ランジェリーフェチの純情少年と純愛青春

清十郎

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土屋朱美の章

第34話 愛し合いながらも結ばれない者たち

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(これまでのあらすじ……)

 愛するおばさんとの辛い別れを経た少年は中学生活の中で思いを募らせた少女と同じ道を歩み始めますが、高校3年の春、愛する少女は遠く異郷の土地で不慮の事故死を迎えました。その前後、少女の死に責任を感じるその少年の前に1人の少女が現れます。少年もまた次第に少女にひかれつつある自分に気づかされますが、かつての最愛の女性の死を引きずる少年はその葛藤に苦しみ始めます。少女との別れを決意した少年は少女を訪れます。対する少女もまたひとつの決意を秘めて、少年の引きずる過去を断ち切るために身体を投げ出したのです。そこで少年はようやく気づきました。愛する理恵子はずっと少年を見守っていたのです。それが分かった時、少年は理恵子に対する思いも含め、少年のために身をなげうった朱美に対して心からの愛を捧げようと思うに至りました。そして、遂に少年は女性自身と相対し、その美しさと神秘さに感動を覚えたのでした。

**********

 少女は、生まれて初めて味わった歓喜の官能に、何度も頭の中がはじけ飛んでしまいました。意識はありましたが、まったく慣れてもいない、あまりの激しい刺激の連続に、息も絶え絶えになってしまいました。

 少女もそれなりにオナニーの経験はありましたが、自分の感覚で触るのとはまったく次元が違いました。執拗に老たけたような少年の愛撫は、少女の想定を遥かに上回る歓喜をもたらしたのでした。

……しかし、しばらく横になって呼吸が整ってきて、ふと我に帰ると、部屋の中の不思議な静寂に気づきました。あれだけ激しく肌を重ね合わせた少年の存在が、まったく感じられないのです。

(え? ……慎一くん……? )

 起き上がった少女がその目に見たものは意外なものでした。少女の足元、ベッドの隅に、なぜか少年がうずくまっていたのです。膝をたたむように折り曲げて、両腕で頭を抱え、これ以上はないくらいに、少年は小さくなっていました。

「……慎一……くん? ……どうしたの? 」

 驚いたことに、少年は泣いているようでした。少女にはその理由が分かりません。

 少年は、ゆっくりと顔を上げました。その眼は涙でぐしゃぐしゃになっていました。しかし、少年の異常はそれだけでありません。真っ赤に腫らしているのはその瞳だけではなく、顔そのものでした。

 少女はこれまでも、果てしなく暗い悲嘆に暮れた少年の表情を何度も見てきました。しかし、明らかにそれとは違う、どちらかと言えば羞恥のような、狼狽のような、そんな少年の顔でした。

 後から思えば、その時、何も言わずに少年を優しく抱きしめてあげるだけで良かったのかもしれません。でも、いかに聡明な彼女とはいえ、それは無理というものだったかもしれません。

 彼女は素直な疑問を、少年に投げ掛けました。

「慎一くん、どうしたの? 」

 すると、突然、豹変した少年のナイフのように鋭利な言葉が帰ってきたのです。まさに、人が変わったかのような……。

「違う! きみは理恵子じゃない! 理恵子じゃないんだ……、うっ、ううっ……、そうなんだ、きっと、そうなんだ……。」

 少年の唐突な言葉が、少女の肺腑をえぐります。少女は驚きました。今更、少年が何を言っているのか分かりません。

 たった今までの、経験したことのない快感、恥ずかしくても、つい声を張り上げてしまう程のどうしようもなく甘美な官能、彼女は決して淫蕩な女子ではないものの、少年の執拗なまでの愛撫によって、初体験であるにも拘わらず、2度も逝ってしまいました。

 それほど少年は少女の身体を丹念に丁寧に愛情を込めて扱ってくれました。入れて出すだけの自分勝手な男とは違う少年に、少女は確かに自分に対する少年の深い愛情を感じ、幸せな気持ちを抱いていました。それが……。

