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雪月との出会い
雪月-3
しおりを挟むその夜、華乃子は自室で借りてきた本を読んでぽろぽろ泣いていた。雪月のお話は全て人間とあやかしの悲恋の物語だった。あやかしと言う現世(このよ)であやふやな生き物に惹かれたがために人生の破綻に追い込まれていく人間たちと、人間と言う存在に好意を抱き続けるあやかしたちが人間に翻弄されてながらも、その身が消えるのを覚悟で愛を紡ぐその物語……。その悲しいまでに魂と魂が惹きあう様に涙が零れて仕方がなかった。
――「弧十朗さん! 貴方が私にしか見えなくても良いの……! このまま一緒に炎に焼かれて、永遠に私にだけ見えていて……!」
――「美里さん……。そんなことをしたら、君の人生が狂ってしまう……! 僕は魂となって時を渡ります。何時か……、何時か今度巡り合ったら、その時こそ結ばれましょう!」
――そうして弧十朗は己の妖力を現す残った二本の尻尾のうち、やけただれた一本の尾を千切り、変化(へんげ)を解いた。そして最後の妖力で美里をめらめらと燃え盛る炎の中から守り、助け出すと、周囲の人々が自分たちを化かしたとして、ただの狐と化した生き物(こじゅろう)に刃(やいば)を向けて彼を殺しまうのを止めることも出来ず、美里は業火の傍で泣き崩れるのだった――。
「なんて切ないお話なの……。出会っていなければこんな運命を辿ることもなかったでしょうに……。それでも出会って愛し合わずにはいられなかったんだわ……」
雪月はどうしてこんな風にあやかしのことを想像したんだろう。華乃子は今まであやかしなんて、いっそのことこの世から消え去ってくれた方がいいとさえ思っていたのに。だって今も、本を読んで泣いている華乃子の足元に座って『華乃子を泣かすとは許すまじ、人間め!』とか言ってる猫又の太助(たすけ)や、零れる涙を体で拭おうとする一反木綿の白飛(しらとび)が読書の邪魔をしている。
「まとわりつかないで……。あなたたちが私の目の前に居るというだけで、私は憂鬱になるわ……」
視える事実を突きつけて、華乃子を否応なく沈鬱な気持ちにさせてくる二人のあやかしたちにそう言っても、二人はどこ吹く風だ。
『だって俺らの居場所は華乃子の傍だからな』
『そうそう。恩を感じたらその身を投じてでも恩を返す、が、あやかしの流儀よ』
そう言うが、華乃子は二人に対して何か大したことをしたわけではない。太助は鼠に尻尾を齧られて逃げているのを助けただけだし、白飛は屋敷の松の木に絡まって動けなくなっていたところを解いてやっただけだ。
『いや~、流石に尻尾が一本になったら化けるに化けられないからな』
『俺だって、松のとげとげの葉っぱに体が食い込んで痛かったんだよ』
そんなところを助けてくれた華乃子は、命の恩人だ、と言うのだ。子供の頃の、何も知らなかった自分に、それを助けたら後々苦労することになるから止めておいた方がいい、と言うことが出来たら、どんなにか良いだろう。それくらい、華乃子の日常はあやかしに邪魔されている。授業や仕事の最中だけでも大人しくしてくれるようになって、これでも生活環境は良くなった方だった。
「それにしても、雪月先生はあやかしに夢を見すぎだと思うわ……。あやかしって、こんなに聞き分けの良いものじゃないし……。なんといっても、自分本位で人の言葉なんか聞いてくれないんだもの……」
夢が見られるなんて、羨ましい。雪月のお話のようなあやかしに夢を見られるのなら、自分にどんな恋物語が待っているのだろうとときめくことが出来る。しかし、現実はそんな甘いものではない。あやかしと言葉を交わしただけで変人扱いされて、血のつながった父にさえ見放された。子爵家の長女でありながら、家の庇護を受けられずに孤独な暮らしをしなければならなかったのも、あやかしの所為。華乃子には、実際のあやかしが美しい生き物だとは、どうしても思えなかった。
雪月も、所詮あやかしを見たことのない人なのだろう。夢想で描くあやかしほど、本当のあやかしは良いものではないんですよ、と華乃子は心の中で呟いた。
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