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清泉皇帝
(6)
しおりを挟む麗華はそっと床に刺された刃に近づくと、その場に膝をつき、そうっとその太刀に触れた。ひやりと金属の冷たさが伝わってきて、これでアギの人たちの命を奪うのかと思うとぞっとした。
それでも清泉に請われたら読まないわけにはいかない。じっと刃からの冷気を感じ、それを頭の隅々まで行き渡らせる。
草原の中、大勢の人々の中でこの太刀が振るわれる風景が浮かび上がってきて、これが戦争なのか、と身を震わせる思いだった。
その怖れを身に取り込み、麗華はサイコロを天井高く振り上げて、星の盤上に転がした。
麗華は臣下たちがしんと静まり返った宮殿でサイコロは、トン、コロコロ……、と転がり、示された星を読む。
「部隊の南東、北東に位置する部隊に凶星が出ています。部隊の入れ替えをした方が良いかと」
南東の部隊は武家、北東の部隊は胡家の部隊だった。名指しされた二人は顔を真っ赤にして激怒した。
「おのれ、奴隷の血を引く小娘ごときの遊びで、我らの力を見くびるつもりか!」
「当たりもしない星読みで、我らを侮辱した罪は重いぞ!」
立ち上がって麗華の方へ進み出てくる二人に構わず、続けて宮廷、つまり皇帝の星を読む。
「宮廷は、北、つまり宮廷の北の後宮が安泰であればいくらでも立て直せると出ています」
この読みに、皇帝が瞠目して、ほう、とひと言呟いた。しかし、先ほど馬鹿にされた二人は怒り心頭だった。
「女を守って国が勝利を得られるものか!」
「ふざけた占いをするな!」
武郭が麗華の胸倉を掴み、張り手を喰らわせようと手を振り上げると、麗華はその暴力から目を逸らして歯を食いしばった。するとパシンという音とともに麗華の胸倉を掴んでいた手がほどけ、いくら経っても頬を殴られることはなかった。
身構えていた状態から目を開けると、武郭の手首を捻り、振り下ろしたらしい手を剣の鞘で受け止めていたのは、なんと冷帝だった。
「……へ、……陛下……」
思いもよらぬことだったのか、武郭が目を見開いて皇帝を見る。皇帝は口許に冷ややかな笑みを浮かべてこういった。
「武郭。この娘の星読み、あながち外れてはいないかもしれぬ」
「なんですと!? 後宮で子でも成されたか!」
ええっ!? そんなことはない筈だけどな!? だって依林から聞くだけでも、陛下が後宮に渡ったのは麗華に会いに来たあの一回だけだそうだ。そしてあの時、麗華とは何もなかった。
麗華の動揺など知らぬ冷帝は、口許に凍りそうな笑みを浮かべたまま武郭と麗華と、それからそのほかの大勢の臣下を置いて、玉座から去って行った。
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