Nora First Edition

第十五話

第15話 6

「…お前とゆっくり話がしたかっタ。
お前は…この世界をどう捉えル？

必死に生きるのにふさわしい世界だと思うカ？」



カナからの返事はない。
だが、グラムは足を進めながら言葉を紡いでいく。



「人間が楽に暮らせるからと、道具を作ル。
私も科学者の端くレ。

物を作りたい気持ちは痛いほどわかル。
だが、人間は必要以上に物を壊していク。

壊れていくそんな世界で必死に生きる価値はあるのカ？


人間のメスを無慈悲に苗床にしているのは、“あの方”を死に追いやったメス共の罰を他の愚か者が真似しているだケ。

オスを無意味に労働させているのは、我々に牙を向けないようにする為。


人間共に苦痛を用意ているのは、力の差を知らしめ…そして屈服させ、世界の支配権を完全に獣人側に置く為。



お前は、今の海を見たことがあるカ？
廃棄物による汚れた海も、今や前のような美しい青の海になっていル。


人間を管理していく過程で…私は、その海を見た瞬間に確信しタ。
生きていくに相応しい世界を汚しているのは、人間だということヲ。」



グラムは、そう力説する。
コツコツと足音が響き、カナを包む槍の棺桶の側までついた。



「人間側としてのカナは、今日をもって死ヌ。

この棺桶を出た頃には、獣人側のカナ…我が娘のとなっているだろウ。
なに、怖がることはない…お前はお前。

ただ、少し考え方を改めるだけダ。」




グラムは、そういうとカナにゆっくりと手を向けていく。



「相応しいとか相応しくないとか…自分にそんな小難しく話をしても、チンプンカンプンでス。


世界が汚れているのなら…自分は家族と一緒に綺麗にしていくだけでス。
大変な作業だとしても家族との掃除は、楽しいものですしネ！！」



そう言うと、回転しながらキーウエポンがカナに向かっていく。
キーウエポンは、槍の棺桶を粉砕するように突貫していき…カナの手の元に帰って行った。



「例え地の果てまでいようとも…キーウエポン使いは、キーウエポンを引き寄せられル。

それは…、アイク殿とサヤ殿に教えて貰ったことでス！！」


カナは、そのままキーウエポンを突き立てるようにしながらグラムに突進。



“エックス”


グラムはとっさに転移するが、カナには転移先が補足できる。
カナは、すぐに転移先を演算し振り返った。

剣先を地面に引き摺って振り返ると同時に振り上げる。



“技の一段”


振り上げた瞬間に剣先から炎の弾がグラムに向かって飛んでいく。



「…コネクト。
パターン、シールド。」



グラムがそう呟くと、槍が盾のように連結していきカナの攻撃を防いだ。
グラムは、攻撃を防ぐと再び大きな槍に連結していった。

「全く…兄弟揃って本当に本当に…頑固ダ。」


グラムは、その時に本当に悲しそうな表情を浮かべた。
カナも流石に意識を取られてしまう。


そんな隙を狙っていた訳ではないのだろうが、グラムは直ぐに戦意のある顔つきに戻る。




「…あの時は、勝ちを譲っタ。
アレの後には笑顔が広がるのを感じたから…だが…今度は譲らン！！」



グラムは、そう言うと槍を分裂させて次元の歪みに入れる。
転移のように出口の座標が無いためか、カナには槍の座標を捕捉できない。


グラムは、そのままカナに右手を向ける。




「オールファイア。」



カナの周りを全て覆うようにして、無数の槍が空間を貫いてきた。
カナの死角から始まり、ほんの少しの時間差をつけて避けにくいように。


グラムの予想通り、全ての槍が時間差で向かってくるせいで少しずつカナに被弾していく。
だが、グラムは生け捕りにしたいしたいためか、致命傷はさけ全体的に擦り傷になるように加減はしていた。



“エックス”


カナが疲れ果てて、膝をつく頃を見計らってグラムはカナの前に転移し拳を握っていた。




「おやすみ、人間側のカナ。

次に目を覚ます時は…攻撃した分…たくさん優しく撫でてやろウ。」



グラムは、拳をカナに向かって振り下ろした。