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二章
第17話 元王妃は、忘れて帰る
しおりを挟むルベルトが自分の城へと帰ったのち、私は家の整理を進めて、その日を終えた。
翌日も午前中は買い出しや掃除などに費やしたが、昼ご飯を食べて帰ってきたら、いよいよ一階の作業場に移る。
庭の手入れなど、こだわりたいことはまだまだあった。
だが、ここに住まわせて貰う以上、仕事もきちんとこなさなくてはならない。
私は、ケースに入った百本近いガラス瓶を横目に、必要となる材料が揃っているかを指さし確認して、一つ頷く。
「……なかなかの量ね」
今回の依頼は冒険者ギルドからであり、「たくさん体力回復ポーションを用意してほしい」という端的なものだった。
薬師が不足している一方で、最近は街の近くから入れるダンジョンに潜る冒険者が増えており、ポーション類が不当に高価になってしまっているらしい。
納品期限は二週間後と聞いているが、できるだけ早く納品したほうが全員のためになるだろうから、まずは少しでも早めに取り掛かっておきたかった。
体力回復ポーションは、服用することで疲労の回復などに効果が見込まれる。
その基本的な材料は、水、グロウという薬草の根、それからカイノという海中で拾うことのできる緑色の魔石をすり下ろした粉だ。
これをベースに色々なものを足し合わせることで、発現する効果を変えることもできる。
今回はひとまず少量で、シンプルなものを作る予定だ。
なぜなら、それさえろくに作ったことがないからである。
材料の分量などは把握していても、実践したことはない。
だから私は記憶を辿りながら、手順どおり慎重に作業を進めていく。
そうしてできた一つ目の出来は、それなりのものだった。
発光具合で、おおよそのランクが分かるというが……
「うーん。どうなのかしら、これは」
これが実物をあまりまじまじと見たことがない弊害だろう。なんとも判別がつかない。
一応、輝きがあるからには、失敗ポーションでこそない。
が、すごくいい出来というわけでもなさそうだから、工夫次第で、よりよいものができる。そんな気がしていた。
私はグロウを水に煮出す時間を変えたり、カイノを入れるタイミングを調整したりしつつ、ポーションを次々に作っていく。
そのうちに気づけば、すべての瓶が埋まることになっていて……
改めて見返してみれば、だんだんと輝きが強くなっていた。
最後に作ったものと最初のものを比べれば、かなり差がある。
ただこれがどんなものかは、もう納品して見てもらうしかない。
そう思ったのだけれど、はっとして窓の外を見れば、もう真っ暗になっていた。
どうやら集中しすぎてしまったらしい。
そのため仕切りなおして、翌日。
私はポーションの入ったケースを抱え、ギルド館へと向かう。
そして一階のすぐ脇にある冒険者ギルドのカウンターに、そのケースを乗せれば、まだなにも言ってないのに、受付嬢さんは驚いた顔をしながら、そそくさと後ろへと下がっていく。
大荷物すぎたかしら。
そう思っていたら、奥からはすぐに別の男性職員が出てきた。その名札部分には、鑑定班と書かれてある。
「……これは」
その男性職員も驚いたように目を丸くして、ケースをのぞき込み、次に私の顔を見る。
「前にご依頼いただいていた体力回復ポーションです。出来はまちまちですが、百本作りました」
「た、たしか二週間後って話でしたよね。こんなに早く、こんな量をお持ちいただけるなんて……」
「えっと、まずかったですか?」
「逆ですよ。早すぎるんです」
「でも、一つ一つ作ったので、そこまで効率的じゃないかと……」
「これを一つ一つ!? 普通、いくら分量が分かってても、これだけの量を調合するのはなかなか大変なんです! と、とにかく、奥で確認させてください!」
男性職員がポーションケースを持ち上げて、裏へと下がっていこうとする。
よろめきながら運ぶものだから少し心配しながら、それを見送る。
そのまま、しばらく。
「お待たせしました。どうぞ、こちらへ」
その男性職員に案内されて、私はカウンター奥の部屋へと連れていかれる。
そこに待っていたのは、ポーションの入ったケースと、積みあがった金貨だった。
「えっと、これは……」
私は促されて、戸惑いながらも席に着く。
「このたびは、本当にありがとうございました! 素晴らしいポーションばかりですよ。金貨二十枚で引き取らせてください」
「……そんなにいただけるのですか?」
二十枚もあれば、少なくとも数か月は衣食住に困らない大金だ。
試作品的な意味合いもあった今回のポーションで受け取っていい金額ではない気がする。
「もちろん。あ。なにも、ルベルト様のご友人だからという査定ではございませんよ」
別に友人でもなく、取引相手という感じだと思うのだが、それはともかく。
「たしかに、この手前のほうにあるポーションは、輝きの具合から見て、低級ポーション。普通程度のランクですので、銅貨五枚程度です」
うん、まぁ納得がいく価格だ。
「が、後半にかけてのポーションは中級から上級程度のクオリティがあります。このあたりは一本で、銀貨五枚ほど。低級の十倍の買い値にさせてもらいました。普通、このランクのものは、かなりの腕がないと作れません。薬不足の中ですから、本当に助かります」
手探りの改善が思ったより、いい方向に働いてくれたようだ。
私はほっとすると同時、どうしても気になって、まずは一番手前にあるポーションを指さす。
「これは、低級ですよね。どこからが低中級になるんですか」
評価基準をどうしても知りたかった。
本に書いてあった判断基準が、実際にはどの程度の輝きになるのか。今しかそれを把握するチャンスはない。
「えっと、このあたりでしょうか……?」
「なるほど。やはり発光具合の鈍さですか。若干、ぼんやりしている感じがするから?」
「えぇ。えっと、あの査定がご不満でしたか?」
そんなわけがない。むしろ評価されすぎだと思っているくらいだ。
だから、私は口元に手を当てて、思わずくすりと笑う。
「ふふ、違います。ただ、鑑定班の基準が気になって。教えてくださいますか?」
「そ、そうでしたか」
「では、この瓶とこの瓶の違いは――」
私はなぜか顔を赤くして、たじたじとするギルド職員に、次々に質問をぶつけていき、ペンを借りると次々にメモをしていく。
そうして約一刻ほど。
私はしっかり評価基準を把握したうえで大変満足して、冒険者ギルドを後にした。
なお、報酬となる金貨のことをすっかり忘れており、あとからさっきの職員が蒼白した顔で追いかけてきたのだけれど。
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