24 / 40
二章 幼なじみ攻略作戦スタート!
第22話 サキュバスとお料理。
しおりを挟む
五
家のキッチンに立つのは、僕にとって数年ぶりのことだった。
その時は両親が三日ほど帰ってこず、仕方なくフライパンでソーセージを焼いただけだから、なんの勝手も分からない。
「後ろ向いてください。巻いてあげますよ」
エプロンのつけ方、
「たしか包丁はこの棚で見たような」
調理器具のありか一つ、結愛に聞く始末だった。
「えーっと、豚のお料理なら、これなんてどうでしょう」
だが、その結愛も初心者なのは僕と変わらない。
二人、ネット検索をかけて議論の末、比較的簡単そうということで、生姜焼きに狙いを定めた。そして副菜に選んだのは、
「これがいいです、私!」
結愛がキラキラした目で推した『ご馳走ポテトサラダ』。具材たっぷりのポテサラに、砕いた乾麺が入っているという、彼女には刺さるだろう一品だった。
僕らは、リストに記載のあった材料を全て作業台の上に並べる。
「さて、記念すべき料理男子への一歩です! 明日、澄鈴さんに自慢しましょうね」
「うん。でも、うまくいくかなぁ」
「気負うことはありません。料理なんて化学と同じですよ。入れるものをその通りの順番で入れればいいんです!」
胸を叩いた結愛のセリフは一見頼もしかったが、単にウェブサイトの受け売りだった。それに、まずもって僕の化学の成績は赤点だ。選ばれし補習組でもある。
一抹の不安を覚えつつも、僕らは作業に取り掛かり始める。
僕がピーラーでジャガイモの皮を剥いている間に、結愛には具材のカットをしてもらうことにした。包丁など、僕には早すぎた。
「にんじんはイチョウ切り、胡瓜は短冊切り、玉ねぎはくし切り、だってさ」
僕は全く理解しないまま、書いてある字面通りにレシピを読み上げる。
「任せてください♪ 私、器用なので」
結愛は二つ返事で、とんとんと刃を動かし始めた。耳触りの良い音が立つ。
調理場に、それも二人並んで立つのは、僕にとってかなり新鮮な気分だった。
「なんだか楽しそうですね?」
「え、そうかな」
「はい、口角上がってました。皮むきが天職なのかもしれませんよ」
「なにそのAIが発達しなくてもなくなりそうな仕事」
芋剥きに適性があるかはさておき、たしかに少し心は浮ついていた。
なぜだろうと思案しつつ、ピーラーの刃を引く。その手を白く照らしていた明かりで、あぁと理解する。
「……一人じゃないって感じがするから、かな」
小学校低学年の頃の話だ。その頃から、両親は既に家を空けることが多かった。
学校から帰ってくると、大抵家は真っ暗。ただ母がいる時は、決まってキッチンに電気がついていた。あの頃はキッチンに明かりが灯っていると、それだけで少し晴れた気持ちになったのを覚えている。その感覚が身体に残っていたのだろう。
「一人じゃないですよ、ご主人様には私がいますから♪ 二人で一つ、夫婦みたいなものです」
そういえば、この悪魔が来てからは、孤独の類は綺麗さっぱり消えてしまった。別の問題はむしろ山積みになったけれど。
「夫婦じゃないし、包丁持ったまま寄るな! 危ないだろ!」
「はっ。ということは持ってなかったら、寄っても? すりすり、こしょこしょしても?」
「拡大解釈だ!!」
家のキッチンに立つのは、僕にとって数年ぶりのことだった。
その時は両親が三日ほど帰ってこず、仕方なくフライパンでソーセージを焼いただけだから、なんの勝手も分からない。
「後ろ向いてください。巻いてあげますよ」
エプロンのつけ方、
「たしか包丁はこの棚で見たような」
調理器具のありか一つ、結愛に聞く始末だった。
「えーっと、豚のお料理なら、これなんてどうでしょう」
だが、その結愛も初心者なのは僕と変わらない。
二人、ネット検索をかけて議論の末、比較的簡単そうということで、生姜焼きに狙いを定めた。そして副菜に選んだのは、
「これがいいです、私!」
結愛がキラキラした目で推した『ご馳走ポテトサラダ』。具材たっぷりのポテサラに、砕いた乾麺が入っているという、彼女には刺さるだろう一品だった。
僕らは、リストに記載のあった材料を全て作業台の上に並べる。
「さて、記念すべき料理男子への一歩です! 明日、澄鈴さんに自慢しましょうね」
「うん。でも、うまくいくかなぁ」
「気負うことはありません。料理なんて化学と同じですよ。入れるものをその通りの順番で入れればいいんです!」
胸を叩いた結愛のセリフは一見頼もしかったが、単にウェブサイトの受け売りだった。それに、まずもって僕の化学の成績は赤点だ。選ばれし補習組でもある。
一抹の不安を覚えつつも、僕らは作業に取り掛かり始める。
僕がピーラーでジャガイモの皮を剥いている間に、結愛には具材のカットをしてもらうことにした。包丁など、僕には早すぎた。
「にんじんはイチョウ切り、胡瓜は短冊切り、玉ねぎはくし切り、だってさ」
僕は全く理解しないまま、書いてある字面通りにレシピを読み上げる。
「任せてください♪ 私、器用なので」
結愛は二つ返事で、とんとんと刃を動かし始めた。耳触りの良い音が立つ。
調理場に、それも二人並んで立つのは、僕にとってかなり新鮮な気分だった。
「なんだか楽しそうですね?」
「え、そうかな」
「はい、口角上がってました。皮むきが天職なのかもしれませんよ」
「なにそのAIが発達しなくてもなくなりそうな仕事」
芋剥きに適性があるかはさておき、たしかに少し心は浮ついていた。
なぜだろうと思案しつつ、ピーラーの刃を引く。その手を白く照らしていた明かりで、あぁと理解する。
「……一人じゃないって感じがするから、かな」
小学校低学年の頃の話だ。その頃から、両親は既に家を空けることが多かった。
学校から帰ってくると、大抵家は真っ暗。ただ母がいる時は、決まってキッチンに電気がついていた。あの頃はキッチンに明かりが灯っていると、それだけで少し晴れた気持ちになったのを覚えている。その感覚が身体に残っていたのだろう。
「一人じゃないですよ、ご主人様には私がいますから♪ 二人で一つ、夫婦みたいなものです」
そういえば、この悪魔が来てからは、孤独の類は綺麗さっぱり消えてしまった。別の問題はむしろ山積みになったけれど。
「夫婦じゃないし、包丁持ったまま寄るな! 危ないだろ!」
「はっ。ということは持ってなかったら、寄っても? すりすり、こしょこしょしても?」
「拡大解釈だ!!」
0
あなたにおすすめの小説
疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件
月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ!
『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』
壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。
追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される
希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。
すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。
その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる