26 / 31
一章『遺愛の指輪』
十三話
しおりを挟む「なっななな……」
「ああぁぁリオン君なんて羨ましいことをっ!」
「メルヴィエさん、うるさい」
「だってだってぇっ! 私が同じことやろうとすると物凄く嫌そうな顔するのに……」
「ところ構わず抱き着いて体中まさぐられれば誰だってそうなりますからね? ってか引き剥がそうとすればするほど鼻息荒くなるし、怖い」
「それは……愛が少し多めに溢れちゃうだけよっ」
「やめてホントに……」
そんなやりとりが間近で行われている中、葵に導かれるがまま細い腰へと手を回したリオンは、その中性的な美貌を驚愕と混乱に染め、初心な乙女のように耳の先まで紅潮させて言葉にもならないようなことを口走ってはわなわなと唇を震わせる。
見た目だけは付き合いたての恋人のような光景だが、当の本人たちは天と地ほどの温度差があった。
「密着面積が多ければ多いほど魔力を効率よく貰いやすいんですってば」
「まぁ、端から見たらただのバカップルだけどな」
「イケメンに抱きしめられるとか役得です」
「お主も大概欲望に忠実じゃな」
軽口を叩き合う葵たちは、地球での貞操観念が軸になっている為、こんな場面であっても通常運転だ。葵に至ってはリオンの体温を感じながら温かいなぁなどと寄り掛かる始末。類い稀なる美貌を持ちながらも、その境遇故に異性と触れ合うことに一切縁の無かったリオンが、今この瞬間にどんな思いをしているかなど微塵も考えていなかった。
息を吸えば甘く魅惑的な香りが鼻を擽り、カッと顔がほてるのを感じて呼吸が止まりそうになる。艶のある髪の隙間からちらりと見えるうなじは部屋の灯りを弾くような白さで、たちまち首から肩にかけて伸びるなだらかなラインに目が釘付けとなってしまった。
回廊で成人した男を軽々と抱き上げ走り抜けた人物とは到底思えない華奢な体躯。あの時はとにかくいっぱいいっぱいで考える余裕も無かったが、こうして改めて触れ合ってみると、力を強めたら壊れてしまうのではないかと思うほど頼りない細さをしている。
リオンはまともに化粧をした葵の姿を今日初めて見たが、自分の魅力を活かす化粧を施した彼女は非常にタチが悪いと感じていた。元々持った見目の幼さをあえて隙として残したまま、『女』としての妖艶さを引き立たせており、ずぼらで男らしい普段の彼女とは対極と言ってもいいほど女性らしいのだ。女性に慣れた男であっても目を引かれるだろう今の彼女に、恋愛どころか触れ合うこともなかった純情青年のリオンが意識せずにいられるはずもない。
今まで知らないでいた感情が、理解した途端にぶわりと溢れて身の内を焦がす。羞恥というだけではないそれに、もうどうしていいやらわからず、リオンは自分の胸にすっぽりと収まって寛ぎ始めた葵に視線を落としながら涙目になった。
「お嬢、リオンが泣きそうになってるから。早く済ませてあげて」
「えっ、なんで?」
「いいから、早く」
「はーい」
だんだんと顔色がおかしなことになっているリオンに気づいたノヴォは、ため息を一つ零しながら、リオンの腕の中でまったりとする葵を急かした。
リオンを座椅子代わりにしているかのような体勢だが、葵は特に顔を赤らめることなく眠そうにあくびを一つすると、ゆるゆると瞼を閉じてリオンから魔力を勝手に引き出し始める。
途端にリオンの体内がゾワリと粟立ち、思わず顔を顰める。女性特有の柔らかさにあわあわと頬を赤らめていたリオンも、体内から魔力が抜き出される気持ちの悪い感触にキュッと目を瞑り、葵を抱きしめていた腕にも自然と力が入る。
「《解析》」
葵はリオンの温かさを背中に受けながら、掌に乗せた指輪に視線を落として短く言葉を紡いだ。一瞬指輪が淡く光ると、葵の脳内に指輪の立体映像と共に硝子板のようなものが現れ、次から次へと情報が刻まれていく。
使われた素材や作られた世界の名前、付与されている魔術のみならず、指輪が辿ってきたであろう軌跡までが事細かに抜き出され、ずらりと並べたてられる。葵は瞼の裏に焼き付けられたそれを、しげしげと眺めながら必要な情報だけを拾っていった。
身体のどこかに文様が浮かぶ、鑑継の中でも後継に選ばれる者のみが扱える術のひとつが、この『《解析》』である。あらゆるものの情報を丸裸にし、一切の隠蔽を許さない。まさに神の瞳のような万能さを持った術だ。
数多の世界にも似たような魔術はあるが、どれもこれも表面をさらう程度の情報しか抜き取ることができない。しかし彼女の持つ『《解析》』は、そこにあれば何でも情報を抜き出すことが可能であり、それを阻止する手立ては今のところ魔力を封じるくらいしかない。たとえ封じられたとしても、葵の肉体は空気中から魔力を集めることができる特異体質の為、実質彼女が十全に術を行使できないのは、魔力の少ないこの地球のみである。
途方もない量の魔力を身の内に蓄えられ、尚且つそれをしながら狂わずにいられるという稀有な体質となったリオンを傍に置くことで、そんなデメリットも解消され、実質今の葵はこの地球、【龍脈の源泉】のある屋敷以外でも一定の魔術を使いこなすことができるようになったというわけだ。
ただし、魔法を使うとなったら今のように必ずリオンとどこかしら接触していなければいけないのだが。
「ふんふん……なるほどねぇ」
葵はバッグからメモ帳とペンを取りだすと、サラサラとペン先を走らせて手に入れた情報を書き写していく。内容はわかりやすく必要な部分のみに留め、書き終えるとメモを破いてロウへと渡した。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる