料理男子、恋をする

遠野まさみ

文字の大きさ
上 下
6 / 46
恋をしよう

再会(3)

しおりを挟む
「…え?」

「それ。なんか駄目になったんでしょ?」

それ、と言って、彼女は佳亮が持っているバッグを指差した。

「あ、ああ…。卵が…」

聞かれるままに答えると、彼女は、そう、と言って、手に持っていたらしいキーホルダーをちゃり、と鳴らした。

「コンビニまで連れていくわ。私の所為かもしれないし」

「へ?」

彼女の言葉に佳亮がぽかんとすると、だって、と彼女は申し訳なさそうに言った。

「だって、私と目が合ったから、鞄落としたちゃったんでしょ? 何か申し訳ないから」

言われて、先刻の状況を認識してしまい、佳亮はぱあっと顔に熱が広がるのを感じた。そうだ、先刻のは、佳亮が彼女のことを見ていて、それでこの人と目が合ってしまったということなんだった。

「あ…っ、いや、すみませんっ。ちょ、ちょおぼんやりしてただけで…」

「うん…。まあそうかもしれないけど、驚かせたのかなって思って。だから気にしないで。もうスーパー閉まってるし、コンビニで良いでしょ?」

ちゃりちゃりっと小さな金属音をさせて、彼女がキーホルダーを振る。そして指差した方向は、マンションの前に設けられた駐車スペース。…あの車に乗るってことなのだろうか?

「…っ、いやっ、いいですいいです。ホンマに僕の不注意だけなんで。それに、コンビニなら歩いていけますし」

「そお? …じゃあ付き合うわ。やっぱり、なんとなく悪いから」

ええっ!? いいです…、と言ったけど、最終的には彼女に押し切られてしまった。
しおりを挟む

処理中です...