「可愛いところあるやん! 背伸びたらえぇね」
澄鈴は再び僕の頭を撫でる。もはやごく自然に、だった。
この調子で、告白などどうしてできようか。望みのひとつもなく、玉砕間違いなしだろう。……いや、待てよ。
とりあえず砕けるのはなしではないかもしれない。結愛は「告白が失敗したら死ぬ」とは言っていなかった。ならば、一度砕けるのもアリなのでは。何事もまずは挑戦という。ナシよりかアリよりかと言えば、アリよりだろう。
失敗なんて小さい話だ。常に大事なのは命の方、と道徳の授業でも習った。それにもし成功すれば、あの悪魔が教室に来ることを未然にも防げる。
「そういえば昨日の光、あれなんやったん?」
「え、なんでもなかったよ。ねぇ澄鈴」
「ん、どうしたん? あ、ごめん。ついまた触っちゃって。で、でもこれは光男の髪が柔らかいからで! 別に他意はあらへんというか」
「それはいいんだけど。あの、話を一つ聞いてほしいんだ。実は、僕さ──」
ムードもなにもないこの告白。本当にいいものか、もし失敗したら今後はどうなる、もしかしたら気まずくなるのでは、そうなったら告白の成功なんて夢のまた夢になるのでは。それはつまり僕の死を意味することになる。つと不安が連鎖的に繋がっていく。言い止まっていたら、教室の後ろ扉が開いた。
「おはよう、すみちゃん! ……ってみっちゃんもいるなんて!」
入ってきたのは、クラス委員長の中之条(なかのじょう)なずな、だった。
諸事情で、クラスに友人の少ない僕の友達であり、なにより澄鈴の大親友である。彼女たちはいわゆるマブ、ズッ友だ。
「朝から二人でくっついて、やっぱり夫婦だね!」
「こ、こら、なず! アホなこと言わんの! ウチらはただの幼馴染!」
「ただの幼馴染は高校生になったら疎遠になってるんだよ。朝から教室で二人でこそこそ一緒ってないと思う。もしかして大事なところ邪魔したかな」
さすがにこれでは、告白はできまい。うんうん、と僕は一人頷く。するつもりはあったよ?
ただ、なずなは空気を読めるタイプの子ではないのだ。
黒髪ロングの高身長に、すらりとしたスタイル、一見すると頼れるように思える堂々とした振る舞い。一部の男子からはクイーンなどと呼ばれ、先生からは直々に委員長に指名されるなど厚い信頼を得ている彼女。
が、蓋を開ければ彼女は、一流の漁師も唖然とするほど、ド天然もののKYなのである。そしてそれでいて、変に勘が鋭い。
だからこればかりは仕方ない。
「光男もなんとか言いや!」
「……僕から言うことはないよ」
「えー、なんか言ってよ! なんでもいいよ、みっちゃんの思うままに!」
「言うことがないってことを言ったじゃないか」
「あ、たしかに! みっちゃんって実は頭いい?」
そのまま僕の席の前、女子二人の姦しい井戸端会議が始まる。末席に預けてもらっているうち、ついに恐れていた始業のチャイムが鳴った。
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