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二章 幼なじみ攻略作戦スタート!
第22話 サキュバスとお料理。
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五
家のキッチンに立つのは、僕にとって数年ぶりのことだった。
その時は両親が三日ほど帰ってこず、仕方なくフライパンでソーセージを焼いただけだから、なんの勝手も分からない。
「後ろ向いてください。巻いてあげますよ」
エプロンのつけ方、
「たしか包丁はこの棚で見たような」
調理器具のありか一つ、結愛に聞く始末だった。
「えーっと、豚のお料理なら、これなんてどうでしょう」
だが、その結愛も初心者なのは僕と変わらない。
二人、ネット検索をかけて議論の末、比較的簡単そうということで、生姜焼きに狙いを定めた。そして副菜に選んだのは、
「これがいいです、私!」
結愛がキラキラした目で推した『ご馳走ポテトサラダ』。具材たっぷりのポテサラに、砕いた乾麺が入っているという、彼女には刺さるだろう一品だった。
僕らは、リストに記載のあった材料を全て作業台の上に並べる。
「さて、記念すべき料理男子への一歩です! 明日、澄鈴さんに自慢しましょうね」
「うん。でも、うまくいくかなぁ」
「気負うことはありません。料理なんて化学と同じですよ。入れるものをその通りの順番で入れればいいんです!」
胸を叩いた結愛のセリフは一見頼もしかったが、単にウェブサイトの受け売りだった。それに、まずもって僕の化学の成績は赤点だ。選ばれし補習組でもある。
一抹の不安を覚えつつも、僕らは作業に取り掛かり始める。
僕がピーラーでジャガイモの皮を剥いている間に、結愛には具材のカットをしてもらうことにした。包丁など、僕には早すぎた。
「にんじんはイチョウ切り、胡瓜は短冊切り、玉ねぎはくし切り、だってさ」
僕は全く理解しないまま、書いてある字面通りにレシピを読み上げる。
「任せてください♪ 私、器用なので」
結愛は二つ返事で、とんとんと刃を動かし始めた。耳触りの良い音が立つ。
調理場に、それも二人並んで立つのは、僕にとってかなり新鮮な気分だった。
「なんだか楽しそうですね?」
「え、そうかな」
「はい、口角上がってました。皮むきが天職なのかもしれませんよ」
「なにそのAIが発達しなくてもなくなりそうな仕事」
芋剥きに適性があるかはさておき、たしかに少し心は浮ついていた。
なぜだろうと思案しつつ、ピーラーの刃を引く。その手を白く照らしていた明かりで、あぁと理解する。
「……一人じゃないって感じがするから、かな」
小学校低学年の頃の話だ。その頃から、両親は既に家を空けることが多かった。
学校から帰ってくると、大抵家は真っ暗。ただ母がいる時は、決まってキッチンに電気がついていた。あの頃はキッチンに明かりが灯っていると、それだけで少し晴れた気持ちになったのを覚えている。その感覚が身体に残っていたのだろう。
「一人じゃないですよ、ご主人様には私がいますから♪ 二人で一つ、夫婦みたいなものです」
そういえば、この悪魔が来てからは、孤独の類は綺麗さっぱり消えてしまった。別の問題はむしろ山積みになったけれど。
「夫婦じゃないし、包丁持ったまま寄るな! 危ないだろ!」
「はっ。ということは持ってなかったら、寄っても? すりすり、こしょこしょしても?」
「拡大解釈だ!!」
家のキッチンに立つのは、僕にとって数年ぶりのことだった。
その時は両親が三日ほど帰ってこず、仕方なくフライパンでソーセージを焼いただけだから、なんの勝手も分からない。
「後ろ向いてください。巻いてあげますよ」
エプロンのつけ方、
「たしか包丁はこの棚で見たような」
調理器具のありか一つ、結愛に聞く始末だった。
「えーっと、豚のお料理なら、これなんてどうでしょう」
だが、その結愛も初心者なのは僕と変わらない。
二人、ネット検索をかけて議論の末、比較的簡単そうということで、生姜焼きに狙いを定めた。そして副菜に選んだのは、
「これがいいです、私!」
結愛がキラキラした目で推した『ご馳走ポテトサラダ』。具材たっぷりのポテサラに、砕いた乾麺が入っているという、彼女には刺さるだろう一品だった。
僕らは、リストに記載のあった材料を全て作業台の上に並べる。
「さて、記念すべき料理男子への一歩です! 明日、澄鈴さんに自慢しましょうね」
「うん。でも、うまくいくかなぁ」
「気負うことはありません。料理なんて化学と同じですよ。入れるものをその通りの順番で入れればいいんです!」
胸を叩いた結愛のセリフは一見頼もしかったが、単にウェブサイトの受け売りだった。それに、まずもって僕の化学の成績は赤点だ。選ばれし補習組でもある。
一抹の不安を覚えつつも、僕らは作業に取り掛かり始める。
僕がピーラーでジャガイモの皮を剥いている間に、結愛には具材のカットをしてもらうことにした。包丁など、僕には早すぎた。
「にんじんはイチョウ切り、胡瓜は短冊切り、玉ねぎはくし切り、だってさ」
僕は全く理解しないまま、書いてある字面通りにレシピを読み上げる。
「任せてください♪ 私、器用なので」
結愛は二つ返事で、とんとんと刃を動かし始めた。耳触りの良い音が立つ。
調理場に、それも二人並んで立つのは、僕にとってかなり新鮮な気分だった。
「なんだか楽しそうですね?」
「え、そうかな」
「はい、口角上がってました。皮むきが天職なのかもしれませんよ」
「なにそのAIが発達しなくてもなくなりそうな仕事」
芋剥きに適性があるかはさておき、たしかに少し心は浮ついていた。
なぜだろうと思案しつつ、ピーラーの刃を引く。その手を白く照らしていた明かりで、あぁと理解する。
「……一人じゃないって感じがするから、かな」
小学校低学年の頃の話だ。その頃から、両親は既に家を空けることが多かった。
学校から帰ってくると、大抵家は真っ暗。ただ母がいる時は、決まってキッチンに電気がついていた。あの頃はキッチンに明かりが灯っていると、それだけで少し晴れた気持ちになったのを覚えている。その感覚が身体に残っていたのだろう。
「一人じゃないですよ、ご主人様には私がいますから♪ 二人で一つ、夫婦みたいなものです」
そういえば、この悪魔が来てからは、孤独の類は綺麗さっぱり消えてしまった。別の問題はむしろ山積みになったけれど。
「夫婦じゃないし、包丁持ったまま寄るな! 危ないだろ!」
「はっ。ということは持ってなかったら、寄っても? すりすり、こしょこしょしても?」
「拡大解釈だ!!」
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