星は五度、廻る

遠野まさみ

文字の大きさ
30 / 31
星は五度、廻る

(2)

しおりを挟む

「あの頃はまだ子供で、子供の読みしか出来なかった……。それがあの子の命を奪ったかもしれないと思うと、もう一度会えたら今度こそちゃんと読んであげたいという気持ちが芽生えて……、それで練習に励んできました……。
頂いた鏡を見て、絶対にあの子は死んでないって信じようとしてました……。毎年あの日にあの場所に行って、会えなかった時に、もうこの世に居なかったらどうしようって思ってました……」

毎年森の草原近くのあの木の洞を訪れては日暮れに肩を落として帰って来た。その時間が終わろうとしている。
あの日、あの洞で少年の目を見つめた時の鼓動が蘇って……、いや、それ以上に麗華の心臓は明星を前に激しく打っていた。

「……こんな形でお会いできるとは思いませんでした……」

こうべを垂れると、明星が麗華の頬下にそっと手を触れた。顔を上げるよう促されて上げると、透明な黒の瞳に捕らわれる。

「結果として約束は果たせなかったが、私も麗華殿とこうして会えて、心から嬉しく思う」

明星は穏やかに微笑むと、麗華に顔を寄せた。顔が近づいてきたので、恥ずかしさに麗華がぎゅっと目を瞑ると、ちゅ、と小さな音がして瞼に湿った感触が残る。……以前もやられた。これは……。

「……っ、……明星さまは星羽さまの姿で、私を揶揄われていたのですね……」

自分に女知音の気があるのかと悩んだあの時間を返して欲しい。そう思っていると、明星は優雅に微笑んだ。

「麗華殿を揶揄う意思などこれっぽっちもないぞ。……全て、本気ゆえの行動だからな。……麗華殿が嫌でなければ、私は立位したのち、麗華殿を后に迎えようと思っている」

意志の強い黒の瞳が麗華の翠の瞳を見据えた。そんな未来まで描いてくれただなんて、心が震えてしまう。

……でも麗華は明星に伝えてないことがあるのだ。その未来はない。
麗華は星羽が明星だと名乗ってから初めて、俯いた。

「……明星さま……。私は后になることは出来ません……」

俯く麗華に明星は、何故だ、と問うた。

「……申し上げていなかったのですが、……実は、私は双子の姉妹の妹です……。忌子なのです……。そんな人間が、后になんて、なれません……」

明星から求められて確かに嬉しいのに、明星と共に歩む未来がないことが悲しい。麗華がうつむいたままで居ると、明星はこう言った。

「双子の末子が忌子だという迷信も、もうそろそろ捨てても良(よ)いと思う。現に麗華殿は私の星を読むことで私を救ってくれた。……詞華国の未来を切り開いてくれたのだ。そんな貴女が忌子である筈がなかろう?」

「明星さま……」

明星の言葉に麗華は思わず顔を上げた。穏やかに微笑むその笑みは、後宮に入ってからずっと麗華に向けられていた笑みだった。

「麗華殿、もう一度問う。私の、后になってくれないだろうか……?」

真剣な瞳に、この人について行くと決めた。

「はい、明星さま……。ずっとお側にいることをお約束致します……」

麗華が答えると、陽の日差しのような笑みが返った。五年前に見た少年の面影が、其処にはあった……。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...