降りしきる雪をすべて玻璃に~大正乙女あやかし譚~

遠野まさみ

文字の大きさ
5 / 45
雪月との出会い

雪月-1

しおりを挟む

華乃子は新しい職場に対する不安と共に文芸部の部屋の扉を潜ると、頭を下げて挨拶をした。

「鷹村華乃子です……。よろしくお願いします……」

頭を下げたままでいると、文芸部の編集長は満面の笑みで迎えてくれた。

「いやあ、我が社の気鋭のモボ・モガ通である鷹村さんを我が部に迎えることが出来て嬉しいよ。うちの部で是非作品を華やかにして欲しい。ささ、こっちへ来て。先生を紹介しよう」

そう言って応接室に促される。部屋の一角に衝立で囲われた其処には、やさしそうだが白い顔をした風貌の男性が座って居た。

人の良さそうな月のカーブを描くやさしい双眸。眉はやや困ったようにㇵの字を描いている。鼻筋はすっと通っており、唇は薄くおだやかな笑みを浮かべていた。前髪が中央で左右にふんわりと分かれていて、やわらかい髪の毛は彼がお辞儀をするとさらりと顔の輪郭に沿って流れた。

「こんにちは。雪月(ゆづき)と申します。お世話になります」

自己紹介をしてお辞儀をする声が若干弱々しい。白い顔も相まって病弱な感じを受け、自分はこの人の体調管理も任されるのだな、と感じた。仕事の内容を紹介されても居ないのに、既に仕事を見つけてしまって、それが流行の最先端でないことに、華乃子は少し心の中で下を俯き、嘆息した。

「初めまして、鷹村華乃子です……。文芸部とは畑違いの婦人部に居たので、先生のお力になれるかどうか分かりませんが……、が、頑張りますのでよろしくお願いします……」

作家の先生と担当者とだったら、先生の方が上だ。それなのに華乃子が頭を下げると、そんな、僕の方こそお世話になります、とまた頭を下げられてしまう。

「僕には芥川先生や漱石先生、子規先生方のような文才はありません。どうか気楽に接してください」

そういってぺこぺこと頭を下げる。華乃子は『作家先生』の想像図を覆されて、ぽかんとした。どうやら雪月は、自分を謙遜してしまう性質の人間であるらしい。

ひょろりと細い腕が着物の袖から見える。原稿料が足りなくて栄養が摂れず健康状態のよくない作家はいくらでも居ると知っているから、取り敢えずは安くて栄養豊富な食事からなのだな、と華乃子は思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛
キャラ文芸
ときは平安。 ひっそりと佇む邸の奥深く、 祓い姫と呼ばれる不思議な力を持つ姫がいた。 ある雨の夜。 邸にひとりの公達が訪れた。 「折り入って頼みがある。このまま付いて来てほしい」 宮中では、ある事件が起きていた。

なぜか水に好かれてしまいました

にいるず
恋愛
 滝村敦子28歳。OLしてます。  今空を飛んでいたところをお隣さんに見られてしまいました。  お隣さんはうちの会社が入っているビルでも有名なイケメンさんです。  でもかなりやばいです。今インターホンが鳴っています。  きっと彼に違いありません。どうしましょう。  会社の帰りに気まぐれに買ったネイルをつけたら、空を飛べるようになって平凡じゃなくなったOLさんのお話。   

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~ その後

菱沼あゆ
キャラ文芸
咲子と行正、その後のお話です(⌒▽⌒)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

処理中です...