【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生2929回血迷った人

文字の大きさ
27 / 40

第27話

しおりを挟む
「僕は釣り合わないし、好きとかそういうんじゃないよ。だけど、佐々木さんって可愛いよね。上品だし、言葉遣いも丁寧だし」

 好きな人を褒められて嬉しくない人なんて居ない。
 僕だって、慎二が褒められてるのを聞くのは楽しい。

 しかし、好きな人の好きな人を褒めるって言うのはかなり複雑な心境だ。
 正直、佐々木さんがかなり羨ましい。僕も慎二に好かれたい。壁ドンだってされてみたい。会議室にだって連れ込まれてみたい。

 それでも、慎二が好きなのは佐々木さんだから。
 慎二の為なら、なんでもする。

「ははっ……それに、僕の為に色々と動いてくれて頼もしいって言うか……うん、頼りになる人だよね……」

 乾いた笑いが口から漏れる。
 僕って演技下手すぎない?

 慎二は俯いていて、表情が分からない。

 そう思って顔を覗こうとした時、僕の拳がミシリと音を立てた。
 慎二が僕の拳を強く握り締めたのだ。

「いたっ……」
「なんで僕の前で、佐々木のことを褒めるかな? しかも涙目になりながら、必死に可愛い顔して……」
「いたっ……いたいっ……」

 慎二が声を荒らげる。僕は拳の痛みで、涙が出てくる。
 
「痛いって……慎二、痛いっ……」

 声が届いていないのか、拳が解放される気配がない。

 何度も拳を引っ張ろうとするが、慎二の力はとても強く、ことごとく失敗に終わる。

 僕はもう耐えきれなかった。  

「痛いって言ってるだろッ!!! 手を離せッ!」

 部屋にパシンッという軽快な音が走る。
 空いてる方の掌がジンジンと痛み、慎二の後頭部を叩いたことに気付いた。
 しかし、止まらない。

「先に佐々木さんを褒めたのは慎二なのに、なんで怒るんだよッ! 慎二のバカッ! アホッ!」

 パシン、パシンと頭を叩く音が何度もする。

 そして、ふと我に返って後悔した。

「あ、ごめん」

 やってしまった。慎二の頭を叩くなんて……。しかもペシペシ何回も叩いちゃった。
 僕の手はいつの間にか解放されてるし、ここまでする必要なかったのに。

「那月……?」

 慎二は僕から後頭部を守る為、腕を頭に巻き付けていた。
 その間から、こちらを覗き込んでくる。

「ごめん……手、痛いよね?」
「う、ううん、大丈夫」

 慎二は一度、ふぅと息を吐き出す。

「とにかく今日は、一日安静にしてて。俺が看病するから」
「えっ? なんで?」

 それはまずい。今日は、予定があるんだ。

「なんでって、拒絶反応で倒れたんだ。今日は俺と二人で居た方がいい」

 慎二が申し訳なさそうな顔で僕の手に触れてくる。

 僕の心がチクリとする。

 今日のことで、僕の決意は更に固まった。慎二と佐々木さんの邪魔をしないよう早く別れよう。日曜と言わずに明日にでも。

 だから今日は、冬弥に会わないといけない。

「今日は夜、どうしても外せない用事があるんだ。だから、慎二も僕のこと心配してないで自分のことしてよ」
「那月が用事なんて珍しいね。誰と、どこに行くの?」

 丁寧な口調なのに、どこか怖い雰囲気がある。

「僕がどこに行っても、慎二には関係ないよね?」
「関係ないわけないだろ? 今日だって本当はそばに居るべきだったんだ。なのに俺が臆病だったから……。たから決めたんだよ。たとえ拒絶されても傍にいる」

 いやいやいや、勝手に決めないでよ!
 そういうのが僕は嫌なんだって。勘違いしそうになる。

「僕は嫌だ。四六時中、番に付きまとわれるなんて気持ち悪い」
「それでも傍にいる」
「だから、嫌だって! なんで、なんでそうやって……」

 優しくするの。

「那月? 泣いてるのか?」
「ううん、泣いでない」

 涙が止まらない。
 鼻を啜っていると、身体を抱きしめられた。
 
「ごめん、本当にごめん。泣いても手放してやれない」
「なんでだよ……」

 佐々木さんのことが好きなくせに……。

 悔しいのに、悲しいのに、それなのにこの腕の中は、どうしてこんなにも心地がいいんだろう。
 早く離れないといけないのに、どうしても安心して身を預けてしまう。

「とにかく夜は出かけるから……駅で彼氏と待ち合わせしてる」
「はっ? 彼氏ッ!?」

 耳元で唐突に大声を出され、キーンとする。

「彼氏がいるのか!? 俺以外に!」
「慎二は彼氏じゃないでしょ」
「いや、まあ、そうだけど。ってそうじゃない」

 慎二は僕から離れて、頭を掻きむしる。

「なんでそんなに驚くの?」
「そりゃ驚くでしょ。俺たちは番で、結婚だってしてる。それに俺は何度も、那月が好きだって言ってるよね?」
「でも僕たちは形だけの関係だよ? 始まりは事故だし、身体の関係だってない。だから、自由に恋愛しても良いんじゃない?」

 だから慎二が佐々木さんと付き合ってようが責めたりしない。

 そう言外に伝えようとするが、何故だか慎二の顔は青ざめている。

「とにかく僕はもう大丈夫だから。慎二はもう出て行って」

 その顔が見たくなくて、部屋を出ていくように言う。慎二は、魂が抜けたように椅子からユラユラと立ち上がり、部屋から出ていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人がキスをしてくれなくなった話

神代天音
BL
大学1年の頃から付き合っていた恋人が、ある日キスしてくれなくなった。それまでは普通にしてくれていた。そして、性生活のぎこちなさが影響して、日常生活もなんだかぎくしゃく。理由は怖くて尋ねられない。いい加減耐えかねて、別れ話を持ちかけてみると……? 〈注意〉神代の完全なる趣味で「身体改造(筋肉ではない)」「スプリットタン」が出てきます。自己責任でお読みください。

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

いくら気に入っているとしても、人はモノに恋心を抱かない

ちき
BL
一度オナホ認定されてしまった俺が、恋人に昇進できる可能性はあるか、その答えはノーだ。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

処理中です...