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清泉皇帝
(11)
しおりを挟むサイコロを高く振り上げ、盤の上に落とす。コロコロ、と転がったサイコロは、やはり星の盤上に清泉皇帝の凶星の後ろの大きな吉星を示した。
「今の政はそのままでいればやがて吉星が出てきます。代理の皇帝を立てるなどの運命を変える政は、国を滅ぼします!」
麗華が後宮に響き渡る声でそう言うと、顔を赤くしてわなわなと震える武郭が刀を振り上げた。
「ええい、小娘! 政の邪魔をするな!!」
「キャっ!」
ブン! と刀が振り下ろされる音がしてガキン! と左胸に衝撃を受けた。麗華は振り下ろされた刀の力で吹き飛ばされ、床に倒れ込んだ。
「う……っ!」
衝撃に痛む左胸を抑えると、血は一滴も出ておらず、その代わりに懐に忍ばせておいた大事なものが砕けていた。
……五年前、洞で出会った少年に貰った、綺麗な鏡……。砕けて、粉々になってしまった……。
麗華の瞳からぽろりと涙が落ちる。
大事にしていたものだった。
あの少年が、「きっと君の占いを真実にして見せる」を言った日から、麗華は更に星読みに力を入れてきた。
彼は読んだ星の通り、仲間に助けられて運命を切り開けただろうか。今この時まで続いていた麗華の負けん気の源である彼に、そう思った。
「小娘、何か仕込んでいたか!」
此方も殺気だっていた胡瑞博が武郭に続いて麗華に向けて刀を振り下ろす。今度こそ駄目だ! と思った時に、また、ガキン! と金属が弾かれる音がした。
床に倒れたままになっていた麗華と武郭や胡瑞博の間に立ち塞がったのは、艶のある黒の髪を靡かせた男だった。
男は背に麗華を庇い、武郭たちに立ち向かっていた。何時の間に現れたのか、四人の周囲には軍の兵士がずらりと並んでいた。
「お、お前は……っ!」
武郭と胡瑞博が驚愕の目で男を見る。男は冷静な声で武郭たち二人に告げた。
「武郭、胡瑞博。お前たちを、皇太子暗殺未遂で捕縛する」
その声に聞き覚えがあった。たった今さっきまで、麗華と一緒にお茶を飲んでいた、星羽……。
「こ……、こうたい、し、……あんさつ、みすい……?」
呆然と麗華が呟くと、武郭が手に持っていた刀を床にガキンと突き刺した。
「くそう! 殺(や)りそこねていたのか……っ!」
呻きながらその場にくずおれる武郭とその場に呆然と立ち尽くす胡瑞博。そして麗華は、布(ベール)を取り払った星羽の様子をただただぽかんと眺めるしかなかった……。
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