コバナシ

第5話

第5話 6

時は遡り、撤退した空達に場面は移る。
子供が人を2人も抱えて走る様はかなり目立っていた。


「空、私は大丈夫だから下して！」

「…師匠の所に戻らないって約束できる？」



普段の弱々しい雰囲気が一切ない空の声に、困ったように楓は息を大きくはきだした。


「優父様が苦戦するような相手に私が手助けしても足を引っ張るだけだし行くわけないじゃない。」



楓のその答えを聞いた空は少し間を置いた後にゆっくりと停止して楓を優しく離した。

楓の下した時に頭がある程度冷静になったようで、空はハッとした表情になり安全なのを確認した後にその場で女の人もゆっくりと下してその場で謝罪を始める。


「ごめんなさい、いきなり担いで走り出して。
怪我はありませんか？」


「大丈夫、気にしないで。
寧ろ助けてもらって助かったわ。」


女の人が柔らかく笑うと黒の瞳の色だった右目がいつの間にか青に変わっていた。
空の驚いた表情でハッと女の人は自分の右手で直ぐに隠す。


そして楓と空の2人を露わになっている左目で見つめる。



「…見ちゃった？」


女の人は諦めたように溜息のようなものをついて目を隠していた手を下す。
ゆっくりと開いた瞼から見えた瞳の色は黒に戻っていた。

戻った時の感覚が分かるようで、瞼をパチパチとさせた後に満足そうにうんとぼやく。


「びっくりさせてごめんね、私はルイ。
瞳の色が特殊なのは戦とエルトリアのハーフだからなの。

緊張したり気持ちが昂ると瞳の色が変わっちゃうんだ。」


困ったような表情で乾いた笑い声をあげながらルイはそういった。
ポリポリと無意識に搔いている茶色の髪の毛もその話を聞くと恐らく地毛だろう。


「驚いてごめんなさい。
僕は空で彼女は楓と言います。

今は安全な場所に行きましょう。」


「あ、安全な場所には覚えがあるわ。
…私についてきて。」


ルイはそういうと、先頭を歩きだした。
ルイの歳は25歳くらいで万事屋の仕事をしており依頼人に頼まれたものを届けに港町にきたらしい。

背負っている袋が無事でよかったとホッとした表情をしている。


「守秘義務があるから詳細は教えられないけど、受取人の代理で手練れの戦士を手配してくれるみたい。
少なくとも、ここの自警団よりかは頼りになるわ。」



そもそも、荒事担当がいないのがいけない…後で危険手当を請求しなければ。
イライラとした様子で右手の親指の爪をかじりだした。

大人は大変だなぁなんて考えていると、すごい速度でルイの持っている袋がひったくられた。
見覚えのあるマントの後ろ姿をみるにさっきの集団の仲間だろう。


「まて！！」


ルイはすぐに走って追いかけた。
彼女は力強く静止を呼びかけたが、勿論止まる気配はない。