「慎一くん、わたしは、今いそいで、慎一くんと結ばれなくてもいい。」

 少年は顔を真っ赤にして下を向いたまま、少女を見ようともしてくれません。

「わたしが慎一くんに再会した時、慎一くんの心の中にはもう理恵子さんがいた。でも、そんな慎一くんに、わたしはどんどん惹かれていってしまった。だから、慎一くんは今のままでいいの。わたしは、理恵子さんに誠実に向かいあっている慎一くんなか惹かれたのだから。」

 しかし、少年はなぜか激情的になって少女の話しを聞こうともしません。少女の語った中の「理恵子」というワードが、むやみに少年を刺激してしまったのかもしれません。

「うるさい! きみに何が分かる! きみは理恵子じゃない! 理恵子じゃないきみを、ぼくが愛せるわけがない! ぼくは理恵子のことしか愛せないんだ! 」

 少年はまたも少女にひどいことを言ってしまいました。少年には分かっていました。少女の言い分が正しいことも、自分が間違っていることも。そして、本当は土屋朱美を愛していることも自覚していました。今まではそれを認めたくなかっただけでした。

 でも、少女が自分のすべての殻を破り、自分に身ひとつで飛び込んで来た時、そのすべてをなげうった少女の行為に対して、少年は誠実に答えなくればならないと思いました。そして、自分が今ではこの少女を愛してしまっているということも自覚したのでした。

 だからこそ今回を最後に、少女の願いをかなえて別れよう、彼女に自分ができる最高の喜びを与えてあげよう、そう思いました。それが、少年の描いたシナリオだったのでした。しかし、最後の最後で、そのシナリオは崩れ去りました。

(な、なんで……慎一くん……今、確かに、慎一くんと心から分かりあえたと思ったのは、間違いだったの。わたしの錯覚だったの。)

 確かに、引き金となったのは彼女のあのイタズラと言葉でした。でも、すぐ我に帰った少年は彼女を喜ばせることだけに一心になったのです。そして、心から愛する彼女とひとつに結ばれたいと、少年自身がそう願ったのでした。

 しかし、最後の最後に、少年が自分のものを愛する彼女の胎内に収め、遂にひとつになろう、そう思った時、今まであれほど元気に固くなっていたものが……立たないのです。なぜか、立たないのです。

 どうしてよいか焦れば焦るほど、まったく立たないのです。自分でオナニーもできるし、たった今、彼女が口でもしてくれたのに、……どうして。

(……どうして! どうして! ぼくは彼女に応えなければならない! 彼女の誠意に心からの愛情を注がなければならない! それなのに……なぜなんだ! )

 それは、少年が彼女を大事に思うがあまりの故かもしれません。「……でなければならない! 」そう自らを追い込み過ぎた少年の結果だったのかもしれません。

 それは、まれなことではあるかもしれませんが、メンタル的に自分で自分を追い込んだ時の過度な緊張感が、そのような状況を生んでしまったとも言えます。童貞の少年が、初体験の時に無駄に頑張りすぎてうまくやれずに失敗する、そんなものでした。

 それは義務感、責任感というには、あまりに少年に対しては悲劇的でありました。インポテンツ……少年の頭にそんな言葉がよぎりました。情けなさのあまり、恥ずかしさのあまり、少年は泣いてしまいました。

 しかも、少年は卑劣なことに、自らのその現象を糊塗するために、別のもっともらしい理由を持ち出したのです。

 それまではあれほど少女のことをおもんばかっていた筈の彼が、最後の最後に自分の気持ちに嘘をついてまで自分を守り、彼女に対する裏切り行為をしてしまったのです。

 それは、客観的に見ても、もっとも卑劣な行為をしたと言えるものでした。

(やっぱり、ぼくは理恵子じゃなければダメなんだ……もう、ぼくは誰も愛せない、愛してはいけないんだ……。)

 少年はなぜかこの少女の前ではいつも萎縮してしまいます。なぜなら、この少女にはすべてを見透かされている、そんな気持ちになっているからです。

 少女の言葉は常に少年の痛いところを突いてくるが故に、そして、彼女を愛するが故に、萎縮した挙げ句に少年はいつも少女に反発して少女を傷つけてしまうのでした。そして、また今も。

 それを少女に対する甘えと言ってしまえば、それは少女に対しては余りに酷であったことでしょう。

 少女はそんな少年を本当に見透かしているのかどうか、少女は、少年の言葉に対する直接的な言葉でなく、自らの言葉で少年に応えます。堂々とした正論で応えます。

「慎一くん、そうやって、また逃げるの。いつまで理恵子さんを言い訳にして自分を守ろうとするの。」

 それはまさしく、正鵠を射ていました。そして、また、図星を言われた少年はむきになって反発します。しかし、まともに返す言葉は、もう少年には残っていません。

「きみに理恵子の名前を使われたくない。」

 しかし、言い返しながら、少年はどうして自分は彼女に対してこうも突っ張ってしまうのか、イヤな後悔の思いだけが、少年の心の中にに澱のようによどんでいきます。

「いいえ、理恵子さんなら私の気持ちを分かってくれる。誰かを愛しているひとりの女として、理恵子さんがもしここにいたら、絶対に私に力を貸してくれる。……絶対に。」

 少女の言葉は堂々として、少年にとっては完全に勝負がついたようにさえ感じられました。

「理恵子に会ったこともないのに、理恵子を知りもしないで、何が分かる。」

 またやってしまいました。少年の幼稚で不毛な反論です。言えば言うほどに少年はどんどん自己嫌悪に陥ってしまうだけでした。

「わたしには分かる。」

 少女は堂々と確信して話します。

「あなたはこれからずっと理恵子さんのことをウジウジと思いだしながら生きていくつもり? そんなこと、絶対に理恵子さんが望んでいる筈がない。」

 それに対して少年は何も答えませんでした。いいえ、少年は答えられなかったのです。すべては彼女の言う通りでしたから。

**********

 少女の家の玄関を開けて少年が出てきました。後ろから少女がついてきます。そのまま帰ろうとする少年に少女が声をかけました。

「慎一くん、……わたし、もう二度とあなたには会わない。だから、最後にひとつだけお願いしたいことがあるの。聞いてくれる? 」

 少年は振り返り、伏し目がちにこくりと頷きました。少女は一度、軽く深呼吸をして言いました。

「慎一くん、……最後に、……ぶん殴らせて。」

「え? 」

 一瞬、キョトン顔になった少年の左頬に、速攻で少女の拳が見事に炸裂しました。平手打ちではありません。グーパンチです。たまらず少年は通路に手をついて倒れてしまいました。

 そして、少年の目の前で仁王立ちした少女が、涙に瞳を潤わせながら叫びました。

「女をばかにするな! 女はあんたのアクセサリーじゃない! 」

 もともと慎一をアクセサリーにしようと近づいてきたのは彼女の方でした。少女もそれは自覚していただけに皮肉な捨てセリフになってしまいました。

 しかし、尻餅をついて、唇に僅かについた血を拭った少年は、何も言い返せませんでした。そして、少女はそこに座ったままの少年を残し、少年に対して永遠にそのドアを閉ざしたのでした。

**********

「うっ……うううっ……えっ……えっ……えっ……ううっ……。」

 その日、土屋朱美は布団の中で声をあげて泣きました。ほんのついさっき、少年と激しく愛し合ったばかりのベッドの上で、声をあげて泣きました。

「ううっ……バカ……バカ……うっ……バカバカ……あけみの、大バカ……。」

 少女はどうしようもなく少年を愛してしまったことを後悔しました。そして、軽い気持ちで少年に声をかけたあの日を憾みました。唯一、彼女にとって救いだったのは、少年も実は彼女を愛していると強く実感できたことでした。

「ううっ……りえこさん、ごめん……わたしじゃだめなの……うっ、うううっ……慎一くんを……ううっ……。ごめん……。」

 しかし、その慎一の愛が一層、彼女を苦しめたのも事実です。ならばどうして二人が結ばれないのか? 彼女の頭の中は結論の出ない堂々巡りで、一層、彼女の嘆きを深めるばかりでした。
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