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二章

第29話 そんなことできるわけないでしょう

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要するに、自分が犠牲になるから今のうちに逃げろ、と。ルベルトは言っているのだ。

「……そんなことできるわけないでしょう」

思わず、私は本音を呟く。

だいたい、犠牲になるなら普通は逆だ。
王子を救うために私が犠牲になるべき場面であって、私のために彼が死ぬなんて、どう考えてもおかしい。

元旦那であるローレンなら間違いなく、私を切り捨てている。

「いいから行け」

だのに、ルベルトは自分の身をいっさい顧みもしない。
私を守るためだけに戦ってくれている。

冷徹なんて大嘘で、なんなら心優しすぎる。そんな人間を見捨てられるほど、私は冷徹な人間ではなかった。

そんなふうにして生き延びたって、なんの意味もない。
それは、胸元に下げたこのネックレスが、ジールがそう思わせる。

それに、この状況なら、まだやりようがあった。


私は薬箱を取りだすと、そこから一本の瓶を取りだして、蓋を開けると、蛇の口元へと注ぎ込む。

すると、大蛇は途端に苦しみだした。
ルベルトの手に籠もる力も弱っていたのだろう大蛇は、頭に剣が刺さったまま、後ろへ後退しながら、のたうち回る。

一方のルベルトは、かくっと片膝をつくから、私は支えに入る。

「……なにをした」
「神経毒です。ねずみ退治グッズにつかっていた痺れ毒です。毒蛇でも、効くみたいですね」
「そんなものがあるのか」
「えぇ。人が飲んでも、ほんの少量で身体が麻痺する強力なものですから。あれだけ飲ませれば、あの身体の大きさでも、しばらくは苦しむことでしょう。それより、傷口を貸してください。毒を落としますよ」

私はそう言うと、水の魔法を発動して、その傷口を洗ってやる。

「……しみるな」
「少し我慢してください。今から焼きますが構いませんか」
「……あぁ、やりたいようにやってくれ」

了承を得て、私は自分のナイフを抜くと、その刀身を魔法で灯した火で炙る。

そのうえで、彼の腕に強く押し当てた。
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