11 / 27
オタクというもの
オタクの魂(4)
しおりを挟む*
図書室での勉強会からの帰り。電車に乗っているときにお互いの推しについて話すのは、もう日課になっていた。
「見てくれよ、このクロッピの生き生きとした顔! あのコラボ企画からクロッピがこんなに幸せそうな風景に居る写真を見られるようになったんだ! 俺は最高に幸せだ!」
梶原がスマホに表示させて鳴海に見せたのは、皇子ロリータの衣装を着たクロピーのミニチュアぬいぐるみが、カントリーかわいい衣装家具の展開で知られるシンバルニアファミリーのかわいらしいメルヘンチックな家の中にいる写真だった。今、SNSで、クロピーの華麗なる変身を遂げたフィギュアを使った写真投稿が相次いでいるそうだ。中でもこうした、かわいらしいディテールの背景雑貨や、ちょっとしたお茶会などのセッティングをされた背景の中に溶け込む皇子ロリータのクロピーが増えてきたのだと言う。勿論これらの写真に写っているミニチュアぬいぐるみは、この前の限定企画で販売されていたマスコットだ。
「あの限定企画は此処までクロッピの地位向上に益したんだな。俺もあんな変化を遂げるとは思ってなくて、今でもSNSでこんなにたくさんのクロッピたちが見られることが、夢のようだと思ってるんだぜ? いや、何度もほっぺたつねってるから夢じゃねーけど、でも今まであまりにも人気がなかったから、俺は嬉しくってよお」
スマホを持つ手が震えているのは、嬉しさでなんだろうな。わかるわかる、推しが陽の目を見ると、推してる自分たちが認められたような気持ちになるよね。分かるわー、その気持ち。
「ってことで、俺もクロッピのいい写真を撮りたいと思う。そこでだ。市原に是非頼みたいことがある」
「……また、どっかに付き合えって言うの……?」
今までの鬱屈を晴らすように、梶原は鳴海を自分の推し活に活用していた。まあそれは契約の内容に含まれているから仕方ないけど、ギブアンドテイクのバランスが偏り過ぎじゃない?
それでも、きらきらとした期待の目で鳴海を見てくる梶原を見ると、同じオタクとして嫌とは言えなくて、結局は頷いてしまう。ああ、私ってお人よし……。
そんなわけでまたしても週末に梶原に付き合って東京に来ている。いざ参らんと見上げた店舗は、ミニチュア家具のディテールで知られた、シンバルニアファミリーの店だ。此処へ出入りする客も、やはりピーロランドと変わらず女子子供が多い。梶原がちらちらと鳴海を見るので、仕方なしに鳴海が先導して店に入った。
「うっわ、すっげ……」
感嘆の呟きを発した梶原と、同じ感想を盛った鳴海は、この小さな家具たちに数多の女児子供の夢が込められているのだなあと知る。確かに課題図書だった赤毛のアンではこういう木のぬくもりを大事にした家具が使われていた記憶があるし、カントリー家具というジャンルは乙女チックな少女漫画に出てくることを知っている。
「俺もあの限定企画で買ったけど、クロッピのミニチュアぬいぐるみが手元にあるからこそ、皆がシンルバニアの家で遊ばせたりできるようになったんだよな~。でもシンルバニアの家や家具を俺が一人で買いに行くと変な目で見られるから、市原が居てくれてすげー助かる!」
そう言って嬉々として売り場を見て回り始めた梶原に、鳴海はついて行くだけだ。
「まず、個室が欲しいよな。そうすると、ベッドと机と椅子。後はライト。白木のこういう家具が、この衣装のクロッピにぴったりだぜ!」
鞄から出したクロピーのミニチュアぬいぐるみを、陳列されてある部屋や家具と照らし合わせて次々に腕に抱えていく梶原を見て、鳴海もふと並べてある家具などを見てみた。王宮住まいのウイリアムは、いつも大理石の柱とふかふかの絨毯、そして滑らかな肌触りのベッドに囲まれている。テリースも王宮の一角に与えられた自室で、同じような待遇を受けている筈だ。あまりにもレベルが違い過ぎてお話にならない。しかし。
「私の推しカプはこんなメルヘンな家には住まないと思うけど、これが唯一の家だと言われたら、やむなく居住するかもしれないし、私も推しカプの愛の巣があるというだけで、心は薔薇色に満たされるから、悪い提案ではないわね。しかし、梶原がシンバルニアを買い漁ってる事実からは、三次元には興味ないけど、私たちの場合は私が攻めで、梶原が受けに決定としか言えないわ……」
「だから俺のクロッピ(推し)は愛の巣とか必要ないし、息するように俺たちでそう言うこと考えんの止めろ!」
苦々しい顔で鳴海を見る梶原に、しかし罪悪感は覚えない。
「だって、己を顧みてみてよ。シンバルニアの家具を腕一杯に抱えてんのはあんただし、私はいわば梶原の保護者よ」
「保護者とか言うな。腐ったものの見方しか出来ねーやつがよ。お前も童心に帰ってみたらどうなんだよ。少しは清い気持ちで推しのこと見れるんじゃねーの?」
梶原に言われて改めて陳列棚を見る。メルヘンな家具。手仕事の跡が残るファブリック。どれもこれもが王都に住まうウイリアムとテリースには似合わないが、もし彼らが不意の暇(いとま)に地方の湖畔の別荘などに赴いたらどうだろう……?
(は……っ、意外といけるかも……!! 年老いた夫婦が管理する別荘に、愛し合いながらも王宮では身分差からなかなか親密な関係になれないウイリアムとテリースが愛を語らうには、緑豊かな湖畔の別荘なんてうってつけじゃない……!!)
一度妄想が始まると止まらなかった。二人で見上げた星空はどんなにきれいだっただろう。王宮での執務をこなすウイリアムがふと見せるやさしい眼差しを、木のぬくもり溢れる部屋で受け止めたテリースは? 暖炉の火が灯るあたたかい部屋で二人ソファに座ったりして、普段隣り合って座らないテリースが緊張しているのを、やさしく肩を抱いてウイリアムが引き寄せて……。それで? それで??
(ああっ、素敵だわ!! 貴族のウイリアムには木の部屋なんて似合わないと思ってたけど、意外とイイかも!!)
無言の鳴海に梶原は、少しは清い心になっただろ、と鼻息を荒くしたが。
「……梶原、GJだわ……。これからは田舎暮らしのウイリアムとテリースにも萌えられる……」
「そっちかよ!!」
梶原のご期待には添うことが出来なかったが、学校を離れた場所での会話は、二人の間に解放感をもたらし、意外と推しが一緒でなくても居心地がいいものなんだな、と思えるようになってきていた……。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる